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Hand In Hand  作者: 和希
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「…からかって、たの?」


「え…?」


「私のこと、からかっていたの…?」


そう言った自分の声は情けないくらいに震えていて、でもそんなことを気にしていられる状況じゃなかった。


すぐ側にある、地下へと続く階段や、コンクリートで覆われた地面、道に植えられている木々までもがグラグラと揺れているように感じる。


風邪は治った筈なのに、熱なんてない筈なのに、頭がガンガンと痛んで


私の中で何かが壊れていく。


平常心だとか冷静さだとが、今まで必死になって保ってきた『私』がガタガタと音を立てて壊れていく。



「…違っ」

「ふざけないで!」


否定しようとした彼の言葉を遮り、大声で叫ぶ。

喉が、目が、脳が、焼けるように熱い。


違うと否定されてもそんなの簡単に信じることなんて、できない。


だって、からかっていないというのなら、何故私に遼のことを話させたの?

知っていたのなら、私に言わせる必要なんてどこにもないじゃないか。

ツラい過去を手繰り寄せてまで、コイツに話す必要なんて、欠片だってないじゃないか。



「話を聞いて、楓ちゃ…っ」

「うるさい!離して!」




整理がつかないグチャグチャの感情をぶつけるかのように、コイツの腕の中から抜け出そうと暴れる。


周囲の生徒達が訝しげに私達のことを見るが、そんなこと、後先のことを気にする余裕なんて私にはなく、ただコイツの側から離れるのに必死だった。


からかわれていただとか、馬鹿にされていただとか、そんな言葉が頭の中を渦巻いて、正常な自分を取り戻せない。


悔しかった。こんな奴に話してしまった自分が、私を、遼を馬鹿にされてしまったことが堪らなく悔しかった。


おかしいと思っていたのに。


誰からも好かれる人気のあるコイツが、私みたいな人間を構うこと自体、おかしいと思っていたのに、どうして『本気』だと思ってしまったんだろう。


何でコイツに話してしまったんだろう。



(…っ悔しい)


悔しい。こんな自分が。


あれだけ遼だけを想って生きていくと誓ったのに、簡単に騙されてコイツを好きだと思ってしまった自分が、堪らなく悔しい。



「聞いて、楓ちゃん!俺は…」

「も、やだ…っ!」


知っている。

私なんかよりも不幸な人が世界には沢山居ることを。


私はこれでもまだ幸せな部類に入る人間だってことも、ちゃんと知っている。




でも、だけど、思わずにはいられない。



「──もう、いやだよ…っ」



どうして私ばかりがこんなにツラい思いをしなくてはいけないのかと、


どうしてこんなにも不幸なんだろうと、



「誰か、助けて…─」



そう思わずにはいられない。



痛みは私が遼を忘れていない証拠だと、遼を覚えている証拠だと、そう思っていたけれど


そんなの本当は建て前でしかなかった。


だって、そう思わなければ、そう信じなければ、私は押し潰されてしまいそうだったから。


遼を失った痛みに、遼に会えないツラさに、押し潰されてしまいそうだったから。





『誰か、助けて…─』


あれだけ他人を遠ざけて、拒絶し続けてきたけれど、本当はずっと、


『助けて』って

『独りにしないで』って


ずっと、心の奥底で叫び続けていた。


『永遠』を否定して、そんなものはこの世界にないって分かっているけれど、本当はきっと、誰よりも強く


私が『永遠』を望んでいた。



遼のように消えてしまわない、私を独りにしない


そんな唯一無二の存在を。



強く、強く、望んでいたんだ…─。









でも、私がそう思う度に




『─…楓』




そうやって、私の名前を呼ぶ遼の声が聞こえてきて、


「──…っ」


私は酷い罪悪感に捕らわれてしまう。


包帯で巻かれた遼の痛々しい最期の姿が私の頭をよぎって、私だけが助かるような真似なんて、できないと思ってしまう。


たった15歳で死んでしまった遼。


それは、どんな気持ちだったのか。


薄れていく意識の中、自分の血で自分の体が濡れていくのは、確実に死に近付いていくのは


どんな気持ちがしたんだろう。


怖いとか苦しいとか、そんな単純に言い表せるものではなく、きっと想像なんてできるようなものではなく……そう思うと胸が痛みで千切れてしまいそうになった。


比喩とか、たとえとか、そんなんじゃなく、


本気で息ができなくなる。


心臓をまるで誰かに鷲掴みにされたかのように、激痛が私の中を駆け抜けて、目眩がする。




(─…あ、ヤバい…)


その感覚を私は幾度となく経験していて、いつもはその場にしゃがみこんでその感覚が去るのを待っていた。そうやって対処していた。





でも、混乱して感情が高ぶっているせいか、今日のそれはいつもとは違って


(─…あ、れ?)


光がなくなる。

目の前が真っ黒に染まって、


暗闇に吸い込まれていく。



(ダメだ…)



これ以上は、もう立っていられな……─。









「楓ちゃん…!」





薄れいく意識の中で響いたのは、矢島 圭介の声と



何かに包まれた

温かい感覚だけだった。





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