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彼の声を、言葉を、キスを、体温を、忘れたくないとどれだけ願っても、時間は否応なしに流れていく。
記憶に遼をいくら焼き付けようとしても、記憶は薄れ 彼と過ごした思い出さえも消えていく。
時間は誰にでも平等に流れ、止まることを知らない。
私の悲しみを、ツラさを、痛みを、少しも気にすることはない。
私の記憶の中だけで、生き続ける遼。
だけど、私は成長する。
遼は15歳のままなのに、私は、確実に年を取って大人になって、どんどんどんどん遼から遠くなる。
それはどうしようもないことだ。
私が生きている限り、変わらない事実。
こんなに暗くて苦しい想いをするくらいなら、いっそ死んでもいいと思った。
そうすれば、遼に会うことができて、この色を失った世界から抜け出せる。
だから何度も、死にたいと思った。
でもそれは、できなかった。
恐怖とか周りが悲しむとか、そんな理由からじゃない。
遼は生きたかった筈だから。今ここに、この世界に居たかった筈だから。
だから、
生きてみようと思った。
遼が生きたかった筈の今を、遼の代わりに、遼の分まで、私が生きていこうと思った。
だけどたまに、胸が詰まるような想いがして、ツラくなる。
冬から春へ、春から夏へ、そうして季節が巡って遼の死から一年半が経ったけど、
相変わらず色を失ったままの世界に、
生きている意味が分からなくなる。
だから、遼が居なくなってしまったこの世界で、生きる意味が欲しかった。
本当は生きている意味なんてないのかもしれない。あるいは、生きているということが意味であって、意味があるから生きている人間なんて居ないのかもしれない。
でも、弱い私には、縋る何かが欲しかったんだ。
遼以外、誰も好きにならないと決めたのは、遼の全てを忘れたくなかったのと同時に、
『遼を好きでいること』に、生きる意味を見出したかったのもある。
他の誰かを愛することが、遼を裏切ってしまうような気がして、
私の中で生きている遼を、もう一度死なせてしまうようで怖かったんだ。
…だから、
『好きなんだ、楓ちゃん』
そう言って、私の心に入ってこようとするアイツには、
私の生きる意味を奪おうとするアイツには、
矢島 圭介にはこれ以上近寄ってはいけない。
遼を忘れられない私に、
遼を忘れたくない私に、
アイツの想いを受け入れる隙なんて、微塵もない。
抗うことのできない時の中で、私はただ、
ただ、遼を、
遼だけを想って生きていく。
それが、周りから見たらどんなに滑稽でも、もうそうすることでしか、遼を想うことでしか、
私は息をする術を知らないでいた…──。




