18
小さなその箱に入っていたものは、
見覚えのあるネックレスだった。
「…え、」
ハートの形をしたリングが付いている、シンプルでだけど綺麗な光を放つそれは、
私がいつか遼と出掛けた時に、魅入ってしまっていたものだった。
素敵で欲しいと思ったけれど、ショウウィンドウに飾られていたそれは、とても手に出せるような金額じゃなかった。
だから、欲しいなんて一言も口にしなかった筈なのに、それがどうして今ここに…。
───カサッ
何かが擦れる音がして、箱の中に小さなメッセージカードが入っていることに気が付いた。
恐る恐るそのカードを開いてみる。
白い紙に、少し癖のあるその字は、紛れもなく遼のもので、
『誕生日おめでとう』
たった一言だけ、そう書かれてあった。
「…それは、楓ちゃんに持っててほしいの」
息子の気持ちだから。
そう言って、私の手を優しく包み込む遼の母親の手。
その上に、私の涙がポタポタと落ちてその手を濡らしていく。
『誕生日おめでとう』
遼が最期に残したその言葉は、私の心に酷く深くそして、何よりも強く、悲しみと愛しさの色を残していった。
歪む視界の中、何度も何度も遼が書いたその文字を読む。
私がこのネックレスを欲しいと思ったことに、気付いてくれていた遼。
そしてそれを、誕生日プレゼントに買ってくれた遼。
本来なら、嬉しくて幸せで仕方がない筈なのに、どうして今、私はこんなにも不幸なんだろう。
どうして、あの時、このネックレスに見とれてしまったんだろう。
もしもあの時、私がこのネックレスを気に入っていなければ、
もしも誕生日が、この季節でなければ、
もしも今日、女の子が飛び出さなければ、車が通らなければ、遼が庇わなければ、
今でも遼は、生きていた筈なのに。
私に優しく笑いかけてくれた筈なのに。
「──…っやだぁ」
これが現実だなんて、
遼がもう居ないなんて、
そんなの認めたくない。
「やだよ…っりょう…」
頭では、いくら現実だと分かっていても
受け入れたくなんかないんだよ。
だけど、どれだけ沢山の涙を流しても、
声が涸れるまで叫んでも
『ずっと一緒な』
そう言ってくれた遼は、二度と帰っては来なかった。




