16
心臓が痛いくらいにギュッとなる。上手に息ができない。
恋愛ドラマなどで『夢なら覚めないでほしい』という言葉をよく耳にするけれど、まさか自分が本気でそう思うなんて想像もしていなかった。
好きな人の腕の中で『好き』と言われることが、こんなに幸せなことだなんて、知らなかった。
「─…っ、」
答えなくちゃいけない。
真っ直ぐ気持ちを伝えてくれた遼に、私も遼が好きだって、言葉にしなくちゃいけない。
じゃないと、
何も伝わらない。
「…っわ、私」
唇が震える。遼に聞こえるか聞こえないかくらいの、か細い声しか出すことができない。
「うん」
だけど遼はそんな私を、急かすでも、焦らせるでもなく、ただゆっくりと頷いて続きの言葉を待っていてくれる。
そんな風に、
優しい遼だから、
こんな私を見下さないでくれた遼だから、
他の誰でもない
遼だったから
「…っ好き」
「っ」
「好き、だよ」
好きになったんだ。
傍を離れたくないって、
ずっと傍に居たいって、
そう思ったんだ。
「…うん、ありがとう」
「─…っ」
「ありがとな。…楓」
囁くように言われたその言葉が、私の涙腺を破壊する。
遼のその『ありがとう』は色んな意味を含んでいると分かったから、
言ってくれてありがとう
選んでくれてありがとう
こんな気持ちをくれて
ありがとう
優しく穏やかな遼の声が、その全てを私にちゃんと伝えてくれたから。
それが、
堪らなく愛しくて
「っ」
どうしようもなく涙が溢れた。
「…楓、顔挙げて」
遼の温かい手が、私の頬にそっと触れる。
しかし私はこんな泣き顔を見られたくなくて、首を左右に振り、顔を挙げることを拒否した。
「楓、キスしてぇ」
「っ」
「キスさせて?」
甘い甘い遼の誘惑。
それは酷く魅力的で、
…ずるいと思った。
好きで仕方ない人に、そんな風に言われて、断れる女の子なんて果たしてこの世に居るんだろうか?
戸惑いながらも、ゆっくりと顔を挙げる。
重なった視線。遼のその瞳は、泣きたくなるくらい優しいもので、
「これからは、ずっと一緒な」
初めて触れた遼の唇からは、溶け出しそうな程に甘い、レモンの香りがした。
『これからは、ずっと一緒な』
あの日、遼によって紡がれたその言葉。
それを疑うこともなく、ただ純粋に信じていた。
ずっとだとか、永遠だとか、そんな言葉を信じるなんて子供だからだと思うかもしれない。
けれど、少なくともあの頃の私は信じていた。
ふたりの未来はこれから先も続いていくのだと、無条件に純粋に思っていた。
──…だけど、今なら言える。
ずっとだとか、永遠なんて言葉は存在しないのだと、そんな言葉があること自体が間違いなのだと。
どれだけお互いがお互いのことを想っていても、どうすることもできない事があるのだと。
そんな事実、知りたくなんてなかったのに、私はただ純粋に、『ずっと』という言葉を信じていたかったのに。
現実は、どこまでも無情で、なんの前触れもなく私達に牙を向ける。
────遼が死んだのは
それから半年後、
凍てつくように寒い寒い冬の日だった…──。




