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汚くて、真っ暗な感情が私の中にどんどん どんどん、溢れ出て止まらない。
さっきまで感じていた優越感なんてものは、欠片もなく、あるのは彼女達に対する劣等感だけ。
消えてしまいたい。
そんな感覚に陥って、俯くことしかできない。
(…分かってたのに、)
恋人以前に友達としても、遼に私が釣り合わないって、言われなくても分かっていたのに。
「─…。」
だけど、他人に言葉にしてハッキリと言われるのが、こんなに悔しいだなんて知らなかった。
こんなに痛いだなんて、知らなかった。
───ガタッ、
拳を固く握り締め、私は席から立ち上がる。
そんな私のことをニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべながら見る彼女達。
私が次に起こす行動を観察しているんだ。面白おかしく、愉快そうに。
「─…っ」
唇を噛み締めたい衝動に駆られる。
でも、悔しいとか、痛いだとか、そんな感情を表に出さないように、彼女達にバレないように、私はゆっくりと息を吐いた。
そして、私はただ、今できる精一杯の笑顔で、
「…性格ブスには、言われたくない」
彼女達に向かってその言葉を発した。
人間、そこまで目を見開くことができるんだ。
それが私の言葉を聞いた時の、彼女達の印象だった。
こんな地味で目立たない私が、まさか言い返すなんて思っていなかったんだろう。
そして、何も言わないでただ黙って席を譲ると思っていたんだろう。
確かに、普段の私なら、そうしていたかもしれない。ただ黙って俯いて、泣き寝入りしていたかもしれない。
だけど、こんな奴らに一泡吹かせたかった。調子乗ってんなって、鼻っ柱を折ってやりたかった。
何より一番、“何も言えない私”が嫌だったから。
私は、反論した。
「……。」
握り締めた拳が微かに震えている。興奮によるものか、ちょっとした恐怖によるものかは分からないけれど。
(─…今日は、帰ろう)
とてもじゃないけど、今日は講義を受けれる状況にはならなさそうだ。
私はそう判断し、ドアの方へと向かって歩き出す。
私が動いたことに反応したのか、彼女達が急に騒がしくなった。
「っ、あんたふざけんなよ!少なくとも、あんたみたいな陰険な奴よりましだっての」
「自分の立場わきまえろよ、」
「あんたなんて、居ても居なくても、誰も困ったりしないのよ!」
彼女達が次々に言葉という刃を私に向かって、投げつけてくる。
(…大丈夫、)
そんなの彼女達に言われなくても、十分知っている。
何年、この体で過ごしてきたと思っているんだ。
(大丈夫、)
だから、こんなの全然平気。傷付かない。大丈夫。大丈夫だ。
泣いたりなんか、しない。
そんな私の想いと静寂を掻き消すかのように、
「困んだけど」
そう、周りに響くような低い声がした。
(─…え、)
「俺、コイツが居なくなったら困んだよね」
そう言った遼は椅子を引いて立ち上がり、荷物を持ってこちらに向かってくる。
私はただ、遼の言ったことに驚いて、先程の彼女達のように目を大きく見開くことしかできない。
「なっ…遼く…」
「それ以上喋んな、性格ブス。お前らこそ何様だっつー話」
慌てふためく彼女達の言葉を遮ると同時に、鋭い視線を彼女達に向ける遼。
彼女達はその様子を見て、信じられないといった感じの表情をしている。
そして、私は
「…行くぞ」
遼に手を引かれながら、塾を後にした。




