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でも、遼とそんな風に過ごしていられるのも長くは続かなかった。
理由は至極 単純明快。
元来、モテる部類に入る遼と、勉強一筋で地味な私とが仲良くすることに不満を持つ女子が出始めたからだ。
ある日、塾の教室へ行くと、あの特等席に女の子達が座っているのが視界に入った。
その女の子達は塾に来ている中でも目立っていて、気が強い部類の人間。
それに、私と遼が喋っていると、いつも不愉快だと言わんばかりの視線を向けてきた子達だった。
だから、彼女達の意図に気付くのは簡単で。
彼女達は私と遼を引き離して、自分達の方へと遼を近付けようとしているみたいだ。
恋人同士でもない私と遼を引き離すなんて言い方はおかしいのかもしれないけれど、事実、いつも私が座っていた席には女の子が居るのに、遼が座っていた席は、空席だった。
それはつまり、直接言葉にしなくても、遠回しに『ここへ来て喋ろうよ、遼くん』とでも言っているつもりなのだろう。
その様子を見て頭が痛くなるのを感じた。
あからさまに私を遠ざけようとしている彼女達も、その彼女達に何も言えない自分も、同じくらい腹立たしくて頭痛がする。
そんな回りくどくて卑怯な手を使う位なら、ハッキリと私に遼に近付くなと告げればいいのに。
…そうは思うけど、それを彼女達に言えない私も、彼女達と同じレベルなのかもしれない。
彼女達を一瞥した後、私は気付かれないように溜め息を零し、別の席へと着いた。
こんな風に何かを我慢することは珍しくはない。
彼女達のようにハキハキと物事を言えるタイプでも、容姿が特別可愛いわけでもない私。
自分は自分なのだから他人に劣等感を感じる必要はないのだと、分かってはいる。
分かってはいるけれど、こんな風な状況に立たされた時は感じずにはいられない。
せめて、人並みの容姿をしていたなら
せめて、明るく、人に好かれるような人間なら
彼女達の視線や想いを気にすることなく、もっと堂々としていられただろうか。
『ありがとな』
オレンジの膝掛けを渡した時の、遼の笑顔が頭をよぎる。
私が使っていた為、少しヨレてしまってた、彼には不釣り合いなオレンジ色の膝掛け。
前からちょっと気になっていたから、私は昨日、雑貨屋さんに行き、彼に似合いそうな水色の膝掛けを購入した。
彼に使ってほしくて。
彼に笑ってほしくて。
…だけど、もう、
無駄になってしまった。
紙袋に入れた水色の膝掛けを見ながら、ぼんやりと思う。
…きっと彼はもう、私の隣りには座ってくれない。
少し喋っただけで、少し優しくしてもらっただけで、何を勘違いしていたんだろう。
笑ってくれたのだって、レモンキャンディをくれたのだって、彼にとっては何でもないことだったのに。
彼が毎回あの席に座ったのだって、私の隣りだからではなく、クーラーの冷風が気持ち良かったからで
そこに特別な意味はない。
私にとって彼は特別でも
彼にとって私は特別なんかじゃ、ない。
…そう思うと、なんだか無性に泣きたくなった。
自分に対して何ひとつ、自信を持つことができないことが歯痒くて、悔しい。




