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別サイトで掲載している小説の転載です。
夢の中で、私の頭を撫でる大きな手。
私はいつもその時、幸せそうな顔をして笑っている。
もしも、その手に、その腕に、飛び込むことができるなら、私はどんなことだってするのに。
…けれど、そんな私の想いとは裏腹に、夢は夢でしかなく、現実はそう甘くはない。
時の流れは万物に平等で、滅びる事も、消える事もなく、唯一の『絶対』だと言えるだろう。
私はその『絶対』が、
死ぬ程、憎らしくて
堪らないんだ。
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ーーーー生きる意味が欲しかった。
「かーえーでちゃんっ」
本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったのとほぼ同時に、私の名前を呼ぶ声がした。
馬鹿丸出しの脳天気な声。その声のおかげで、今ではもう、私の名前を知らないクラスメートは居ないだろうと思う。
「かーえーでちゃん!」
「……。」
私が無視を決め込んでいると、再び私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
本当に懲りないな。
早く帰ってほしい。
私はバレない様に小さく溜め息を零した。
「オイ、新堂、あいつ少し黙らせろ。終礼ができやしねぇ」
「……、分かりました」
さすがにほぼ毎日、自分の終礼を邪魔されて不機嫌になったのか、担任にそう言われ、私は声の主の元へとゆっくりと足を運ぶ。
というか、教師なら諦めず、きちんと注意してほしい。駄目な生徒に注意するのも仕事の一貫だろう、サボったりするなよ。
「楓ちゃんっ」
私が目の前まで行くと、嬉しそうな締まりのない笑顔で私に微笑みかけてくる馬鹿。
ここまで喜怒哀楽がはっきりしている人間は、そうそう居ないだろう。少なくとも、私が関わってきた中で一、二を争う。
「……何か用ですか?」
その馬鹿を見て、更に気分は憂鬱になる。 どうしてコイツはこんなにしつこく私に絡んでくるのだろか。
「一緒に帰ろう?」
「お断りします」
時間にしてわずか0.1秒。私は即答で奴の申し出を断った。
誰があんたと、一緒に帰ったりするもんか。
「そ、そんな…「というか、今終礼中なので、黙っていて下さい」
まだ何か言おうとする相手の言葉を遮り、私は教室の窓を閉めた。そのやり取りを見ていたクラスメート達はクスクスと笑い声を上げる。
さしずめその心中は『またやってるよ。ほんとあの子頑張るねぇ』ってところだろうか。
…他人事だと思って。
私は、再び零れそうになった溜め息を堪え、自分の席へと戻って行った。