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白昼夢  作者: Haku
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次男 九条虎太郎 十八歳 帝國大学医学専攻

其れは僕が書斎で勉強をして居る時であった。



「虎太郎兄様」

突然高い声が僕の名を呼んだ。

其処には長い髪を三つ編みにした末妹が立っていた。



凜子(りんこ)?何か用か」

細雪(さゆき)姉様の事なのだけど、何か、知らない?」

「何がだ」

「姉様、三日前から何だか変なの。

 考え事でもしてるみたいにぼーっとしてるの。お話していても上の空だし。

 何か有ったとしか思えないわ。兄様、何か知ってる?」

「・・・・・・・さあ」






三日前――――――

あの日だ・・・

細雪が葉一と初めて会った日・・・・・・




考え事?上の空?

まさか細雪、葉一に…

いやいや待て、たったあれだけで?


然し、葉一はそこいらの男とは比べ物に為らない程の容姿を持っている

混血児(あいのこ)であるが故の色素の薄い髪や瞳

恐ろしい程に整った貌……

今迄落ち無かった女は居無かった位、だ




細雪だって、白い肌に映える笑顔は余りに可憐で…

道を歩けば男共が無礼を承知で、

振り返って二度見する(腹立たしい)

そういえば、女学校の帰り道など、恋文を渡されているのを見た事が有る

此れも腹立たしい事だが・・・

その所為で教師に叱られて居るらしい


挿絵(By みてみん)



考えたくは無いが

葉一もその為に態々細雪に声を掛けたのだとしたら――――

嗚呼、葉一は友人ながら、不愉快だ

かと言って必要以上に干渉すれば今度は僕が危ない

近親相姦の疑いでも掛けられたりしたら厄介だ







「・・・・・・一寸、聞いてる?兄様まで・・・」

「あ、ああ、聞いてるよ

 どうしたんだろうな、細雪」

「・・・変なの」

「え?」

「今は姉様も変だけど、

 虎太郎兄様はずーっと前から変!」








虎太郎(こたろう)

今度は重く低い声が僕の名前を呼んだ。

嗚呼、此の声は・・・・・・



「父様」

獅郎(しろう)は何処に居る」

「多分、離れの倉庫かと。辞典を探して居ましたので」

「そうか。仕事の話が有ったのだがな」

「仕事、ですか?」

「ああ。獅郎は次期当主だからな。 

 私の仕事のノウハウを覚えて貰わねばならん」

「そう・・・ですか」

(すみれ)の縁談も来ているし、今は忙しくて仕方が無い」

「ああ、姉さんも今年で20歳ですね」



「虎太郎、お前は、取り敢えず確り勉強しろ。

 お前は、いつまでもこの家には居られないからな」



「………はい、父様」










夕方、居間に行くと其処には兄が居た。

察するに、吉原にでも行くのだろう。

何故なら、何時もの洋装では無く和装であったからである。

次期当主ともあろう者が女遊びに行くのである。

僕は、こんな奴を兄と思いたくは無い。






「遊郭に行くのか」

「昼迄には帰って来るよ」


「知ってるか、華族の若旦那様が紫呉とか云う女郎に御執心だって噂」

「その弟は妹君に夢中、と云うのは聞いたが?」

「違う!僕は唯……」

「おや、虎太郎の事だったのか?」

「………ちっ」





「お前が誰を好きに為ろうと構わ無いが――――――判っているかい?」

「何がだ」




「幾ら胎違いとは言え血の繋がった妹と…叶う筈が無い

 結局はあの子を不幸にさせて仕舞うんだよ。判って…いるかい?」



 


「…………」


「じゃあ、行って来るよ

 失態は起こさない様にね」

「二度と帰って来るな」

「はは。細雪は悲しむだろうなあ」

「そんな事有る訳………」




 






ふわりと困った様な微笑みを残して

兄の背中は宵闇の中に吸い込まれていった。


















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