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白昼夢  作者: Haku
17/21

焼失及び奪取






あたしたち、とっても仲良しだったのにね

いつもいつも一緒に居たのに

何うしてこんなにも離れて仕舞ったの?




あたしたち、何もかも一緒だったね

服も靴も好きな食べ物も

ああ、でも………好きな人だけは、別が良かった






そうしたらあたしたち、ずっと仲良しだったのにね












――――――――――――――…………左様なら…………




















【黒焦げの胎児を抱ひて―――  有栖川病院で放火殺人事件】



×月×日未明、××川沿いの有栖川病院で火災が発生し、

火元であつた病室から山科百合嬢の遺体が発見された。

遺体は損傷が激しく本人か識別が困難であつたが、歯型が一致した為百合嬢と断定。

又、百合嬢は臨月であつたがその胎は無残にも抉り取られ、空つぽであつた。


翌日警視庁は百合嬢殺害の容疑で清川康江と名乗る女を逮捕。

女は百合嬢の黒焦げの胎児を乳母車に乗せて××川沿いを歩いていた所を

不審に思つた通行人が通報し、逮捕に至つた。










「全く康江め、こっちはとんだ災難だよ!」

「あァ怖い怖い。こないだまで殺人鬼と一つ屋根の下にいたなんて」

「あの人ねえ。何か変わった人だなって思ってたわ」




今日の【スカーレット】は何時もより賑わっています。

でもお客さんは一人も居ません。

新聞記事について、パンパン達とおかみさんが騒ぎ立てているのです。

無理も無いでしょう、殺人犯として新聞に載っているのがこの店の女だったのですから。

康江さんの顔がはっきりと出ている大きな写真も載っているし、

康江さんはこの店一番の稼ぎ手だった訳ですから、店にとっては大損害なのです。

今日はお仕事にならなそうなので、私は家に帰る事にしました。

その道すがら、この事件について色々と考えていました。



確かに昨日まで普通に顔を合わせていた人が、

今日付で殺人犯と為ったのは驚くべき事なのですが……

私には何か蟠りの様な、引っ掛るものが有るのです。







それは昨日の彼女の不気味な言葉と―――何か(・・)が渦巻き、燃え盛る様な眼……








 『今日は飲んでないのに、すごく気分がいいのよ。

  フフ、何故か分かる?

  もう終わったからよ。私も、あの人も!』









被害者はあの由緒正しい山科家の令嬢、

そんな人を何故売春婦が殺すのでしょう?動機は?

そもそも、令嬢と売春婦では接触する機会さえ無いのでは?

そして極め付けは、康江さんが百合嬢の胎児を盗んだという点です。

此れはとても不可解です。

もし百合嬢と康江さんの間に何か諍いが有って、憎悪により殺害したならば

態々胎児を取り出して河川敷を散歩するでしょうか?

通報され、逮捕される事は容易に想像出来ます。

何故、そんな事を?



康江さんは『態と』逮捕される様な行動を取ったのでは?

百合嬢(・・・)の胎児である必要があったのでは?



そうだとしたら動機は百合嬢への憎悪だけでは――――――









「あら、菫姉様お帰りなさい!

 何うしたの?そんな難しい顔して」


家に着くなり、妹の凜子が私の方に駆け寄って来ました。




「ふふ。ちょっと探偵ごっこをしていたの」

「探偵?姉様ったら、江戸川乱歩の読み過ぎじゃない?」

「お父様には秘密よ」

「あ、そうそう、有栖川病院の事件ね、知ってるかしら?」

「勿論よ。朝刊で見たわ」

「それでね、お父様、山科家と親交があったらしくて、

 警察の方が話を聞きたいって言うものだから、お父様が連れて行かれちゃったの」

「あらそうなの。でも連れて行かれた、っていうのはおかしいわね。

 お父様が出向いたんでしょう?」

「ええまあ、そうなんだけれど……」

「何かあるの?」

「…いえ、何でもないわ。 

 それより姉様、『青年』買ってきて下さった?」

「まあ、凜子こそ江戸川乱歩のファンじゃない?」

「ふふ、お父様には秘密、よ」






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