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龍シリーズ

謎の浮遊感

作者: 尚文産商堂

タンニーンが空を飛べるようになってから、俺たちにも妙な感覚が体を駆け巡ることがある時があった。

体が浮いているような、不思議な浮遊感だ。

どうやら、紗由里も同じことを感じているようだ。

「どういうことなんだろ」

このとき、俺たちは日々巨大化していくタンニーンと家の中に一緒にいた。

タンニーンの母親であったゲオルギウスの亡骸は、どうしようもないのでそのまま放置していて、そのすぐ隣の家を改装し、タンニーンがそのまま家の中へ滑空して来ても大丈夫なようにしていた。

材料は、周囲の家をばらして手に入れ、それでも足りない分は、森の木を打ち倒して作った。

そんな手作りの家の中で、俺たちは同じ感覚を共有しているという、理由が分からない問題に頭をひねっていた。

「…やっぱり誰かに聞くしか」

紗由里が言うが、それは難しい。


ドラゴンと人間というのは、昔は不可分だった。

だが、ドラゴン族の長を人間が殺して以来、戦争状態に入っている。

ドラゴンと一緒にいると分かっただけでも、市中引き回しの上打ち首獄門レベルの罪となっているほどだ。

もちろん、タンニーンもドラゴン族の誰かに俺たちと一緒にいることが分かった時点で、殺されることは確定。

だから、誰かに聞くということは非常に困難だった。


「…それにさ、飛んでいる時だけじゃないんだ」

タンニーンが俺たちに話す。

「僕が飛んでいない時でも、岩居たちが何をしているのかが分かるんだ。まるで、二本足で立って農作業や、森の奥で野イチゴを摘んでいるような感じなんだ」

「つまり、俺達で感覚を共有しているということ?」

紗由里が言った。

「そう言うことだろうな」

俺が素直に言った。

「俺たちは、血よりも濃い絆で結ばれている。古代の盟約というのは、そういうことなんだ。つまり、俺たちは、頭のどこかが一緒の機能になって、テレパシー的な何かで感覚を共有しているということなんじゃないか」

そうとしか考えられないと、俺は思った。

「僕たちは、一部分において、同じになったっていうこと?」

「そう言うことなんだと思うんだ。詳しい原理とかはさっぱりだが」

「テレパシーというか、共有意識というか、そんな感じなんだろうね」

紗由里が俺たちに言った。

「どうしてできたかというのは後回しだ。今は、どうやって使うかを考えることにしよう」

その時、上空から巨大な圧力が降ってきた。


その正体は、巨竜だった。

これまで見たことがないほどの大きさだ。

俺からみて十分に大きいタンニーンでさえ、小さく感じた。

街道に降り立つと、その重みで敷石が砕ける。

俺たちは、その姿を見たとたん、足がすくんだ。

「…タンニーンか」

その声に、タンニーンが我に返って聞き返す。

「この感覚、お父さん?」

俺は、タンニーンの言葉とその相手の巨竜の言葉をじっと聞いていた。

「まさか、人間と同居しているとはな。さあ、家に帰るぞ」

「ちょっと待て。誰だ、おまえは」

「タンニーンの父親であり、ゲオルギウスの夫だったリントヴルムだ」

「俺たちは、タンニーンを一人前に育てると、ゲオルギウスに古代の盟約により誓ったんだ。だから、このまま連れて行かないでくれ」

「…感覚の共有は始まったのか」

リントヴルムが、ちょっと考えてから俺に聞いた。

「ああ、多分な」

「多分では話にならんな」

「じゃあ、タンニーンが空を飛んでいるとき、俺たちも一緒に飛んでいる感覚があり、俺たちが農作業をしていると、タンニーンも一緒に作業をしている感覚があると言えば」

リントヴルムのあごひげが、ピクリと動く。

「なるほど、それならば共有が始まっていると言えよう。盟約は確かに成立したようだな」

「私から聞いてもいい?」

紗由里がリントヴルムに聞く。

「なんで、名前がすぐにわかったの?それに、タンニーンもすぐに父親だとわかったの?」

「我々龍族というのは、生まれる前から名前が決まっているんだ。タンニーンという名前は我々が信奉している神より頂いた名前だ。そして、血族であるならば、いついかなる時であれ、その関係を瞬時に把握することができる。龍族に生まれた時から備わっている本能だ」

「じゃあ、この感覚の共有は?」

「古代の盟約というのは、ある種の呪いなのだ。真の家族のように龍族と人間をつなぐことができる、唯一の手法だ。我々もなぜそのようなことをするようになったのかは、一切わからぬ。だが、一度正式に結べば、文字通り死が互いを(わか)つまで、その効力は一切消えない」

「つまり、俺たちは文字通り死ぬまでタンニーンと一緒にいるということか」

「人間のほうが寿命がはるかに短いからな。そういうことになろう」

リントヴルムは、タンニーンに向き直っていった。

「母親と子と人間。この3つがいなければ、お前はこうして生きることはできなかっただろう。大事にするんだ」

「はい、お父さん」

それを聞いて、リントヴルムは満足そうに唸った。

「それはそうと、ゲオルギウスはどこだ。正式に埋葬してやらんと、妻の魂が永遠にこの地域でさまようことになってしまう。そうなると、我は来世でも妻の横にいてやれんことになってしまう」

「では、こちらへ」

俺は、ゲオルギウスを安置している家へと案内した。


中はホコリひとつなく、常に清潔にするように努めていた。

「何か準備するものは……」

「ああ、清酒、火付け石、薪、桶と小さな船を一つ。もちろん、なければ仕方ないが」

紗由里がすぐに持ってきた。

「清酒じゃなくてどぶろくですけど…」

「ああ、別にいい」

リントヴルムはそう言って、葉でできた船をゲオルギウスの頭の前に置いた。

そして、どぶろくをその中にわずかにそそぎいれ、残りをゲオルギウスの体中にまこうとした。

うまくいかなかったようで、俺が代わりにした。

そして、リントヴルムはあごひげの一本をゲオルギウスの頭の上に置きながら唱えだした。

「我が神たる、ムツヲノヌシノカミよ。我が妻たるゲオルギウスをその広き心にて受け入れ給え。不慮の事故にて不自由になりし肉体より解き放たれし魂と、我が魂が来世でも共にいれるよう図り給え」

そして、俺が補助をして最後にゲオルギウスの体に火を付けた。

「…我が妻よ、安らかに眠りたまえ」

全身に火が回っていくのを見て、リントヴルムが最後につぶやいているのを、俺はしっかりと聞いていた。


「それで、お父さんはどうするの?」

家の外に出て、タンニーンがリントヴルムに聞いた。

「実家に帰る。お前は龍族に戻ることはできないだろうな。もしも戻れば、制裁が待ち受けているだろう。我が報告するのは、子供は見つからなかったということと、古代の方式により正式にゲオルギウスの葬儀を執り行ったということだ」

そう言って、俺たちのほうを見て行った。

「気付かれた時には、すでに手遅れだろう。人間と龍、過去は不可分だったらしいが…」

「今を向いて生きて行きますよ。過去が変わらなくても、未来を変えることは今の努力次第ですから」

俺はそう言った。

「そうか、ならば、我はもう行くとしよう。タンニーンよ。次会う時は敵同士になっていると思え」

「…分かりました」

タンニーンがショボンとなっていったのを見ていたが、リントヴルムは何も言わずに飛び去って行った。

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