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夏日星  作者: 沙山はるか
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17歳 夏

暑い。もう少しで夏休みも終わる。

全開に開け放たれた窓 真っ白なカーテンをひるがえして風が空間を遊ぶ。

外では全身の力を込めて でも耳から頭に突き刺さるような声で蝉たちが鳴いている。 

そんな光景を横目に白というよりクリーム色の作業台に作品を広げて、一針一針とまた針を進めてゆく。


今日も昨日も、そしてきっと明日も明後日も安易に想像に足りるくらい同じ日々の繰り返しなんだと思う。

別にそれがイヤなんじゃなくって、本当はとても幸せなことなんだけど。

自分自身望んで過ごしていることなんだけど、どうしてもしっくり来ないというかなんというか。

だからってそんな毎日を変えたいともがいている訳でもない。


じゃあなんなのか。


矛盾しているかもしれないけど、このままでいいのだろうか。こんな風に毎日同じ事を繰り返しているだけで意味があるのだろうか。勉強していてもこれからの私に意味があるというのだろうか。

見えない何かにとても疑問が湧いて来ているだけ。

それはどこへ行ったって誰に聞いたって答えは見つからないと知っているから、どこへも行かないし誰にも相談しないし何かをぶつけようとも思わない。



そんな私は、桜坂女学園2年 近江 香織 17歳。

とりあえず私は堅物過ぎる優等生じゃないけど、今が楽しければいいじゃない。ってふれ回る子でもない、多分普通の女子高生。



 好きなアーティストは、L'Arc~en~Ciel。


基本的には感覚が合えば何でも聴くけど、親がずっと聴いていて赤ちゃんの頃から私も子守唄代わりに聴いていたらしい。

今でも聴くだけで何故かホッとして安心する。

安心しすぎて眠くなってしまう時もある。



 部活は、手芸部。


今は冬の作品展に出品するパッチワーク・キルトを製作中。

他にも、その合間に秋にある学園祭に展示する作品も同時進行で製作中。

編み物よりこうやってチクチク縫ってるのが好き。

ゆっくりと過ぎてゆく時間と私自身の時間が一枚の大きなキルトになって完成する喜び。

そしてそれを使い込めば使い込むだけ、幸せな毎日の中に馴染んで、仕舞いには風合いというスパイスが効いてくる。



 好きなものは、いっぱいありすぎて書ききれない。だけど、これがなきゃイヤ! っていうのはある。


・イチゴのタルト。

・テディベア。

・ケータイ。


イチゴショートよりも絶対タルト!

スポンジもいいけど、しっとりとしたタルト生地とイチゴの甘酸っぱさが堪らない!

特に、駅前通りにあるケーキ屋さんのは絶品だと思う。

他のお店のイチゴタルトだって食べたことはある。確かにどれも美味しかった。

だけど、素朴な素材の味と不思議と食後の余韻が堪らない。


あとは、テディベア。

一番お気に入りの子がいて、赤いタータンチェックのママが作ってくれたテディ。

小さい頃ノドが弱くて、よく腫らしては高熱を出していた。

そんな私に「ベッドの中でも一緒にいられるお友達よ。」と、大好きなワンピースと同じ布地で作ってくれた。もちろん今でも大切にしている。


ケータイは真面目にそばにないと困る。

スケジュールも、メールも、大事な物事は全て入っているから。

わりとキレイに使ってる。

くすんだピンクに少しラメが入ってる。

ストラップは1つだけ、自分で作った小さめのもの。カラフルなウッドビーズとパワーストーンを革紐でデザイン編みした、ほんのり温かみのあるストラップ。



好きなモノに囲まれる毎日は最高に素敵


あとは彼氏かな。

さすがにコレばっかりはどうにもならない。

小説の中のプリンスやシークみたいな人なんて現れるハズもないっていうことくらい分かっている。

お話の中のカッコいい彼氏なんて待ってもいない。

まあ仮にそんな人達のうちの一人が、まかり間違って私の前に現われたとする。

そして上手い具合に話が弾んで仲良くなったとしても、自分が釣り合わない事だって今更鏡を見なくたってイヤってほど分かってる。

だからそんなお伽噺みたいな展開にならないって事も。


でも、女の子だもん。

少しくらいはドキドキする恋をしてみたい。

報われなくたって、たった一人の人を想う気持ち。

そんな特別な日々を過ごせたならどんなに素敵なんだろう。って思ってみたり

今この時じゃなきゃ 今のこの歳じゃなくちゃ感じられない何かを手にしたい。って思ってる。


ママを見ていて思うのは、絶対にこの人じゃなきゃダメ! って思う人と結婚したい。

今の私には全然イメージ湧かないけど、そんな風に漠然としたことだけはとっても感じる。

その点では私のママは、ママにとっての最高な人でもあるパパに早くに巡り逢えて幸せな人だなって羨ましく思っている。

でも私にとって最高な人はパパみたいな人じゃない。パパはキライじゃないけどママみたいには寄り添えない。

もっと一緒に歩いてゆきたい。話をして二人一緒に生きてゆきたい。

ママみたいに全てパパに決定権を委ねてしまいたくない。もっと私自身も見てほしいから丸ごと私って人物を受け止めてくれるような人がいいな。




―――――ピンポーン♪ ピンポーン♪―――――



っといけない! 今日は美雪と出かける約束していたんだっけ。


「はーい!」


とりあえず上がって待っててもらおう。


着てゆく洋服は決まっているし、買い物のメモはバッグに入れた。

後は髪をセットしないといけない。

あぁ、こう暑いとばっさり切りたくなる。

裾のレイヤーを軽く巻いてもいいんだけど、暑くてやってられないからアップにしちゃおう。


美雪とは随分前からの友達で、いわゆる幼馴染みってヤツ。

だから気兼ねなしに相談も出来るし、思ったことも話せるし、頼りにもしている。

美雪は一人っ子で共働きの両親との間で家族で育った所為か、人見知りも激しいが慣れるととっても気さくで明るくて、女性の私でも一緒にいて楽しい。

小さい頃からウチで預かっていたりして、一緒に過ごす時間も多かったからまるで姉妹のようにも見られたし、私たち自身も何気にそんな風に感じながら育った。


ずっと専業主婦で過ごしていたママは、彼女にとっては言わば”育ての母”とも言うべきくらいだと思う。

ママにしたって、ずっと私に兄弟を欲しがっていたけれど恵まれず、忙しいパパは封建的な人だから「白」といえば、たとえ黒だって「白です」と答えなければならない関係にあった。

そこだけは、私にとってパパとママの我慢がならない点の一つでもあった。

普段はとっても優しいパパなんだけどね。っていってもいつも忙しくて顔を合わせるのは朝と夜にそれぞれ少しだけ。

それでも会話はあるし、冗談も言う、休みの日は色んなところに連れて行ってもくれたし、私にはとっても優しいパパなのには変わりはない。



よぉーし、お気に入りのベルガモットの香りをつけて出発しよう。

甘い柑橘系の香りが、暑さでバテそうな気持ちを少しでも爽やかな方向へ向けて元気になれる気がする。

オレンジとブラウンの花柄でシフォン地のプルオーバー

裾に幅広の黒レースが施された黒の7分丈のレギンス

お買い物には元気良く闊歩できるスタイルでなきゃね。


「美雪、お待たせ。じゃぁ出掛けよっか。」


「おそいー、香織。今日は遅れた分何か奢ってもらうからねぇ。」


そう言って美雪は自分のバッグを手に取り、立ち上がりながら笑って言った。


「えー、そんなぁ! 美雪さん許してくださーい。」


香織も美雪の肩にもたれながらじゃれあうようにすがった。

二人して笑いながら並んで歩き出し、香織の家を後にした。



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