009-011 知らない感情
予鈴の音で目を覚ます。
教室の中は既に何事も無かったかのように帰宅の準備を始めるクラスメイトばかりが目立った。
先程までの灰色の世界は夢だったらしい。
きっと、珍しくヒーロー気取りをやってしまったからかもしれない。その所為で疲れて眠っていたのかもしれない。
もしかしたら、猪塚達のことも夢だったのかもしれない。
ぴょんぴょんと跳ねて、いつも通り屋上へと出た。
花菜子はすっかり屋上が気に入ってしまったらしく、天気の良い日の放課後は、図書館で借りた本を持って寛いでいることが多かった。
今日もそんな陽気に誘われるように上がる。
だが、花菜子の気配は既になく、代わりに花菜子がどこかの教室から持ち込んだであろう椅子にオーラだけが残されていた。
「(今日の猪塚の件を死神様に報告する為に帰宅したのかもしれない)」
呆然とそんなことを考えた。
ふと、男子校がある方面を見つめる。
男子校の方面から死神様の気配を感じていた。
もちろん、似たような気配という場合もある。
もっと近くに、例えば男子校舎に行けば何か解るかもしれない。
だけど、それに触れるということは、即ち死神様と接触する可能性もある、ということ。
これは死神様を疑い、侮辱する行為になるかもしれない。だから死神様にも訊ねなかった。
私は、知らないことが多すぎる。
「花菜子は、どうして何も言わないんだろう ……?」
違和感はある。
花菜子は何か知っているとは思う。
でも、知ったら後戻りは出来ないと思う。
だから知りたくても知らない方が良いのだと思う。
…… それでも。
「知りたいと、思ってしまった。
こんな感情は、どうしたら良いの?」
私の声は空気に攫われ、消される。




