008-000 夢か現か③
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灰色の世界、1人で街を歩く。
分断された道路。
薄くて濁った壁を突き破る。
灰色の空間。壁と壁の間。
対峙する、灰色の羽根を付けた青年。
『待っていましたよ』
突き付けられるは矛の先。
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ドンッ、ドンッ、ドンッ
鈍くて空虚な音で目を覚ます。
そこは教室の中で、黒板の前には猪塚と小池、それに前方のドアの前には田川と吉岡の4人が居て、窓際の橋本先生とクラス代表の2人と対峙している状況だった。
「トイレ掃除なんて真面目にやる奴の気が知れねぇよ!!」
叫んだのは小池。
黒板の内容から察するに、どうやらトイレ掃除をしっかりやっていないことを論議し合っていたらしい。
もっとも、こんな馬鹿馬鹿しい内容なら、上辺だけ綺麗なことを答えて誰もがさっさと終わらせたいはず。つまり、怒り出す方が馬鹿というモノ。
いつもなら無視する案件だった。
でも、何となく、このまま続けば大変な騒ぎになる、と感じてはいた。
だからといって、その時になるまで警戒するくらいで動く気にはなれない。
「ふわぁぁぁ。ねむい ……」
春の暖かい陽気に、温い教室。
ほとんどのクラスメイトにも睡魔がやってきている様子。
その中で繰り広げられている、黒板前でのどうでもいい寸劇によって増長されている気はする。
不意に廊下から声が聴こえた。
他のクラスはもうホームルームを終えているらしい。
だが、いつもと様子が違う。
『まだ終わらないの……?』
『もうすぐ3限目に入るよな?』
『ここで英語を受けるのに、終わらなかったらどうなるのかな?』
今日の3限目は英語だったと思う。
朝のホームルームは1限前に行われるモノ。
ということは、1限目も2限目もぶっ通しで寸劇が続けられていたことになる。明らかに異様だった。
私は円術を教室の外側まで展開させる。が、すぐに弾かれてしまった。
よく見れば教室のドアに黒い面による結界が張られている。
花菜子は寝たふりをしながら私の様子を伺っていた。
嗚呼、なるほど。
猪塚か小池あたりは、学年に居るらしい数名の監視役の1人なのだろう、と悟った。
だが、監視の目的が何であれ、不自然な行為をすれば逆に目立って死神様に処分されるということを知らないのだろう。
本来なら、私も花菜子のように黙って見守っていたかもしれない。だけど、それを理解をしても胸騒ぎは治まるどころか激しくなっていた。
猪塚が、黒い刀を取り出す瞬間が、見えた。
黒い刀は里で支給される武器の1種。その刀の能力を振るえば非能力者のクラス代表や橋本先生は黒い面の魔力の影響を受けることになる。
それだけなら、目を瞑っていたと思う。
だが、猪塚の構えを見て考えを変えた。
「魔法石も持てない低能力者が威張ってんじゃねぇよ!!」
咄嗟に出た罵声が教室中に響き渡った。
驚いた4人だけではなく、対峙されていたクラス代表と橋本先生までが私を振り向いていた。
息を深く吐いて、思い切り吸う。
「お前らみてーな力任せのクズが存在するから超能力者の肩身が狭くなるんだよ!」
言い終えた私は、猪塚が刀を振るい始める瞬間に全力でダッシュした。
きっと4人には見えていなかったのだろう。
出口を塞いでいた田川と吉岡を両腕で軽く捻り、両者を教壇から軽めに突き落とす。
残った小池と猪塚には足払いをして転倒させた。
その2人を飛び越えて担任の前に立ち塞がる。
「良いか? 力任せに相手して良いのは同類だけなんだ。強い相手と戦う勇気がないからって非能力者に手を出せば強い相手が黙っちゃいない」
「な、何を根拠に ……」
猪塚の呟きは、しかし、すぐに理解したからか言葉を失ったのだろう。
教室の後方には円と瞳が。
前方のドア付近、突き落とした2人のすぐ傍に香穂里が仁王立ちをしていた。
どうやら花菜子が黒い面の結界を解いて教室を開放したらしい。
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『私の目的は貴方の持つ力だけです』
負けた私に聴こえてきた言葉。
だけど、私はもう、それどころじゃない。
膨れ上がる身体に、膨れ上がる感情。
もっと、力が欲しい。
もっと、もっと、大きくならないと、いけない。
もっと、もっと、もっと、……
…… もっと、何?
力を得て、大きくなって、何がしたいの ……?
でも、私の疑問を他所に身体も感情も制御が出来ない。
疑問が、流される。
感情が、飲み込まれる。
そして、私は …………
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