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001-002 夢か現か①

***********************

* 手も、足も動かせない。

* ここはただ、暗くて、寂しいところ。

* 暗いのは、ここの太陽が消えてしまったから。

* 寂しいのは、ここには私しか居ないから。

***********************


「ゆーかーりー?」


 声に驚いて私は目を開けた。

 目の前には、幼馴染の円が居る。


 私はしばらく円を見つめた。

 未だ、脳裏には暗い場所に居たことしか思い出せてはいない。

 その前は何をしていたんだっけ ……?


「紫ったら、また私よりも早く終わらせて寝ていらっしゃったのね?」

「どうせ紫のことだから、自分の解いた問題は見直さずに提出したんだろうな ……」


 隣に居る瞳が円と一緒に笑った。

 でも、私にはまだ理解が出来ていなかった。

 恐らくは、そんな私の表情を見て円が悟ったらしい。


「あら。まだ寝惚けていらっしゃるの? さっきまで試験でしたでしょう?」

「・・・」


「マジ? 流石にここまでくると末恐ろしいな。紫、今は何限目か解るか?」

「・・・」


 そこまで言われても、私にはちんぷんかんぷんだった。


 そして、記憶を懸命に遡ってみる。

 暗い場所は、きっと夢の中だったのだろう。

 だからその前の、暗くなる前のことを必死に思い出す。


 そして、大分時間がかかってから、ようやっと見つけ出す答え。


「今、4限目! 次、お昼!」


 そう答えた途端、私のお腹がぎゅるぎゅると音を鳴らしていた。




 私こと羽生 紫(はにゅうゆかり)は、学校法人華宮(はなみや)学園の女子中学校に通う新3年生。

 今は始業式を終えて、2限目から学力別クラス分けの為の抜き打ち試験を受けている最中。

 もっとも、この試験は毎年行われているものの、成績には全く響かないので予習の必要はない。


 目の前で会話をしているのは、麻生 円(あそうまどか)来生 瞳(きおひとみ)と言って、私の幼馴染。まぁ、幼馴染と言っても幼稚園児の時に公園で知り合ったものの、小学校は2人と違っていたので、あまり深い関係ではない。

 どちらかといえば、もう1人の風見 純(ふうみじゅん)の方が私は親しかった。ただ、純が記憶喪失になってから変わってしまった。なので、今の純とも深い関係にはない。


 そんな円の友好範囲、所謂グループは、その大半が1組に在籍していた。一部の数名が各組に分かれてしまい、2組では接点の薄い他のグループが居るくらいで、私はほぼゼロからの始まりだった。

 もっとも、それでも寂しいという感情は無い。

 女優業を営む円に弄られるのは慣れているものの疲れるし、そこそこ名高いモデルの瞳に嫉妬の視線を送られるのも嫌だったし、何よりグループ間の橋渡し役はもう懲り懲りだった。

 なので、本音はどこか清々としている。


 昼食はいつも円の席に集まることが、ほぼ習慣となっていた。なので4限目を終えるチャイムと共に控えの教室を出て、2組に置きっぱなしだった鞄を回収して1組へと向かう。

 1組のグループの面子から席を察して、私は円の左隣の席にそそくさと座る。


「ん? 何か2つくらい、(机が)足りなくない?」

「ええ、まぁ」


 隣の円が何故か言葉を濁したので、更にその隣の瞳を見た。瞳は面倒臭そうに唸る。


「ってか、何で猪塚(いのつか)と同じ組のお前が聞いてないんだよ? お前、ハブられてんじゃね?」

「うん。多分、ハブられてると思う」


 猪塚は、円の接点の薄いグループのリーダー格。小池がサブリーダー。田川と吉岡は手下のような存在で、去年、円の虐めの対象だった鈴木の命まで奪おうとした為にグループを追い出された4人組。

 もっとも、鈴木が迷惑だったことは満場一致の見解だが、1人に対して集団で暴力を揮った私達は謹慎処分を食らった。

 私も円も、当然の、それにしては軽い罰だと受け止めていたものの、猪塚達だけは『円の指示があったからやった。罰を受ける理由が解らない』と喚いていた。


「でも、下手に目を付けられるよりもハブられていた方がマシ。要は猪塚達の4人が円の飯は食えないって言ったんだね。理解はした」

「真面目な話を持ち出したのは紫なのに、貴方の行動が全てを台無しにしていますわね」


 話しをしながらもお弁当を広げて食べる準備は出来ていた。

 が、蓋を空ければおかずの半分以上が食べられていて、残っているのは白米くらい。


 しかし、私には早弁をした記憶がなかった。


「千尋さーん」


 不意に円が誰かの名を呼んだ。そして続ける。


「私達と一緒にご飯食べましょう?」

「え? 良いの?」


 答えた相手は黒いワンピースの制服を着ていた。長くて綺麗な深い青色のポニーテールが揺れる。

 が、直後にその相手は少しだけ目線を後ろにズラしていた。目線の先は、しかし、仲間の頭や1組の他の生徒の背中で私からは見えてはいない。

 その間に話しの折り合いは付いたらしく、その相手は私の方へと真っ直ぐに歩いて来た。

 空席は私の隣だけ。だから自然とその相手が私に会釈してくる。


 噂では耳にしていた、恐らくは1組の編入生の1人。何でも他の学校から編入生が来ること自体が、この学園の歴史上、初のことだったらしい。

 しかも、編入生は全員、超能力者だという。

 超能力者には色々な呼び名がある。魔法使い、魔女、超人、異能者など。この国ではまだ正式な名称が定まっていない。

 能力は人それぞれで、魔術を扱う者、自然に働きかける者、霊的な何かを行う者、事象から物質を生み出す者、…… それこそ多種多様に存在するらしい。

 今はまだ研究段階で、解っていることは共有出来る能力と出来ない能力がある、属性という概念があって類似や相反しあう物もある、ということと、


「おお、貴方が噂の ”水神様” ですか~!」


 各属性には神が居る、ということ。


 四大神は【女神】【死神】【鬼神】【邪神】で、この4柱には特徴が無いらしい。

 属性神は【水神】【風神】【雷神】【炎神】【地神】の5柱で、水・風・雷・炎・地は五大属性と呼ばれているらしい。

 それ以外にも、知恵を司る智神、山を司る山神、音を司る音神、などが国内には居るらしい。


 その神の1人が、このお隣の編入生、宮本 千尋(みやもとちひろ)ではないかと噂されていた。

 実際の神様に会うのは初めてではあったものの、身に纏う気 ―― 所謂、オーラは濃い青色をしているし、少々水っぽくも感じ取れたので、恐らくは当たりなのだと思う。


「ウチは 羽生 紫 って言うんよ。よろしゅう」


 適当に自己紹介をしつつも、残り僅かなおかずを口に運ぶ。

 おかずが無くなっても円の重箱から貰えば白米は消化できる。というか白米だけでもそのまま頂ける。何も問題はなかった。


「ちょっと紫、食べてばかりいないできちんとご挨拶をなさい」


 円にツッコミされて呆然と考えた。

 円がグループに呼んだということは長い付き合いになるだろう。水神と友達になっておいて損はないだろう。

 —— いや、むしろ好都合か。


『面倒だから、こっちでえぇ?』


 脳内の言葉を脳天から放出する。通称、テレパシーとか言われている術の1つ。


『"水神様" なら、この声のことも知ってるやろ?』


 使えないとは言わせない。そんな気持ちを込めて伝えた。

 千尋にも伝わったのか、驚愕の瞳の他にオーラが乱れている。

 が、すぐに戻ったあたり、使えなくはないけど滅多に使わない、という感じだろうか。


『ウチは ――』

「紫、関西弁」


 瞳の一言に私が黙る。


「…… マジで?」


 全員が頷く。

 非能力者の面子まで頷いたということは、最初の自己紹介の一言から既に関西弁だったのだと理解させられた。変な癖のある関西弁から標準語に直したいと思っている私にはショックが大き過ぎた。


『えー。あー……』


 そして、言おうと思っていた言葉が消えた。

 この脳内が白い状態から思考を整理して文字を放つことは、この絶妙な空気の数秒間では不可能に近い。でも、このままじゃ、締まらないなぁ。


『…… ウチは2組にいて、えーと、円と瞳とは幼馴染です。もっと古い幼馴染が居るんだけど ―― それはどうでも良いか。

 とりあえず、食べることが大好きなので餌付けして下さいっ』


 最後は誤魔化す。

 にも拘わらず、


「餌付けし過ぎて太って来たって言ってなかったっけ?」


 瞳の辛辣なツッコミには、流石にドギマギしてしまう。

 でも、多分、瞳は気付いて言ってくれた気がする。


『好きなこと、やめろっていうのは酷いよ~』


 そう答えて茶を濁すことにした。




 数十分程経って、皆でつっついていた円の3段の重箱も残り僅かとなった頃。


「来生さん、いらっしゃる?」


 教室の前の扉付近から声がしたので振り向くと、見知らぬ女子生徒と、滅多なことでは女子校舎側には来れない男子生徒の2人が立っていた。

 そこには丁度、友達に囲まれた純が居る。純がこちらを見たので目が合った。


「瞳。誰か解らないけど、呼ばれてるっぽいよ」

「え? ―― 生徒会長? しかも2人??」


 瞳にも理解が及ばなかったらしい。

 立ち上がって私の後ろを通った後で、気になったので(慌てて口にニンジンの煮物を突っ込んでから)私も瞳の後を追う。


 この学園は男子校と女子校に分かれていて、女子校は山の上にあって歴史も伝統もある、有名なお嬢様学校。偏差値も高い方。

 一方で、男子校は山の下に9年程前に出来たばかりで、偏差値もそこまで高いとは言えない。

 ただ、女子校と同じ教育方針、教育方法をとっているので、礼儀や作法はしっかりと1年生の時点で叩き込まれてはいる。また、男子校舎と女子校舎の間には物理的に(地形的な)距離があるので、そう簡単には行き来出来ないことが、妙な恋愛沙汰を持ち込まずに済んでいる理由かもしれない。

 ただ、それでも男子校の高校の生徒会長は何故か不細工でも中学の女子にはモテた。


 中学の時は、委員会の種類としてクラス代表という役職がある。クラスから1名ずつ担って貰って、高校の生徒会で決議された内容をクラスに伝える役目らしい。

 高校になったらクラス代表から生徒会役員という役職に転化し、校内での規律改正などの重役を担うことになる。

 もっとも、高校3年生は大学受験があるので生徒会長は2年生が担うことになっていて、副会長は1年生が担い、2年生に上がったらその副会長が生徒会長になる、という規律があるらしい。


 瞳は去年、クラス代表を担っていた。ただ、仕事の都合で早退が多かったが為に、その穴埋めをほぼ代理の円が担っていたらしいことは聞いている。


「今日の放課後、時間、ある?」


 女子の生徒会長が瞳に訊ねる。が、瞳は険しい表情。

 瞳は早退してモデルの仕事に行くこともある。モデルの仕事が無い時でも食堂で面子とたむろっていることもある。

 今日は表情からして仕事なのだろうと悟った。


「実は転入生の件で緊急会議をすることになってね。ほら、まだクラス代表、決まっていないでしょう? だから元クラス代表の貴方に声をかけたの」

「転入生の中に有名人でも来たっすか?」


 嫌々な表情の瞳の問いかけに生徒会長の2人が目線で会話していた。

 過去にも、マドレーヌ名義で子役を仕事にしてきた円が1年生で入学した際に緊急会議は開かれ、決議された結果、男子生徒が女子校舎に、女子生徒が男子校舎に入る場合には担任か副担任の許可が必要ということになったらしい。

 もっとも、円のファンは男子よりも女子の方が多いし、その後の人質事件、通称マドレーヌ事件の時も女子の方が騒ぎ立てていた気はする。

 ただ、その様子を見て粗方理解してしまった私が答える。


「編入生の中に "リュウ様" が居た、とか?」

「あー。それなら会議になるのも解るわー。あの人なら、マドレーヌの比じゃ済まないし」


 "リュウ様" というのは、全てのプロフィールが謎に包まれた、つい最近ポンと出て来た男性モデルの1人。

 円の時はまだ子役ということもあってか、人気はあれど事務所から業界的に隠されていた部分はあった。

 でも、リュウ様は事務所に所属しないフリーのモデル。

 しかも、凄腕の超能力者でも追い付けない程、東都から住所不明の自宅まで独自の逃走ルートを持っている為に、帰路の足取りどころか未だに自宅の住所まで特定されていないという、今世間を賑わしている者の1人でもある。


「また人質事件になるのは勘弁願いたいなぁ」

「じゃぁ!」

「でも、今日はでっかい仕事があってさ。早退することも、既に担任に報告済みなんだよね」


 瞳は答えながらも溜め息をつく。


「そういう理由でしたら、仕方ありませんね」


 女子の生徒会長が答え、2人はその場を後にする。

 聞いたら悪いと思ったのか、それとも瞳の傍だと居心地が悪かったのか、普段は前方の出入口に居座っている純達のグループの姿はそこには無かった。




 なお、孤独を愛する私でも、同じクラスに友達が居ないことで困ることはある。


「今度のホームルームで修学旅行の班分けの話し合いするんだが、2人1組ずつ作って、そこからくじ引きで4~5人組の班を作っていこうと思ってる。だから前以て誰と組むか考えておいてくれ」


 担任の橋本先生の一言で私は深く溜め息をついていた。


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