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チートスキルだと思った?残念!ハズレスキルでした(泣)

作者: 日富美信吾

思いついたので。

楽しんでいただければうれしいです。

 気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。 


 確か、会社からの帰り道で——ああ、そうだ。スマホでWeb小説を読みながら歩いてたら、トラックに轢かれたんだっけ。


 三十五年間、独身童貞を貫いた俺の人生は、こうしてあっけなく幕を閉じたのだった。


 ——なんてことを思っていたら。


「ももも申し訳ございません……!!」


 突如現れた後光差すおっさんが土下座してきた。


「え、誰?」


「あ、私、神様です」


「そうなんだ、神様なんだ——いや自分で様付けとかおかしくないか?」


「えへ」


 おっさんがそんな笑い方してもかわいくない。


「というか、その神様がなんで俺に土下座を?」


「……いや〜、実はその〜……私の不注意で、うっかりあなたの寿命計算を誤ってしまいまして〜」


 あははと笑う神様。


「本来ならあと八十五年、あなたは独身童貞のまま生きられたはずなのです……!」


 おいやめろ! 百二十歳まで独身童貞が確定してたとか聞きたくないんだが!?


「……いや待て。じゃああれか? 俺が死んだのってスマホでWeb小説を読んでたせいとかじゃなくて」


「私のうっかりミスですね!」


 ドヤ顔でいうことじゃねえんだよなあ!


「ですので、あの、えっと、お詫び……と言っては何ですが。異世界に転生していただけませんか? お好きなスキルを一つ、何でも差し上げますので!」


 っっっっしゃあああああああああああああ!


 死ぬ間際までWeb小説を読んでた俺に隙はないぜ!


 こういう展開は完璧に把握しているッ!


 ここは外れスキル、これ一択だろ!


『外れスキルだと思った? 残念! 実は最強チートスキルでした!』


 この黄金パターン、最高だぜ!


 この世界では独身童貞だったかもしれないが、異世界に転生して、チートスキルで無双!


 そして美女にモテモテでウハウハな人生を送るんだ!


「じゃあ、外れスキルで!!」


 俺は鼻息荒く、自信満々に告げた。


「え……外れスキル、ですか?」


 神様が困惑した表情を浮かべる。


「本当にいいんですか? どんなスキルでも差し上げられるんですよ!? 例えば、万能魔法とか、絶対防御とか……!」


「いえいえ、外れスキルでけっこうです……!」


「ですが……!」


「大丈夫だって言ってるだろ!? 俺は! ハズレスキルが! いいんだああああああああああああ……!」


 俺、魂の絶叫である。


 だが、その後も神様は何度も何度も執拗に確認してきた。


 そのたびに俺は「ハズレスキル以外は必要ない!」と言い切った。


 俺の決意は揺るがないのだ。


 これがテンプレなのだ。


 お約束なのだ。


「……わかりました。あなたの覚悟がそこまで固いのであれば、あなたに『ハズレスキル』を授けます」


 神様はそう言いながらも、


「最後にもう一度聞きますが……本当に、本当にいいんですね?」


「もちろん!!」


 最後の念押しにも、俺は力強く頷いた。


 こうして——俺は異世界に転生した。




 気がつくと、俺は赤ん坊になっていた。


 転生先は剣と魔法のファンタジー世界。


 冒険者が活躍し、モンスターが跋扈する、まさに理想的な異世界だ。


 前世の記憶を持ったまま赤ん坊からやり直すのは正直キツかったが、それも最初だけ。


 幼少期から妙に大人びていた俺は、隣家の幼馴染——エリナという少女と仲よくなった。


 エリナは活発でおてんばな女の子で、いつも俺を外に引っ張り出しては遊び回った。


 前世では友だちも少なかった俺にとって、彼女の存在は新鮮で、そしてあたたかかった。


「ねえねえ、リオ! 大きくなったら冒険者になるんでしょ?」


 リオ、それがこの世界での俺の名前だった。


「ああ、もちろんだ。俺は絶対に大冒険者になる!」


 村人たちにも、そう公言していた。


 十五歳になればスキルが授かる。


 そうすれば、俺の本当の力が目覚めるはずだ。


 何せ神様直々に『外れスキル』を授かったんだからな!


 この時の俺はそう信じて疑わなかった。




 そして——きた、ついにこの日、十五歳の成人の日が!


 村の神殿に子どもたちが集まり、スキルを授かる儀式が執り行われる。


 今年、成人になったのは俺とエリナの他に、あと三人。


 ひとりずつ祭壇に進んで神託を受ける。


 一人、二人、三人。


 そして、エリナの番がきた。


 普段のおてんばさは鳴りを潜め、どうやら緊張しているらしい。


「大丈夫だ。別にとってくわれるわけじゃないし。いつもどおり、気楽にいってこい」


 俺はチートスキルを授かる余裕から、エリナを励ました。


「うんっ、ありがと! リオ!」


 エリナが笑った。


 ちっちゃい頃から一緒に育ったし、何なら俺が世話を焼いてきたこともあって、「エリナもこんなふうに笑うようになったんだよなあ」と感慨深い。


 さて、エリナはどんなスキルを授かるんだ?


「エリナ・フォッティは——聖剣使い!」


 神官の声が響き渡った瞬間、周囲がどよめいた。


「聖剣使いだと!?」


「伝説に謳われる数々の聖剣を召喚して自在に操れるスキルだろ!?」


 おい詳しいな村人のおっちゃんたち!?


 けど、マジか。エリナの奴、そんな超レアスキル、SSRスキルを授かったのか。


「やったな、エリナ!」


「すごいじゃないか!」


 村人たちが祝福する中、エリナは少し照れくさそうに笑っていた。


 この瞬間、世界の中心で輝いていたのは間違いなくエリナだった。


 だが、悪いな!


 主人公はいつだって遅れてやってくるものなのだ。


 つまり最後に儀式を受けるこの俺!


 俺がすべての話題をさらってやるぜ!


「リオ・トラム!」


 呼ばれて、俺は「はい!」と返事をして、神官の前へ。


「リオ、声が裏返ってる」


 うるさいエリナ! そういうことは思うだけにしておいてくれ!


 さすがに俺もちょっとは緊張するんだよ。


 さあ、宣言してくれ! 俺のチートスキルを!


「リオ、お主のスキルは——ハズレスキル!」


 キタコレ!


 俺、最強伝説の始まりだ!


 だというのに、どういうことか。


 神官の顔色が悪い。


 それどころか、


「気を落とさずに聞くんだ。リオ、君のスキルは『ハズレスキル』という名前のスキルで、なんの効果も発揮しない」


「は?」


 いやいやそれはおかしい。『ハズレスキルだと思った? 残念! チートスキルでした!』ってのがお約束だろ?


 俺がもっと詳しく調べてほしいと告げれば、神官はさらに申し訳なさそうな顔になって、


「もう本当にこれ以上ないというくらい、君のスキルは『なんの効果も』『どんな意味も』ない、ただ『ハズレスキル』という名前があるだけのスキルなんだ」


 ……ああ、そうか。


 だから神様は何回も何回も何回も念押ししたのか。


 ようやく理解した俺は、その場にうずくまって盛大に落ち込んだ。


 冒険者になって大活躍するんだと吹聴していた俺を見る周囲の目は、とてつもなくやさしくて、だからこそ逆に胸が痛くなってくる。


 やめろ! 俺をそんな目で見ないでくださいお願いします!


「リオ……大丈夫?」


 エリナが心配そうに声をかけてくる。


 聖剣使いというSSRとハズレスキル。


 幼馴染の格差がエグすぎる件について(泣)。




 成人の日にスキルを授かれば、俺は冒険者になって大活躍するんだ! と宣言してしまっていた手前、今さらやめるとは言えない。


 俺は顔なじみの行商人の馬車に乗せてもらい、町へ向かった。


 冒険者になるためだ。


 そして俺の隣には、なぜかエリナがいた。


 なぜ? と問えば、「えへへ」と笑う。


 かわいいな? いやマジでかわいいけども!


 なんでエリナまで?


 冒険者になりたいなんて話、聞いたことがなかったんだが。


 まあ、授かったスキルがスキルだし。


 村にいるより冒険者になった方がいいか。


 畑の雑草相手に聖剣を使うのもなんだしな。


 さて、町についた俺たちは冒険者ギルドへと向かった。


 エリナが登録した時は、


「聖剣使い、だと!?」


「こりゃあ将来Sランク冒険者間違いなしだな!」


 と大騒ぎになったものだが、一転、俺が冒険者登録すれば、


「ハズレスキル、だと!?」


 てっきり馬鹿にされるか、先輩冒険者に絡まれるかと思ったのだが。


 だってそれがお約束だし。


 しかし、なんということでしょう!


「がんばってくださいね!」


「応援してるぜ! 坊主!」


 ギルドの受付嬢も、先輩冒険者たちも、みんなやさしすぎて逆に泣きたくなるんだが!?


 バカにされるよりつらいことがあるなんて!




 そんなこんなで、俺とエリナの冒険者としての日々が始まった。


 エリナは聖剣を同時にいくつも召喚し、モンスターを次々と撃破していく。


 無数の聖剣を従え、自由自在に扱う彼女の姿は、まさにヒロインそのものだった。


「リオ、後ろ!」


「お、おう!」


 俺は無駄にはならないだろうと剣術だけは鍛えていたので、最低限の戦闘はこなせる。


 だがいかんせん、スキルがハズレスキル(笑)では限界がある。


 本当なら、俺がこうやって無双するはずだったのだが。


 悔しさと羨望が入り混じった感情を抱えながらも、俺はエリナとともに冒険者として過ごしていった。




 そんなある日のことだった。


 依頼で、森の奥深くへ進んだ時だ。


「いやああああああああああ! 虫いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 エリナが悲鳴を上げた。


 どんな凶悪で凶暴なモンスターにも臆さず突っ込んでいくやつが、手のひらサイズの虫に怯えている。


 ただ怯えるだけじゃない。


 俺に全力でしがみついてくる。


 ちっちゃい頃から知っているし、幼馴染だし、前世を含めれば俺の年齢はすでに五十歳にもなろうとしている俺だ。


 いくらエリナがすっかり美少女に成長したからと言って、別にときめいたりなんかしない。


 いやマジで。


 それよりモンスターを倒しまくっているせいでレベルアップしているやつに全力で抱きつかれたら俺の体が物理的に保たない!


「おい、ただの虫だろ!? 俺の骨が砕け散りそうなんだが!?」


「虫だけは駄目なの……!」


 いや知ってるけども!


 俺はエリナにしがみつかれ、全身から聞こえてくるバキボキという音を意識して無視しながら、エリナの前にぽつんと佇む虫を追い払った。


「ほら、追い払ったから! 早く離れろ! いい加減俺の体がヤバい!」


「……もう少しだけ」


 そんなかわいい顔をしても無駄だ! 独身童貞歴五十年を舐めるなよ!?


「……少しだけだぞ?」


 あと、せめてもう少し力を抜いてください。


「ありがと、リオ……」


 少しだけエリナが力を抜いてくれた。


 俺はエリナの頭を撫でながら、ほっと一息ついた。




 ギルドに依頼完了の報告をしてから、俺たちは同じ家に戻ってきた。


「どうせ一緒に活動するなら、同じ家の方がいいよね!」


 エリナがそう言って、まあそれもそうかと同意したからだ。


 前世、独身だったこともあり、俺は家事全般がそれなりに得意だった。


 俺が料理を作れば、エリナがうまそうに食べる。


 エリナはスキルにステータスを全振りしたみたいに生活能力が皆無。


 一度だけ挑戦したことがあるにはあるのだが、野菜を刻むのに聖剣を十数本召喚した時はさすがに突っ込んだ。


 おいSSRの無駄遣いはやめろ! あと野菜だけじゃなくて家まで壊れるだろ!? と。


 それ以来、家事全般は俺の仕事。


 冒険者としての活動ではエリナの方が上で、家では俺の方が上という、まあ、これはこれで釣り合いが取れていると言えばいいのか。


 それより、一緒に暮らそうと言い出したのは、実は俺の手料理が目当てだったんじゃないかと、最近疑いつつある。


「ぜ、全然そんなことないよ!?」


 全然そんなことない人は動揺したりしないんだよなあ。


 まあ、野暮なツッコミはしなかったが。


「リオはさ、私とずっと一緒だからね!」


 エリナがそう宣言してきた。


「ああ、まあ……お前、一人じゃ生きていけないだろうしなぁ」


「えへへ、そうだね!」


 エリナが笑い、俺も笑った。


 放っておけない幼馴染——それだけの関係だと思っていたのだが。




 ある日の夜のことだった。


 俺の寝室にエリナがやってきたと思ったら、


「リオ、好き」


 エリナが俺を押し倒してきた。


「え、ちょ、エリナ!?」


「だって、ずっと一緒にいるって言ったじゃん。それってプロポーズだよね?」


「はあっ!?」


 おい、あの台詞はそういう意味だったのかよ!


「リオは私の旦那さんになるの。だから、ね?」


 顔を真っ赤にしながらも、エリナは真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


 いつかのように全力というわけじゃない。


 俺の貧弱なステータスでも、今のエリナをどかすことはできそうだった。


 震えている、今のエリナなら。


 前世三十五年間、俺は独身で童貞だった。


 異世界でチートスキルを手に入れて無双。そしてモテモテになってウハウハしてやる! そんな夢を描いていた。


 でも、今。


 目の前で震えているのは、俺を必要としてくれる幼馴染。


 聖剣使いという才能を持ちながら、虫が苦手で、料理ができなくて、でも誰よりも強くてやさしい女の子。


「……ああ、そうだな。これからもずっと一緒だ」


 俺は彼女をやさしく抱きしめた。


 チートスキルで無双する夢は叶わなかった。


 けど、独身童貞だった前世では絶対に手に入らなかったものを、俺は手に入れた。


 それは愛する人、愛される喜び。


「これはこれで……いいよな」


 チートスキルだと思った? 残念! ハズレスキルでした!


 けど、それが何だ。


 俺は、世界一のしあわせを手に入れた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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2026/01/24

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