05.5 確かな熱【番外編①】
こちらの話は番外編になります。
目を通さずとも本編に支障はございません(多分)
前夜祭のセレモニーは異様な空気に包まれた。
他愛のない会話と豪勢な食事が行き交っていただけの空間。
だが――『魔狩りの獣人』が代表闘士として名を連ねているという事実
それが明らかになった瞬間、会場はその役割を失った。
多くの代表闘士、そしてその同行者たちは席を立ち、
未知の脅威から逃れるように会場を後にする事となった。
そんな流れの中で、
最高神が乾杯の音頭を終えるや否や、
ひときわ目立つ行動を取った闘士が一人いた。
彼の名は、グラノラ=チョップ。
土人種の代表闘士であり、
「世界中の酒を飲み干す」という、
実に単純明快な願いを胸に、この地へとやって来た男である。
彼は周囲の緊張など意に介さず、
会場を出ると真っ直ぐに闘士村へ向かい、
そこに一軒だけ存在する酒場――
『流浪の寄辺』の扉を押し開けた。
※※※
酒場の中に人影は二つだけだった。
「マスタァ! どんどん持ってきてくれ!」
開口一番の大声に、カウンターの奥にいた男は目を瞬かせた。
「あんた代表闘士なんだろう。いいのかい、こんなに飲んで」
客が入ってから、まだ五分も経っていない。
それにもかかわらず、カウンターの上にはすでに十本近い酒瓶が並んでいた。
グラノラはゴツゴツとした両手でそれらを代わる代わる掴み、
天を仰ぎ、ためらいもなく酒を喉へと流し込んでいく。
「――ァア!どれもうめェ!」
「悪いな。会場じゃあ、あんまり種類がなくてよ」
マスターは半ば呆れながらも接客を続けたが、
グラノラはまったく気にする様子もなく、酒を味わい、
やがて暇つぶしとばかりに話しかけてきた。
「なあ、マスターも土人種かい?」
「そうだね。……あんたみたいなのが代表闘士で、不安になるよ」
「ガハハハッ!そりゃわりぃな」
その顔に悪びれた様子は一切ない。
酔いが回り始めたグラノラは、初対面の相手にもかかわらず、
長年の友のような距離感で言葉を重ねていく。
「そうだ。今回さ、どの種族が優勝するか、賭けてみねえか?」
それまで適当に受け流していたマスターは、
その一言で、静かに身体の向きをグラノラへ向けた。
「ほう……何を賭ける?」
その変化を察したグラノラの目が輝く。
興奮を隠しきれない様子で、早口に続けた。
「負けた方が、勝った方の願いを一つ聞く。これでどうだ?」
眉をひそめ、マスターは溜め息をついた。
「あんた、どうせ酒が飲みたいだけだろ」
「……っ」
図星を突かれ、グラノラは悔しそうに歯噛みする。
「じゃ、じゃあよ! あんたは何か願いねえのか!」
「そうだねぇ……」
マスターは少し考えた後、皮肉を込めて言った。
「土人種の代表闘士様が、真面目に戦ってくれること、かな」
「うっさい!いいから賭けんぞ!」
四十二歳という年齢からは想像し難い態度で、グラノラは声を荒げた。
「……はぁ。で、あんたは誰が優勝すると?」
「決まってんだろ。前回優勝の『戦王』だ」
一度会っただけで理解できる圧倒的な力を持つ存在。
誰にとっても、その選択は堅実で、安定的であるはずだ。
「万が一があるとしたら、天人種代表の『処刑人』ぐらいか」
だが、マスターは鼻で笑った。
「あんた意外と無難だね」
「何がおかしいんだよ」
「豪快そうに見えて、勝ち馬に乗るタイプなんだなだと思ってさ」
舌打ちし、グラノラは問い返す。
「じゃあ、あんたは誰に賭ける?」
「……混血種か、獣人種の代表闘士かな」
その答えに、グラノラは一瞬、言葉を失った。
「どっちも無名だろ。ろくな情報も出回ってねえ」
「私はどうも昔から賭け事は下手でね」
マスターは散らばった瓶を片付けながら、淡々と続ける。
「それでも応援したくなる馬に、大きく賭けてみたくなる時があるのさ」
勝ちを見据えた堅実な賭け、
願いを託した不器用な賭け。
全く異なる二つの賭けが、酒場のカウンター越しに向かい合う。
「……いいぜ」
「賭けってのはリスクを取らねぇと面白くねえよな」
グラノラは赤くなった右手を差し出した。
「俺は『戦王』一点張りでいいぜ、あんたは二人に賭けろよ」
「ああ」
マスターもまた、その手を握り返す。
静かな夜の中で、両者の間には熱が生まれていた。
作者コメント
作品完結目指してほどほどに頑張ります!
気軽に文字を書ける場として番外編に手を出してみました。
こっちに熱が入りすぎて本編で苦しまない事を願います(^^)
キャラ紹介④
酒場のマスター
名前 :キース=フォーク
通り名:万食
出身 :土人種皇国
年齢 :1240歳
一人称:私
種族 :土人種
性格 :世話焼き 不器用
外見 :横にハネてる金髪、目は常に瞑っている
身長は165㎝ぐらい、コック帽にエプロン姿
好き :笑顔 香辛料
嫌い :貴族
悩み :愛包丁の経年劣化
特技 :調理
趣味 :放浪
実績 :世界人間至宝第二席/神位血種祭実行委員会『総料理長』最高神直指名
第一回神位血種祭四位/第四回神位血種祭五位
武器 :昔は短刀を二刀扱っていた、ここ五百年間は戦っていない
能力 :古今東西のレシピを記憶しており、幾万もの料理を作れる
常識外れの調理速度・精度をしており、もはや権能の域と評される
権能 :今は持っていない
キャラ紹介⑤
土人種の代表闘士
名前 :グラノラ=チョップ
通り名:生ける財宝
出身 :土人種皇国
年齢 :42歳
一人称:俺
種族 :土人種
性格 :快楽主義、安定志向
外見 :スキンヘッド、黒い無精ひげ
身長は175㎝ぐらい、革製の前掛けを着ている
好き :酒 賭博
嫌い :説教 仕事
願い :世界中の酒を飲む
悩み :仕事が多すぎる
特技 :鍛冶
趣味 :酒浸り
実績 :世界人間至宝第十席/第十回神位血種祭 土人種代表闘士
武器 :持っていないがどの武器でも使える
能力 :天性の器用さと独創性で様々な製法を編み出しながら武具を製造
彼の生み出す作品には権能に準ずる力『加護』が宿ると言われる
人々は彼を求めて工房へと訪れるが気まぐれでしか仕事をしない
権能 :今回の祭で最高神より貰っている




