03 外の世界
ここは祭の会場である闘技場。
開催二日前にしては、周囲にはすでに屋台が立ち並び、活気に満ちていた。
だが、その喧騒から少し離れた場所に、不安に駆り立てられた二人の来訪者がいた。
「はぁ……はぁ……」
「お、おい──! どうなっている! フェイをどこにやった!!」
「す、すまない……会場付近にはいるはずなんだ……。
少し、座標がズレただけで……」
ケインは今にも吐きそうなほど青ざめた顔で、心底申し訳なさそうにしている。
「りょ、料理の影響がここまでとは……」
ナタリアの目から見ても、これ以上の転移が困難なのは明らかだった。
「……私が迎えに行く。大体の場所は分かるの?」
「……」
ケインは言葉を発さず、震える指で方向を示すと、その場に倒れ込んだ。
今のナタリアには、ケインを気遣う余裕はない。
示された方向へ、一直線に駆け出していった。
※※※
一方フェイは、唐突に訪れた孤独に不安を覚えながらも、
目の前に広がる未知の風景に心を躍らせていた。
暗黒大陸では決して見られない、豊かな自然。
青々とした草木と澄んだ空気が、胸いっぱいに広がる。
――こんな高い木、見たことがない。
登れるだろうか。
そう考えた僕は、爪を樹皮に食い込ませ、慎重に木を登り始めた。
ある程度まで登ってから、ようやく気付く。
高い場所なら周囲を見渡せると思っていたが、
幾重にも重なる葉が視界を遮り、その望みは叶わなかった。
だが、代わりに別のものを見つける。
橙色の木の実。
一つもぎ取り、匂いを嗅ぐ。
危険な気配はないと判断してから、そっとひとかじり。
「……初めて食べる味だ」
溢れ出す果汁は甘さと酸味をあわせ持ち、渋みもない。
その味は残っていた不安を拭い去り、僕の心をさらに高鳴らせた。
「───」
「ん?」
気が緩んだことで、身体が本来の感覚を取り戻す。
死の大地で鍛えられた聴覚が、
遥か彼方から聞こえてくる音を捉えた。
それまでは様子を見るはずだった。
だが、外の世界に心を奪われた僕の足は、
音のする方へと自然に向いていた。
草木をかき分け、駆け抜ける。
「─を──け──」
女性の声だ。
これは……歌だろうか。
近づくにつれて正体が明らかになっていく感覚に、胸が高鳴る。
足を止めることができない。
やがて、視界にその姿を捉えた。
岩陰にいたのは、自分より少し背の高い女性だった。
周囲の草木のような緑色の髪に、乾いた砂を思わせる白い肌。
ボロ布を纏い、踊るように歌っている。
僕は茂みに身を潜め、観察を続けた。
額の右側に巻き角があり、耳の位置も自分や母とは違う。
獣人種ではない、別の種族なのだろう。
目を閉じ、歌声に耳を澄ます。
母が聞かせてくれたどの歌とも違う。
澄み渡る空に響く、高く伸びやかな声だった。
不意に歌声が止み、目を開く。
少女が目を開き、こちらを見た。
血とは異なる、明るく澄んだ赤色の瞳と目が合う。
「誰ッ!」
少女は即座にフードで顔を隠し、
腰のナイフを抜いて構える。
向けられた明確な敵意に戸惑う。
だが、覗き見していた僕に非があるのも事実だった。
僕はゆっくりと茂みから出て、両手を上げる。
「覗いてごめんなさい。……声が聞こえて、気になって」
「──で、誰なの?」
「フェイ……フェイ=フィローゼ」
声色からして、明らかに機嫌が悪い。
「目、合ったよね? 顔、見た?」
どうやら、それが理由らしい。
顔を見られてはいけない決まりがあるのかもしれない。
「……ごめんなさい。見ました」
短い沈黙が落ちる。
顔が見えない分、その静けさが妙に気まずい。
「──怖くないの?」
答えに詰まる。
どう返しても、間違えれば悪化しそうだ。
脳裏で母をイメージし、勝手ながら助言をいただく。
『フェイ、女の子には優しくしないとダメよ』
母なら、そう答える気がする。
「……き、綺麗だと思いました」
嘘ではない。と思う。
あの赤い瞳は、確かに綺麗だと思った。
「……ふーん」
声色が和らぐ。
少女はフードを下ろし、顔を見せた。
「本当に怖くないの?」
「……多分?」
ぎこちない返答に、彼女は「なにそれ」と小さく笑った。
「私、ミルフィリア。ミルフィでいいよ」
名を明かしてくれたことに、胸が少し軽くなる。
そこから、母とはぐれて会場を探していることを話した。
「へぇ。あなたみたいなちっちゃいのが獣人種の代表闘士なんだ」
ちっちゃいのという彼女の評価に内心少し傷つきながらも、
手を引いて案内してくれる彼女の善意に惹かれる。
「ミルフィは、祭を見に来たの?」
「ううん。呼ばれたの。私も代表闘士だから」
全身が硬直した。
警戒する僕を察し、彼女は慌てて言う。
「大丈夫、大丈夫。襲ったりしないって」
「祭が始まれば敵になるかもだけど、
迷ってる子を放っておかないよ」
……それでも、信じるには情報が足りない。
「ミルフィは……何の種族なの?」
彼女は一瞬、言葉に詰まった。
「えっと……その……」
疑念が膨らみ、距離を取ってしまう。
「あ、違うの。混血なの」
「トルベキラっていう混血の人たちの国から来たの」
必死に説明する姿に、僕はようやく理解する。
「……疑ってごめんなさい」
「いいっていいって」
再び差し出された手を、今度は安心して握り返した。
※※※
その後、祭について話す中で、思いもよらない事実を知る。
「……まだ権能、もらってないの?」
「権能?」
「最高神から闘士に与えられる力よ」
ケインの力を思い出し、背筋が冷える。
「私のは……まぁ、教えていいか」
そう言って、彼女は自ら腕に傷をつけた。
だが、傷はすぐに塞がる。
「再生能力、誰にも言わないでよ」
息を呑む。
――こんな力を持つ相手と戦うのか。
その時だった。
「……音がする」
「私には聞こえないけど?」
「……近づいてる」
次の瞬間。
ミルフィのナイフが右腕を巻き込みながら弾き飛ばされ、
僕の身体が投げ飛ばされる。
「フェイ──!」
母の声。
「……いったぁ」
「貴様、何者だ」
「こっちのセリフなんだけど、その子どうするつもり?」
ミルフィは傷ついた右腕を権能で再生させ、臨戦態勢をとる。
「─会話は通じないらしい」
完全な誤解だ。
だが、止める暇はない。
「お母さん!ごめん……!!」
無我夢中だった。
咄嗟に、僕は正面の敵に夢中になる母へ
背後から全力の頭突きを謝りながら叩き込んだ。
「──っ!?」
「……あいたぁ……」
二人揃って倒れ込む。
「……あ、お母さんだったんだ」
気まずそうに近づくミルフィ。
「ご、合流できて良かったね。大丈夫……?」
だが、僕も母も、
ただ頭を抱えて悶え苦しむしかなかった。
作者コメント
作品完結目指してほどほどに頑張ります!
たまに後書きでキャラとかの設定投下していこうと思います。
キャラ紹介①
メイン主人公
名前 :フェイ=フィローゼ
出身 :本人は知らない、5歳から暗黒大陸で育つ
年齢 :15歳
一人称:僕
種族 :獣人種、母は狼型獣人で父は???型獣人
性格 :好奇心旺盛だが内気、内心で色々考えるタイプ
外見 :黒色の瞳に灰色の髪、少し長めのくせっ毛、後ろで結っている
身長は低め、140㎝より高いぐらいのイメージ。ケモ耳。
好き :母、牛型魔獣の生肉、この回以降橙色の木の実も好き
苦手 :知らない人、蛇型魔獣(狩りに失敗した時に怪我を負ったため苦手意識有)
特技 :獲物観察、罠作り
趣味 :手刀の修行(母の大型魔獣をも一撃で貫き仕留める手刀に憧れている)
武器 :短剣、狩りで使う
能力 :母から学んだ狩りの技、観察・準備・急襲を三原則とする
権能 :まだ貰っていない




