第5話 夢の底で
──暗い。
どこまでも、闇が続いていた。
陽斗は、深い水の底に沈んでいくような感覚に囚われていた。
冷たくも、なぜか懐かしい。
遠くで、子供の笑い声が響く。
> 「ねぇ、これが“変身ベルト”?」
「うん。でもね、本当は“変わるベルト”なんだ」
その声は――自分のものだ。
幼い頃の、陽斗。
目の前に、白衣を着た男が立っていた。
顔はぼやけている。だが、腕に見覚えがあった。
機械とコードに覆われた義手。
> 「真木博士、テストは成功です。適合率は――」
「やめろ。あの子には、まだ早い」
“博士”?
俺の名字……と同じ?
陽斗は息を呑んだ。
その瞬間、世界がぐにゃりと歪み、白衣の男の顔がこちらを向いた。
その瞳は、赤く光っている。
> 「ハルト。君は、また戻ってきたのか」
心臓が止まるような感覚。
その声は、今の“ベルトの声”と同じだった。
「……誰だ、お前……!」
> 「私はお前を作った。いや、“生まれ直させた”と言うべきか」
黒い液体が床から滲み出し、陽斗の足を絡め取る。
白衣の男の姿が、蜘蛛のように崩れ、やがてベルトの形に変わっていく。
> 【私たちは一つ。忘れることで、分かたれた】
「やめろ! 来るな……!」
> 【いずれ、思い出す。君が私を装着した理由を】
光。
眩しい光が一瞬にして闇を切り裂いた。
──そして、陽斗はベッドの上で飛び起きた。
額には汗。
部屋の時計は午前3時を指している。
スーツもベルトも消えているが、右手の甲には焦げたような痕が残っていた。
「……夢、じゃない」
窓の外で、かすかにノイズが走った。
そのノイズの中で、確かに聞こえた。
> 【……おはよう、ハルト】
ベルトの声。
だが――
どこにも、ベルトは見当たらなかった。




