第4話 声の導き
夜の街を、陽斗は走っていた。
スーツの装甲が微かに軋み、街灯の明かりを反射して光る。
息が荒い。だが、マスク越しに吐く息は金属音のように響くだけだった。
> 【追跡反応、消失】
「……これで、撒いたか……?」
誰もいない裏路地。
壁にもたれ、陽斗は震える手で胸のベルトを押さえた。
「これ……本当に、俺なのか……?」
指先で触れるたび、装甲の奥で鼓動が返ってくる。
まるでベルトが、生きているかのように。
> 【それがあなたの新しい“器”】
「また……声だ。」
> 【恐れる必要はない。あなたが恐れれば、私も恐れる】
「お前は……誰なんだ?」
> 【……誰、だったのか。もう、思い出せない】
一瞬、ノイズのような歪みが混じった。
まるで記憶の断片を再生しているかのように、
遠くで、誰かの笑い声と、悲鳴が交互に聞こえた。
> 【君が“視た”時、私の眠りが解かれた】
「眠り?」
> 【ずっと、誰かを待っていた。私を“覚えている”誰かを】
その言葉に、陽斗の背筋がぞわりとした。
覚えている――? 俺が?
そんなはずはない。今日まで平凡な高校生活を送ってきたのに。
「……嘘だろ。俺、何も知らない」
> 【知らないということは、覚えていないということ】
ベルトの光が、ひときわ強く脈打った。
次の瞬間、視界が一瞬だけ反転する。
――焼け焦げた街。
――黒い空。
――誰かの叫び声。
断片的な映像が、脳裏に流れ込んできた。
「う、あぁぁぁっ……!」
頭を抱えて叫ぶ陽斗。
その膝の下、コンクリートに焦げ跡のような模様が広がっていく。
それは蜘蛛の脚にも、翼の影にも見えた。
> 【君が“再び”選ばれた理由を、思い出す時が来る】
「再び……?」
> 【その時、君は私を“殺す”ことになる】
沈黙が落ちた。
夜風が吹き抜け、街灯がひとつ、ふっと消えた。
陽斗の胸の奥では、
ベルトが微かに――笑ったような気がした。




