第3話 ベルトに宿る声
外のサイレンが、遠くで鳴っている。
割れたガラスの破片が夕陽を反射し、赤く光っていた。
陽斗は交番の外に出た。
胸の鼓動が、金属のような響きで耳の奥にこだまする。
息を吸うたび、スーツの内側で何かがうごめいた。
> 【戦闘終了を確認。生命反応、敵性値:消失】
「……今の、誰の声だ?」
返事はない。
周囲を見回しても、人の気配はない。
> 【ユーザー確認──真木陽斗。年齢17。適合率89%】
「な、なんだよ……どこにいるんだ!?」
> 【私はBLACK DRIVER。装着者の生命維持と戦闘支援を行う人工知能ユニット】
「AI……? いや、なんで俺の名前まで……!」
> 【あなたの神経系に接続済み。データはリアルタイムで共有中】
陽斗は思わずベルトを引き剥がそうとした。
だが、装甲の接合部がまるで生き物のように皮膚と融合していて、剥がれない。
「やめろ!こんなの……俺は戦いたくなんかない!」
> 【拒否権はありません。あなたはすでに“選ばれた”】
ベルトの中央で青いコアが脈打つ。
その光が、どこか悲しげにも見えた。
> 【あなたが視た時点で、運命は確定した】
「……視たって、アタッシュケースの中身のことか?」
> 【そう。あれは偶然ではない。あなたに拾われるよう“配置”されていた】
陽斗の背筋が凍りつく。
誰かが――最初から自分を狙っていた?
その時、背後の街灯がパチパチと明滅した。
何かが、こちらを見ている。
黒い影が電柱の上に立っていた。
> 【警告。新たな敵性反応──確認】
「もう勘弁してくれ……!」
> 【戦闘プログラム起動。コード:RELOAD】
ベルトの光が強く輝き、陽斗の身体が再び戦闘形態へと変化していく。
逃げたい――そう思っても、身体は勝手に動く。
そして、陽斗の耳元で再び声が囁いた。
> 【恐れるな、陽斗。君は……“人間”のままでいられる最後の希望だ】




