第一話 拾ってはいけない鞄
夕方、通学路の脇にそれは落ちていた。
黒いアタッシュケース。誰かの忘れ物にしては、やけに古びていて、金属の部分には焦げ跡のような黒いシミがついている。
「なんだこれ……?」
高校二年の**真木陽斗**は、しゃがみ込んでケースを手に取った。
意外に軽い。鍵もかかっていない。
少しだけ――ほんの、好奇心で――開けてみた。
中には、銀色のベルトのようなものと、奇妙な形の装置がいくつも並んでいた。
筒状のもの、カードリーダーのようなもの、液晶が光る小さな端末。
どこか、特撮ヒーローの“変身アイテム”を思わせる。
「……オタクのコレクション? って感じか」
呆れながらも、陽斗はケースを閉じ、近くの交番へと歩き出した。
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交番の中。
対応したのは四十代くらいの警察官。
どこか覇気のない目で陽斗の顔を見つめ、淡々と尋ねた。
「拾得物、ね。中身は確認しましたか?」
「はい。なんか、変身ベルトみたいなおもちゃが入ってました」
その瞬間だった。
警察官の目が――赤く光った。
「……視たのか」
低く、濁った声。
背中の制服が裂け、無数の黒い脚がうねるように伸び出した。
皮膚がひび割れ、骨が変形し、
瞬く間に“蜘蛛の化物”がそこにいた。
陽斗は言葉を失い、ただ後ずさる。
「な、なんだよこれッ……!」
机が弾け飛び、蛍光灯が割れ、闇が一気に満ちていく。
その手にはまだ、アタッシュケースがあった。
そして――ケースの中の“ベルト”が、淡く青い光を放ちはじめる。




