第13話 Ωコード・リライト ― 記録の境界 ―
世界は、裏返っていた。
空は黒く、海は赤く。
街の建物は上下逆さまに浮かび、時計の針が逆回転する。
悠真は瓦礫の上に立ち尽くしていた。
周囲に広がるのは、記憶と現実が混ざり合った“記録の裏側”。
> 『……ここが、世界の“裏面”。
記録が書き換わる前の層――存在の原文だ。』
「原文……? つまり、俺たちの現実は“上書きされた世界”だったってことか。」
> 『そうだ。そして、オメガはその“ペン”だ。』
遠く、空に巨大な光の裂け目が浮かぶ。
その中心で、オメガが静かに立っていた。
人の形をしているが、その輪郭は常にノイズで揺らぎ、誰にも確かな姿を見せない。
> 「……Z、行くぞ。今度こそ終わらせる。」
> 『ああ。俺たちの記録は、俺たちで上書きする。』
ベルトが反応し、悠真の身体を白と黒の光が包み込む。
二つの記憶が完全に融合する瞬間――
内部で何かが弾けた。
> 『システム統合――成功。新形態、コード:デュアルレコーダー。』
金属の音が響き、装甲が変化する。
白と黒が交互に重なり合う、双極の戦士。
その両目には、赤と青――YとZの記憶が共存していた。
「行くぞ、オメガァァァァァ――!」
轟音。
二人の拳がぶつかるたび、時間の流れが歪む。
過去の景色、未来の断片――全てがこの戦いの中で再生と消失を繰り返していく。
> 『Y……思い出せ。お前が最初に望んだ願いを。
戦うことじゃない。“記録すること”だ。』
「記録……?」
> 『そうだ。この力は破壊のためのものじゃない。
失われたものを、もう一度“書き留める”ための力だ。』
悠真は目を閉じた。
頭の中で、母の声が聞こえる。
> 「人の記憶はね、誰かが覚えている限り、消えないのよ。」
その瞬間、ベルトが純白に光を放った。
オメガの攻撃が止まり、黒い世界に亀裂が走る。
> 『コード・リライト――起動。』
悠真の意識が拡張し、全ての記録が光の粒となって舞い上がる。
失われた街、人々、笑い声――
一瞬だけ、世界が元の形を取り戻していった。
> 「……これが、“記録の力”……。」
オメガは静かに目を閉じる。
その表情は、どこか安らいでいた。
> 『……やっと、完全になれたな。Y、Z、そして俺。
これで――記録はひとつだ。』
光が収束し、すべてが静まり返る。
気づけば悠真は、あの日拾ったアタッシュケースの前に立っていた。
周囲は元通りの街、朝の光が差し込んでいる。
「夢……じゃないよな。」
> 『夢じゃない。お前が選んで“書き直した現実”だ。』
悠真は微笑んだ。
空の青さが、涙で滲んで見えた。




