第12話 コード・リバース ― 反転する記憶 ―
夜が明けきらぬ街に、霧が立ち込めていた。
悠真は廃工場の屋上に立ち、冷たい風を受けながら深呼吸する。
戦いの傷は癒えつつある。だが、胸の奥には未だに“Z”の声が響いていた。
> 『……消えたと思ったか? 違う、Y。俺はお前の中に戻っただけだ。』
「……やっぱり、そう簡単には終わらないよな。」
> 『当然だ。お前が生きている限り、俺も生きている。
だが、もう一つ――“第三のコード”が動き出した。』
「……第三の、コード?」
ベルトのコアが淡く赤く光り、映像のような幻が宙に浮かぶ。
それは研究所の記録映像――
白衣の男がカメラに向かって語っている。
> 「記録第92号。被験体Y・Zの分離に成功。
しかし、制御不能なデータ断片《Ωコード》が発生。
自己進化の兆候あり――封印処理を開始。」
映像がノイズとともに途切れる。
悠真は息を呑んだ。
「Ωコード……? それが“第三の記憶体”?」
> 『ああ。お前とZの分裂時に生まれた、制御不能な“原初の記憶”。
感情も理性も超えた、完全な“反転体”。』
その瞬間、足元の街が微かに震えた。
遠くのビル群のひとつが崩れ落ち、空が赤く染まっていく。
まるで――世界そのものが書き換わっているようだった。
> 『Y、Ωコードが覚醒を始めている。記憶の均衡が崩れる。
現実の構造が、“記録された過去”に侵食されていくぞ!』
悠真は叫んだ。
「そんなバカな……記憶が、世界を壊すのか!?」
> 『記憶は存在の根源。
それが反転すれば、現実すらも再構成される。』
瓦礫の中から、黒い影が立ち上がる。
その姿はZに似ている――だが違う。
瞳には光も言葉もなく、ただ“虚無”だけが宿っていた。
> 「Ω……コード……!」
> 『記録反転体。存在の“記憶そのもの”。』
オメガは音もなく手をかざし、周囲の景色が裏返る。
空は黒く、地面は白く。音が反転し、重力が狂う。
現実のすべてが、“記録の裏側”に引きずり込まれていく。
> 『Y、戦うな。今のお前では太刀打ちできない。
だが……Zの力を完全に受け入れれば、道はある。』
悠真は拳を握った。
心の奥から、あの声が再び響く。
> 『……やっと認める気になったか。俺たちは、一つだろ?』
「……ああ。お前が俺の影なら――
俺はお前の“記憶”として、生きる。」
ベルトが激しく光を放ち、黒と白のエネルギーが渦を巻く。
YとZ、そしてオメガ――三つの記憶が今、交錯しようとしていた。




