第11話 記憶衝突 ― Zの覚醒 ―
夜の街を切り裂く閃光。
その中心に立つのは、もう一人の“悠真”。
黒いコートの裾を翻し、まるで闇そのものをまとうように。
「……お前が、Zか。」
> 「違う。“お前の中の俺”だよ、Y。」
冷たい笑みとともに、Zは右腕を掲げた。
空気が歪み、見えない力が押し寄せる。
悠真の背後の電柱が、まるで握り潰されたかのように爆ぜた。
> 『警戒しろ、Y。Zのエネルギー値はお前と同等――いや、それ以上だ。』
「そんなこと、わかってる!」
悠真は腰のベルトに手を当てる。
無意識に、心の奥から声がこぼれた。
「変身――!」
光が走る。
装甲が展開し、再び“記録の戦士”が姿を現す。
その瞬間、Zもまた右手をかざし、黒いベルトが腰に形成された。
> 「おかしいな……本当はお前だけが“ベルトを継承する器”だったはずなのに。
どうやら、記憶も力も、完璧に“二分”されていたようだ。」
二人の声が重なり合い、
その場の空気が震える。
> 『Y、聞こえるか。Zは“怒りと憎しみ”だけを基盤に形成された記憶体。
感情が暴走すれば、世界そのものに干渉する危険がある!』
「だから止める! 俺は――もう一人の俺を!」
二人の拳が激突。
衝撃波が街を吹き飛ばし、建物の壁が粉砕される。
光と闇、二つのエネルギーが交差し、まるで空間が裂けていくようだった。
Zは微笑みながら囁いた。
> 「Y、わかってるんだろ? お前が存在する限り、俺は不完全だ。
そして――お前が消えれば、俺が“本当の悠真”になる。」
「違う! お前は俺の中の痛みだ!
けど、それを否定したら……俺はもう俺じゃなくなる!」
その言葉にZの表情が一瞬だけ揺らぐ。
ほんの一瞬――だが確かに、“涙”のような何かが光った。
> 『感情の干渉を確認。Zの内部プログラムが揺らいでいる。
今だ、Y――記憶を同期させろ!』
「……っ、うあああああ!」
悠真はベルトのコア部分に手をかざす。
両者のベルトが共鳴し、眩い光が辺りを包み込んだ。
――静寂。
風の音だけが残る。
Zの姿は消え、悠真の胸には焦げた痕が残っていた。
しかし、その奥で何かが囁く。
> 『まだ終わっていない……次に“完全な記憶”が現れる。』
悠真は空を見上げた。
夜明け前の光が、灰色の雲の隙間から差し込む。
「俺は――もう逃げない。」




