第10話 双子のコード ― 分裂した記憶体 ―
夜明け前。
悠真は、自室の窓辺で静かに目を覚ました。
まだ誰も知らない、胸の奥のざわめき。
昨夜の戦いの後から――ベルトの声が、もうひとつ聞こえるようになっていた。
> 『……Y。まだ眠れないのか?』
> 『違う、俺はZ。お前とは違う。』
二重に重なる声。
同じ音程、同じ響き、しかし感情がまるで正反対。
悠真は額を押さえ、叫びそうになるのを必死でこらえた。
「……お前ら、誰なんだよ……!?」
> 『私は“お前”だ。』 『そして“お前ではない私”でもある。』
光の粒が宙に浮かび、ベルトの紋章が浮かび上がる。
記憶の断片が流れ込み――白い研究室。
モニターには脳波を分岐させる装置、そこに横たわる少年がひとり。
> 「実験開始。記憶を二分化し、片方を感情制御体として移送。」
機械音。
少年の頭部から光の線が分かれ、二つのデータ球が生成されていく。
> 『――これが、始まりだ。』
「つまり……俺は“分裂した存在”?」
> 『そうだ。お前は肉体を持つ“記憶の器(Y)”。
そしてもう一方――“感情だけを宿した残響体(Z)”。』
ベルトの声が少しずつ低く、悲しげに変わっていく。
> 『YとZは、本来一人の人間だった。
だが研究者たちは、“完璧な戦闘体”を作るために人格を二つに裂いた。
感情のある記憶体と、理性のある記憶体に。』
悠真は膝をついた。
胸の奥に、誰かの痛みが流れ込む。
それは怒りでも悲しみでもない、喪失の感情。
「俺は……人間なのか? それともただの、実験の結果なのか……。」
> 『答えはお前の中にある。
だが――Zが完全に覚醒すれば、二つの記憶は衝突し、どちらかが消える。』
その瞬間、校舎の向こうで爆音が響いた。
夜の街を赤い光が裂き、闇の中にもう一人の“悠真”が現れる。
黒いコート、同じ顔。だが、その瞳には憎悪と歓喜が混ざっていた。
> 「やあ、Y。ようやく気づいたか。
僕たちは一つの記憶。だけど――生き残れるのはどちらかだ。」
悠真は震える手でベルトに触れた。
ベルトは低く唸りを上げ、光を放つ。
> 『……運命の分岐が始まる。記憶が、選択を迫っている。』
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