第2話 覚醒の刻(とき)
「う、うそだろ……!」
蜘蛛のような化け物が交番の中で蠢いていた。
制服の布が剥がれ落ち、露出した皮膚は黒い甲殻に覆われていく。
赤く光る複眼が、陽斗の小さな身体を捕らえた。
「見た者は、生かせない……!」
低く響く声が、まるで地の底から漏れ出してくるようだった。
陽斗は足をもつれさせながら後ずさる。
机の角にぶつかり、アタッシュケースを落としてしまう。
――カシャン。
蓋が半開きになり、中のベルトが音を立てて転がり出た。
まるで、自ら意思を持つかのように。
「……動いた?」
青い光が再び強く脈打つ。
ベルトの中心部に浮かぶホログラムが、陽斗に語りかけるように点滅した。
> 【適合者認定──装着開始】
「えっ、ちょ、まっ――!?」
ベルトが宙に浮き、陽斗の腰に飛びついた。
金属音とともに、自動でロックが閉じる。
身体の中に熱が流れ込み、視界が白く弾けた。
次の瞬間、全身に黒い装甲が展開する。
光沢のあるマスクが顔を覆い、心臓の鼓動が機械音のように響く。
> 【起動コード:BLACK DRIVER──オンライン】
「……なんだ、これ……俺が……?」
恐怖よりも先に、体の奥から“戦う衝動”が込み上げてきた。
蜘蛛の化物が咆哮し、床を砕きながら突進してくる。
陽斗は考えるよりも先に、腕を前に突き出した。
その瞬間、右腕の装甲が変形し、黒いエネルギーブレードが生まれる。
「うおおおおおっ!!」
反射的に振り抜く。
刃が閃き、化物の脚を切り裂いた。
黒い体液が飛び散り、化物が絶叫する。
> 【戦闘モード:承認】
「……戦える、のか……俺、これで……!」
だが、その手の中の力は――明らかに“人間のもの”ではなかった。
装甲の下から何かが脈打ち、まるで生きているように呼吸している。
恐怖と興奮の狭間で、陽斗は気づく。
――このベルトは、俺を“変えている”。
心まで、何か別のモノに。
外のサイレンが鳴り響く。
だが交番の中には、既に誰も人間はいなかった。
そこに立っていたのは、
“黒い装甲の少年”――ただ一人。




