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推しが現世に転生したのでぼくが全力で幸せにします  作者: おぐらあん


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 近くのドラッグストアが開く時間を見計らって家を出た。暑さは相変わらずで、だけどまだどうにかやり過ごせる気温だ。セティカは一緒に日傘に入るように勧めてくれたけど、気恥ずかしくてできなかった。ドラッグストアにつくと真っ先に目的の保存袋を探す。どれくらいの量が必要なのか見当がつかないけど、一番大きいサイズ、十枚入りのやつを十箱カゴに入れた。そのままレジに向かおうとしたセティカを引き留めると、セティカは怪訝そうな顔でぼくを見た。

「あのさ、マカロンやプリンはさすがに無理だけど、飴とかチョコなら、なんとかスクバに入らないかな?」

 セティカはまだ怪訝そうな顔をしている。思えばあちこちでいろんな甘いものを食べたのに、飴とかチョコとか、そういう気軽に口にできる「甘いもの」についてはノーチェックだった。ぼくはセティカを伴い、お菓子売り場を目指す。ずらりと並んだ飴とかチョコとかのパッケージを見ても、セティカにはぴんと来ないようだった。さすがにこんなの、試食とかもないしなあ。セティカはじっくりと丹念にパッケージを見ている。小さく「これは見たことがある」「これは食べたことがあったような?」なんて呟きながら。立ち止まったセティカはその場にしゃがみこんで、棚に手を伸ばした。

「これはあめか? ちょこか?」

 セティカが手にしていたのはべっこう飴。外装から個包装されているべっこう飴は琥珀に見えなくもない。セティカはそのイメージなのかもしれない。

「べっこう飴だよ。砂糖を溶かして作る」

 ほう、とセティカが感心したような声を出す。

「砂糖で飴と呼ばれるものが作れるのか?」

「うん。プリンにかかってるカラメルも同じだったはず」

 途端にセティカの目がきらきらした。おそらく実感が伴ったんだろう。ぼくが無言で差し出したカゴにセティカはべっこう飴を入れる。飴なら食べながらでも作業ができるな──ぼくは同じべっこう飴をもう一袋、カゴに入れた。近くにあったミルクキャラメルも。これは紙パッケージだから家で食べる用。それからもセティカは真剣な面持ちでチョコの棚を見ているので、参考になればと思い言ってみる。

「チョコソースとかチョコクリームならイメージできるよね? あれと似たやつだよ」

「まことか?」

 セティカの目はさらに真剣になった。スクバには少ししか余裕がないからたくさんは選べない。

「しょーしろぉのおすすめはどれか?」

 おすすめ? おすすめかあ。おいしいチョコって夏場にはあんまり売ってないよな。個包装で多少濡れても問題なさそうなやつだと──これかな。ビスケットとかアーモンドとか五種類の一口チョコがアソートになっているパックを手に取るとそのままカゴに入れた。セティカは棚の前を去りがたいようで、もっとゆっくり好きなだけ見させてあげたいし、なんなら買ってもあげたいと思うんだけど、持てる荷物には限りがあるし、それに加えて時間もない。これから戻ってあの大量の書き付けを厳選して保存袋でパッキングしなくちゃいけないんだから。

 なんて言葉をかけようかとそわそわしていたら、セティカがはっとしたようにぼくを見たのでぎくっとした。気がつかないうちになにか口にだしていただろうか……?

「他に必要なものはなかったな?」

「あ──うん」

「ならば買い物を済ませて帰ろう。帰ってもまだやることが山積みだ」

 ぼくはセティカにばれないようにこっそりと息をついてから、名残惜しさを振りきるように早足で歩き始めたセティカを追った。こんなことになるなら、近所のコンビニとかスーパーとか、もっといろんなところに連れていってあげればよかったんだ。当たり前に身近にあるお店だしなんとも思ってなかった。ほんとに今ごろ今さらになって気がついたどころでどうしようもないのに。


 たぶん三十分ほどしかドラッグストアにはいなかったはずなのに、そのわずかな時間で気温は急上昇したらしい。帰り道のあまりの暑さにしゃべる元気もでなかった。日傘の下、セティカは涼しい顔──というよりもどこか思い詰めたような表情で心配になった。だけどそんなセティカを気遣うことばひとつ出てこない。深いため息が漏れた。

「だいじょうぶか、しょーしろぉ? 日傘に入るか?」

 いかにも心配そうな顔つきのセティカと目が合って、ますます情けない思いでいっぱいになる。「大丈夫だって」と言い返したら思ったよりもキツい感じになってしまって、それで余計に気まずくなって歩調を早めた。

 家に帰って手を洗って、冷たい麦茶をコップに注いで一息に飲んだ。セティカはクッションでくつろぐ柴三郎さんに「ただいま」を言っていた。セティカの分もコップに注いで運んでいくと、セティカは「ありがとう」と受け取り、半分ほどを一息に飲んだ。微妙な空気感の沈黙が流れる。セティカは残った麦茶をさらに一息で飲み干すと、どこか気まずい沈黙から逃げるようにキッチンに向かった。

「置いておいて。ぼく洗うから」

 だけどセティカは自分が使ったコップをちゃんと洗って、リビングに放ってあった買い物袋を掴むとリビングを出ていった。リビングに取り残されたぼくはコップを洗って寛ぐ柴三郎さんの隣に寝そべると、その首筋を撫でた。柴三郎さんを撫でていると落ち着く。手伝った方がいいよな。でもなにを。セティカが持っていくものを、ぼくに選別できるわけないじゃん。そんなことを考えているうちに、少し眠ってしまったらしかった。

 何かが焼けるような音、バターが溶けるときの匂いが漂っている。頭を上げるとキッチンにセティカの背中が見えた。

「セティカっ?!」

 慌てて起き上がってキッチンに飛んでいくと、セティカがぼくを振り返った。

「パンと卵と牛乳、それからお砂糖をもらった」

 いやそんなことはどうでもいいんだけどさ。セティカが料理をするなんて。

「せっかくかーさんに作り方を教わったのに、一度も作っていなかったから。とーさんとかーさんに振る舞えないのは残念だが、せめてしょーしろぉには。ずっと世話になりっぱなしでろくろく恩返しもできておらぬし」

 恩返しなんて、そんな。いいのに。ぼくはぼくがセティカを助けたかったからそうしただけで。見返りを求めていなかったかと言えば──ちょっとは求めてたかもだけど、もうそれだって──。

「それはそれ、これはこれ、だ」

 セティカはちょっと危なっかしい手付きで、フライ返しでフライパンの中身をひっくり返す。ちょっと焦げ色がつきすぎな気はしたけど、食べられないほどではないだろう、きっと。そろそろ焼き上がりだと思ったので、お皿を出してセティカの側に置いた。ありがとう、とセティカは言って、IHクッキングヒーターのスイッチを切ると、やっぱりちょっと危なっかしい手付きでフライ返しを使う。フライパンから取り出されたフレンチトーストはフライ返しから落ちそうになり、だけどさっと寄せられたお皿の端にどうにか乗っかった。危うかった。フレンチトーストは全部で四切れあって、セティカはもう一切れを同じお皿に乗せた。さっきよりも手付きはましになっていた。あとの二切れをもう一枚のお皿に乗せ終え、ぼくはそれをダイニングテーブルに運ぶ。飲み物は、とセティカに聞くとカフェオレって返事が返ってきて、牛乳にインスタントコーヒーを入れてミルクコーヒーにする。セティカの求めるカフェオレはこんなんじゃないだろうけど、セティカは文句なんか言わなかった。ふたり並んで、早速一口。

「………………」

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