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推しが現世に転生したのでぼくが全力で幸せにします  作者: おぐらあん


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 ぼくたちは花火の準備をして里村の家を出た。ぼくがとーさんに買ってもらった手持ち花火の詰め合わせはセティカが持ってくれ、ぼくは里村に空のバケツを託された。等間隔に並ぶ街灯が照らす、車一台が通るのがせいぜいの細い道を通り、目的の公園に向かう。公園は想像していたより広くて、想像していたよりもうんと明るい。小学生が喜びそうな遊具が並び、ぽつぽつとベンチが据えられている。足元は芝生に覆われていて、天気のいい日なら適当に芝生に寝そべるのも気持ちがいいかも。でもこんなところで花火をして大丈夫なんだろうか──なんて考えていると、里村が「こっちこっち」とさらに公園の奥へと誘った。街灯が途切れた先にポールで仕切られ、アスファルトに覆われた広場があった。広場の端にバスケットゴールが立っている。

「夜間の練習がしづらいように、わざと街灯を減らしてるんだって。それでも練習する人はいるけどね」

 ここなら花火をしても街灯が邪魔にならないし、芝生が燃える心配もなさそうだ。

「考えることはみんな同じみたいでさ。この公園で花火っていったら、みんなたいていここでやるんだ。水も汲めるしね」

すぐそこにある水飲み場でバケツに水を汲んで、里村は持ってきた花火セットから小さなバケツを取り出した。花火に火をつけるための、中にろうがたっぷり詰まったやつ。里村はやや覚束ない手つきでライターでバケツの中の芯に火をつけた。

「よし。じゃあやりますか!」

 早速里村は詰め合わせの中から手持ち花火を取り出した。それをセティカに手渡す。続けてぼくにも渡してくれた。セティカは受け取った花火を握り締め、ぼくと里村を黙って見ている。里村が差し出した手持ち花火の先に、バケツ型のろうそくから火が移る。しゅっ、と音がしたかと思うと、ぱちぱちとにぎやかな音を立てながら火花と煙が噴き出した。ぼくの手の花火からも盛大に火花と煙が立つ。セティカは立ち竦んでいる。

「セティカもやってみなよ~」

 一本目の、火花が燃え尽きた花火の残骸を水が満たされたバケツに突っ込んで、里村が言う。ぼくも消えた花火を水入りバケツに突っ込んで、次の花火に火をつける。

 しゅー、ぱちぱちぱちぱち……ぼくと里村は隣に並んで、次々に花火に火をつけた。色とりどりの火花が散って、夜なのにまだほどほどに暑くて、ああ、夏だな、なんて思う。セティカは遠巻きにぼくと里村を見ている。

「……時間が経てば勝手に消えるのだな?」

 次の花火に火をつけようとしている里村にセティカが尋ねて、里村は陽気に「そうだよー」と応える。

「……儂の手まで、燃えるようなことは──?」

「ないない。絶対ない」

 それにはぼくが答えて、次の花火に火をつけた。しゅっと音が鳴って火花が噴き出す。セティカが小さく「ひっ」と息を呑む。セティカにとっては火は生活のために使うもので、こうして娯楽に供されるものではないから、当然と言えば当然の反応で。セティカはどうしても自分で花火に火をつけることができなくて、見かねた里村が火をつけた花火をセティカに握らせた。セティカは握った花火をできるだけ身体から遠ざけようと、思いっきり腕を伸ばしている。ぱちぱちと赤っぽい火花を散らしていた花火が静かになると、それでやっとセティカは「火薬が燃え尽きれば花火は自然に消える」ことに納得したようだ。次の花火は恐る恐る、自分で火をつけた。

 準備した花火の半分くらいが燃え尽きた辺りで、やっとセティカも花火を楽しむ余裕ができたようだった。里村が花火を持つセティカの姿を撮影して、ぼくに共有してくれる。ぼくはその写真をとーさんとかーさんに送った。

 ハイペースで花火を消費し続けているせいか、辺りには煙が漂っている感じがした。里村もそのハイペースに疲れたのか、次の手持ち花火を吟味してから火をつけていた。そこへセティカが声をかける。

「炎色反応、だったか?」

「そうそう。受験には必須だよ、国原?」

 話を振られてうっ、と息が詰まるような感じがした。せめて今くらいは受験のことは忘れたままでいたかった。

「美しい色だな。炎と言えば夕日のような色と思い込んでおった。科学技術の進歩とは──」

 その先は里村が花火に火をつけたから聞こえなかった。セティカは青白く、のちに緑っぽく光る火花を言葉もなく見つめている。花火に浮かび上がるセティカの顔は青白く、この世のものではない存在に思えて怖くなった。里村がいなければセティカの手を握っていたかもしれない。

「指先が冷たくなってる。まだ緊張してる?」

 里村が自然にセティカの手を握る。セティカは素直に頷いた。

「初めてだから。でも花火は綺麗だし、ミサもしょーしろぉも楽しそうだから、よかった」

「セティカは楽しくない?」

「ふたりと、火花の色を眺めているのは好きだ。楽しい──は、うん、ちょっとよく解らない。あとで思い返したら楽しかった、と思うのかもしれぬ」

 セティカの真面目な答えに里村が声を立てて笑う。その里村を見てセティカが笑う。ぼくはそんなセティカを見て、よかった、と思う。セティカが笑ってくれてよかった。

「もうだいぶ少なくなってきたねー」

 近くの自販機で買ってきたサイダーを飲みながら里村が花火の残りを漁っている。脇に避けたのは線香花火だ。水入りバケツは花火の残骸でごちゃごちゃになってしまったので、ゴミ袋に移し替えてバケツには少し水を足した。バケツ型のろうそくの炎が微かな風に揺らめいた。セティカが緑茶を飲んでから、里村に聞く。

「それはどうして脇に避けたのだ?」

「これ? 線香花火だから。花火のシメは線香花火だよ」

 解る。でもどうしてぼくたちは、線香花火で花火をシメるのだろう。

「花火ってやってるそのときは楽しいけど、終わりが近づくとだんだん寂しくなってくるじゃない? 普通の手持ち花火なら余韻もなくあっという間に終わっちゃうけど、線香花火なら終わっちゃうまでに『あー終わるなあー』って余韻に浸れるからじゃないかな?」

 里村が消えた花火をバケツに突っ込みながら言った。

「そんなわけで、手持ち花火はあと三本。ひとり一本ずつね」

 言いながら差し出された花火を受け取る。里村は二本のうち一本に火をつけてセティカに手渡した。セティカも黙って受け取る。ぼくも受け取った花火に火をつけた。しゅーっぱちぱちぱち──賑やかな音と色、ついでに煙をまき散らしながらあっという間に花火は消えた。燃え尽きた花火をバケツに突っ込む。

「よし、じゃあ、シメね」

 里村が握る線香花火の束。二十本はあるかと思われる。

「これならセティカも怖くないと思う。こっち寄って」

 里村の言葉を受けて、ぼくたちはバケツ型ろうそくを囲むようにしゃがんだ。里村が最初の一本に火をつけた。細長い火薬の先端が小さな球にまとまって、ぱちぱちと軽やかな音と一緒に火花が弾ける。ぱっぱっぱっと弾ける火花が落ち着くと、すうっすうっと長細い火花が散り始め、それもちょっとずつ細やかになったかと思うと、球がぽとん、と地に落ちた。

「火薬が──落ちた」

 セティカが囁く。

「これも花火──か。趣深い」

「でしょ? さあどうぞ」

 セティカは躊躇うことなく里村が差し出す細い花火を受け取り、里村の手つきを真似て火をつけた。ちりちりぱちぱちと弾ける火花を、すうっすうっと散る長細い火花を、そして最後にぽとりと落ちる小さな火球を、セティカは息を詰めるようにして見つめていた。火球が落ちてからもしばらく、セティカは身動ぎもせずにいた。

「──どうかした?」

 ぼくの言葉にはっとしたようにセティカが顔を上げ、目だけで返事をした。里村はそんなセティカに黙って次の線香花火をセティカに差し出す。セティカもまた黙ったままで受け取って、火をつけた。

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