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 家への道すがら、ぼくは『セティカ』に問われるままに『暁の契約者』について説明した。『セティカ』は「ほう」とか「ふむ」とか短い返事を合間に挟む。ぼくはぼくなりに、ある可能性について考えていた。聞かれていないから答えてないけど——セティカは、死ぬ。どのルートを通っても、どのルートを避けても、必ず、絶対に、死ぬ。選ぶルートによって死因は様々だけど、王女との婚約を目指す「トゥルーエンド」を「正史」とするなら、セティカは主人公を庇って、毒矢に射られて死ぬ。

 セティカが攻略対象外なのは、ストーリー上「死」が約束されているキャラクターだから、という理由もあるのかもしれない。どこかに「セティカ生存ルート」がないのか、攻略サイトやファンサイトを巡ってみたけれど、どこにも存在しなかった。

 だからここにいる『セティカ』は、あのゲーム世界で死んだセティカが、現世に転生してきたってことなんじゃないだろうか……?

「しょーしろぉ」

 『セティカ』はぼくの名を聞いて、それからは何とも表現しがたいイントネーションでぼくを呼んだ。

「どうやらこの『世界』は、もともと儂が住んでいた『世界』とは違う『世界』だということは解った。どうしてこのようなことが起こったのだろう?」

 それはぼくにも解らない。だから素直に「解らない」と応じた。

「……けったいな。なにかそういう話は聞いたことはないか?」

 その質問には「異世界に転生する物語なら、いくつも知ってるけど」と答える。

「まことか⁈」

「物語だけどね。現実に起こったことがあるのかどうか、って聞かれたら、ぼくが知る限りはないよ。だけどそれは『起こったことがない』という証明にはならない」

 そこで家に辿り着いた。とりあえず、この状況をかーさんやとーさんに、どう説明したらいいだろう? なにかいい方法はないだろうか。そこではっと閃いた。

「ねえ、あのさ。暗黒魔術は——使えそうなの?」

「すでに使っておる」

 『セティカ』は真面目な顔つきでしれっと答えた。何に?

「しょーしろぉと言葉が通じるように。それから、しょーしろーの記憶を『覗いた』ときに」

 ああ——なるほど。さっきはセティカになりきっているからあんなことをしたのかと思ったけど、本当に暗黒魔術でぼくの記憶を『覗いて』いたのか。すご。

「あのさ、セティカのこと、きっと説明してもかーさんたちには信じてもらえないだろうから、セティカはよその国から来た『留学生』ってことにしない?」

「りゅうがく、せい?」

 『セティカ』が意味が解らん、という顔をしたので。

「あーもうめんどいからぼくの考えを『覗いて』みてよ!」

 ぼくが言い終えるとすぐに『セティカ』は、ぼくの額にその額を合わせた。しばしの沈黙。そして。

「なるほど解った。試してみよう」

 言葉通り、納得した、という表情で、さらにその表情には自信が満ち溢れていた。ドアを開け「ただいま」と言って、柴三郎さんの足を拭いた。かーさんが「おかえり」と言いながら顔を覗かせて『セティカ』を見てびっくりしたような表情を浮かべて、固まった。隣の『セティカ』をちらっと見ると、その横顔はやっばり自信満々で。

「あーあーもう。どうしたらそんなに濡れるほど池に落ちちゃうのよ? 怪我しなかった?」

 かーさんが『セティカ』に向かってそんなことを言った。『セティカ』がぼくに目配せをしてきて、どうやらぼくが考えた「設定」でうまく魔術が作用したみたいだ。

「怪我はない、大丈夫だ」

 『セティカ』の答えにほっとした様子で、かーさんがさらに続けた。

「シャワー使うといいわ。着替えは私のスウェットとスカートで我慢してね?」

 『セティカ』は素直に「はい」と返事をして、あらためてぼくを見た。

「基本設定は問題なく完了した。とりあえず——かーさんの言う『しゃわー』とやらについて教えてくれ」

 そこでようやくぼくは、この『セティカ』は本物のセティカである、と確信するに至ったのだった。かーさんに、セティカが施した暗黒魔術でぼくの考えた設定が通じていることを目の当たりにしたんだから、信じるしかない。バスルームにセティカを案内したあと、リビングで流しっぱなしになっている音楽を聴きながら、ぼくは密かに決意した。

 あの世界で死んだセティカが現世に転生してきたって、いうなら。

 この世界で、ぼくがセティカを、全力で幸せにする。

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