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推しが現世に転生したのでぼくが全力で幸せにします  作者: おぐらあん


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 魔力が消えてなくなる。やっぱり、そうか。

「ぼくたちが考えた『設定』も消えちゃうかな?」

「それはどうだろう。もうすでにこの世界中に影響してしまったことは、消えはしないとは思うが──解らん。なにせこれまで生きてきて、魔力そのものが消えたことなどないからな」

 きっとぼくの知らないうちに、セティカはひとりでたくさん考えていたんだろう。ぼくがセティカを幸せにする──なんて息巻いておきながら、結局ぼくは何もできていない。せめて気が付いたときに話してくれたらよかったのに。

「しょーしろぉには世話になっておるからな。儂にも解らぬことで煩わせとうなかったのだ」

 セティカは驚くほど無表情だった。

「暗黒魔術の効力はふたつの月の満ち欠けに影響される──これはしょーしろぉも知っておろう?」

 頷きで返すとセティカは続けた。

「元の世界においては、魔力の総量そのものが月の満ち欠けに影響を受けることはない。だが──そもそも魔力も魔術も存在しない世界に転生したのだから、もしかすると月の満ち欠けが魔力に影響しているのかもしれないと考え。それで儂はこの世界の月について調べることにした」

 なるほど、それで天文部。それにしては調べているのは月だけじゃないようにも思ったけど、それはあとで聞くことにして、今はセティカの話の続きに集中しよう。

「この世界には月がひとつしかないから、計算してみるまでもなかった。この曲線の上下は月の満ち欠けと完全に一致しておる。どうやら儂は新月の日にこの世界に転生したようだ。この谷がこの前の満月の日、この山はこの前の新月の日。この緩やかな上下を繰り返し、いずれ儂の魔力は完全に消滅するのだろう。しょーしろぉには申し訳ないが」

 別に申し訳なくなんかないよ。暗黒魔術が使えようが使えまいが、セティカはセティカだ。

「ふふ。しょーしろぉならそう言うだろうと思った」

 そこでセティカはちょっとだけ笑った。だけどすぐにその笑みは消えた。

「このまま何もせずにいれば、きっと魔力は消えてしまうのだから──悪あがき、というものをしたいと思うてな」

「悪あがき?」

 セティカが頷く。

「しょーしろぉには反対されたが──元の世界に戻る方法を探してみたいのだ」

 セティカの真剣な瞳を見ていたら、反対なんてできなかった。ぼくの大好きなセティカがそこにいた。きっとぼくはこういうセティカだからセティカのことが大好きになった。それに。ぼくは気が付いてしまったから。

「──ねえセティカ、変なことを聞いてもいい?」

「──変なこと?」

 セティカに頷いて見せてからぼくは先を続けた。

「セティカはこの世界に来る直前のことはよく覚えていない──って、言ってたよね? ぼくの記憶が確かなら──セティカは死ぬ前の数か月、行方知れずになっていた時期があるんだけど、何か心当たりが、ない?」

 セティカの瞳がくるりと動く。頭の中で過去を探るみたいに。

「儂が、行方知れず……? どういうことだ……?」

 困惑したような表情のセティカに、ぼくはもう一度頷いて見せた。

「お師匠と修練のために『黒の森』に籠ったよね? そのとき『冥府の泉』で清めの儀式をしているはず、なんだ。そこで急に濃い霧が現れて──霧が晴れたときには、付近にセティカの姿はなかった。そこから数か月、セティカは行方知れずだった」

 セティカはまだ困惑している。

「たぶんセティカは、転生したんじゃなくて──転移しただけ。この世界に。だから魔力は消えなかったし、死んだときのことも覚えていないんだ」

 一息に言った。セティカの困惑は茫然へと変わっていた。

「──てん、い……だと? それは、もしかして──?」

 セティカがある可能性に思い当たったようだ。ぼくはさらに言った。

「セティカとお師匠が求めていた暗黒魔術の極意は、空間の転移、だったはず。たぶんセティカはお師匠と一緒に『冥府の泉』での清めの儀式ののち、紐解いたばかりの転移術を試した。──違う?」

 ──『暁の契約者』ゲーム内では、セティカが行方知れずになった──という事実は語られるけれど、その間セティカがどこで何をして──というような、詳細なエピソードは語られていないから、ぼくも知らない。ゲームの本筋には全く関係ないことだから、語られることもなかった。でも戻ってきたセティカは秘術とされた『転移術』を完璧に身に着けていたから、たぶん、いや、間違いなく。

「不完全だった『転移術』を完成させて、元の世界に戻るんだよ、セティカは」

 セティカはぼくの言葉を聞いてもまだ茫然としていた。死んで異世界に転生したと思っていたけど、実は死んでないし『転移』しただけ──なんて、そうそうすぐに飲み込める話じゃないかもしれない。

「──それは、つまり、どういうことだ、しょーしろぉ?」

「セティカは死んでないし、元の世界にも戻る方法があるってこと」

 その先は言えなかった。セティカは元の世界に戻る──主人公を守って死ぬために。そういう意味では「セティカが死ぬ」という事実を知られてしまったのはまずかったかもしれない。だけどしょうがない。だってあのときはぼくも、セティカは死んで、だからこの世界に転生してきたと思ったんだから。ぼくが最初からペンダントのことに気が付いていたなら、こんなことにはならなかったのに。

「──そして儂は、兄様をお護りして命を落とす──と、そういうこと、だな……?」

 ぼくが言わなくても、セティカはちゃんとその事実に気が付いた。頷いた。頷くしか、なかった。セティカの瞳に次第に光が戻ってきた。

「そうか──ならば──」

 儂がなすべきはひとつ──顔を上げて決意を込めて呟いたセティカが眩しくて、これこそがぼくの推しのセティカのあるべき姿だった。悲しいほどに。

「しかしなぜ──そうと確信しているのだ、しょーしろぉは?」

 セティカに問われ、ぼくはちらっと棚に──そこに置かれたペンダントに視線を投げた。

「うん。行方知れずになっていたセティカが戻ってきたとき、あのペンダントが無くなっていたんだ。セティカは詳しく語らなかったし事実は解らない、けど、たぶん元の世界に戻る前にあのペンダントは無くなる。もしかしたら『転移術』の完成に必要なのかもしれないし、他の理由かもしれないけど。だから最初にセティカに会った時、あのペンダントを身に着けていたことに、ぼくは違和感を感じなくちゃいけなかったんだ──。そういう意味では、ごめん。役立たずで」

「そんなことはない。それに気が付いたとて、隠し通すこともできたはずだ。なのに」

 そうだよそうだよね。隠そうと思えばできたのに。どうして正直に話しちゃったんだろう。セティカに指摘されて初めてぼくは後悔していた。そうだよ、黙っていればセティカはこのままずっと、この世界で生きていくことになったのに。戻ったところでセティカが死んでしまうこともしっていたのに、どうして、ぼくは。今度はぼくが黙り込んで考える番だった。考えて考えて、ようやく見つかった答えは。

「それがセティカにとっては幸せなことなんじゃないか、って」

 ただそれだけ。おいしいスイーツを食べることも友だちと楽しく過ごすことも楽しいことには違いないし、幸せなことにも違いない、けど、セティカがほんとうに求める「幸せ」はたぶんそれじゃない、って、気が付いちゃったから。悪あがきをしたい──そう告げたときのセティカは、しばらくぶりに見る「本来のセティカ」だった。ならぼくは、そんなセティカに力を貸すべきで──それこそが正しい「推し方」だって、思った。

「幸せ──か。しょーしろぉがそういうのなら、そうなのもかもしれぬな」

 セティカが笑う。ぼくは泣きたい気持ちをぐっとこらえた。きっと変な顔をしてるだろう。うわべだけでもいいから、セティカの目に「笑うぼく」が映っていればいいな──なんて思っていた。

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