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全部の展示を満足するまで眺めて、物販のコーナーを離れたら四時を回っていた。
「おもしろかったー」
声に出してから、はた、と気づく。っていうか里村はつまらなかったんじゃ……?
「うちの目的は、これ」
里村が差し出したのはポストカードセット。あれ、これって確か——作者さんが随分前に手掛けたゲームのキャラクターじゃなかったっけ。本人的には『黒歴史』扱いで、今はどこにも出してないから見れないって聞いたような。
「そ。うちこの子がめっちゃ好きでね。この子を立体にしたかったんだけどネットじゃ転載転載転載で劣化した画像しか見つからないし。そしたら今回、再販するっていうから」
「どうして再販しようと思ったんだろ?」
「オトナの事情ってやつじゃない? 権利関係でもめたから『黒歴史』ってことにして、オモテには出さなかったみたいだしねー」
なんでそんなことを知ってるんだ。
「ちょっと調べたら関連記事いっぱい出てくるよ。まあ、調べようと思わなかったら目にすることもないよねぇ」
そういうもんか。里村はそのポストカードを大事そうにバッグにしまってから「何か飲もう」と言いながら先に歩いて行く。デパートを出て少し歩くとジューススタンドがあって、そこで里村はパイナップルジュースを買った。ぼくは少し迷って無難なグレープフルーツにした。受け取ったカップを手に駅に向かって歩いていると。
「しょーしろぉっ!!」
セティカが人波の向こうからぼくに向かって手を振っていた。そのまま近くを歩いている女の子を呼び止めて二言三言交わすと、その女の子と周りにいた人たちに笑顔で手を振って環を抜け、ぼくに向かって歩いてきた。隣の里村の「まじめっちゃ美人」という呟きが聞こえた。
「しょーしろぉも出かけておったのか?」
セティカはぼくに言って、それから里村に視線を向けた。
「こちらは? しょーしろぉの友人か?」
「同じ美術部の里村」
里村が無言で頭を下げたのが視界に入る。なんだか里村らしくない。
「美術部、ということは、こちらも絵師なのか?」
絵師、と里村が小さく繰り返し、ちらっとぼくを見てから「いえ、うちは粘土細工をメインにやっていて」と答えた。その目つきで里村が「絵師」という言い方にある種の誤解をしたのが解ったけど、セティカが興味深そうに「粘土細工?」と問いかけたので、誤解を解く暇はなかった。
「こういうのです」
答えながらも里村はスマートフォンの画像を見せていた。ぼくにも送ってきたあの画像だった。
「ほう。見たところ彫刻に似ているようだ」
「そうですね。でも粘土だから、彫刻ほど難易度高くないとは思います」
「ほう」
土曜日の夕方、それなりに人通りも多いのでこれ以上は通行の邪魔になりそうだ。セティカの腕をそっと引いて歩道の端に寄ると、里村もそれを察したのかセティカを庇うようにしながら動いてくれた。しばらくその場で立ったまま、セティカは里村のスマートフォンを見ながらあれこれ喋っている。一段落したのか顔を上げたセティカが、ぼくの手の中にあるプラカップから視線を外さずに聞いてきた。
「ところでしょーしろぉ、それは何だ?」
「フルーツジュース。さっきあっちのジューススタンドで買った」
「フルーツ、ジュース?」
セティカの瞳がきらっと輝く。まあそうなりますよね、と思いながら里村を見た。
「ちょっとさっきのジューススタンドまで戻る。里村、どうする?」
「つきあうよー」
三人で——というか、ぼくを先頭に、里村を相手にあれこれ喋るセティカがついて来て、ほどなくさっきのジューススタンドに戻った。
「なんときらびやかな」
店先に着くなりセティカは言って、うっとりとした表情で色とりどりのフルーツとジューサーを見つめている。何飲みたい? と聞いたら、さんざん迷ってから季節限定のスイカジュースをオーダーした。セティカにプラカップを手渡す店員さんがぽーっとしているのが解って、あらためてセティカの美形ぶりを認識した。もう一人の店員さんが何かを言いたそうな目でこっちを見ていて、ぼくと目が合うとこんなことを聞いてきた。
「彼女、タレントさんか何か? すっごい美人さんだけど?」
「いえ、ソロスから来た、ただの留学生です」
ぼくの答えに店員さんは、ああ、と納得顔をする。
「あの国って美形揃いっていいますもんね」
なるほど、世間ではそういう認識になってるのか。ぼくが決めたはずの設定から大きく外れてはいないようにも思うけど、変な感じだ。スイカジュースを口に含んだセティカはいかにも満足そうで、それについてはぼくの決断は正しかったことになる。三人で駅まで戻ってそこで里村とは別れた。里村はちゃっかりセティカに「夏休みになったらフィギュアのモデルになってください」と頼んでいて、セティカは快諾したらしかった。セティカが出かけた理由が気になったけど聞けないまま、逆にセティカに何をしていたのか聞き出されながら家路に着く。陽は傾き始めているというのに気温が下がる様子はなく、やっぱりまだまだ暑いままだった。




