Paint It Blue ~太陽は赤で塗りなさい!~
◆
今から40年ぐらい前、私は小学2年生だった。
ある日の、図画工作室でのことだ。
黒板に張り出された、1枚の水彩画。女の先生が、その絵を指しながら絶叫する。
「いいですか? 太陽は赤で塗りなさい! こんな、ふう、にッ!!」
叫びながら、先生は絵筆と雑巾を手に取った。
青白く塗られた太陽に、絵筆で水をつけ、雑巾で器用に拭き取っていく。青色が目立たなくなったところで、雑巾をパレットに持ち替えた。
パレットの上には、赤い絵の具。水と黄色の絵の具で、薄めてあるようだ。
それを筆につけ、絵の中の太陽に塗っていく。
とても綺麗だ。
……と思ってたら、隣の席の子が聞いてきた。
「大丈夫? 絵があんなになっちゃって」
「え? めちゃくちゃ勉強になったけど……」
そう返事したら、その子が顔色を変えた。私を憐れむような表情から、お化けでも見たかのような顔つきに。
……あぁそうか、あの絵は私が描いたんだったな。それを勝手に描き換えられるのは、たしかにムカつく。
でも、先生にそこまでさせてしまったのは私だ。
何がダメなのかは分からない。けど、心当たりはある。
周りの子たちに見せたときの、反応だ。
◆
「何それ、お月様?」
「へぇー、太陽なんだ……」
「嘘だぁ~、太陽は赤だろ。青なんかありえねぇよ」
小さい頃から、「絵が上手いね!」と褒められてきた。
そんな私でも、“青く塗った太陽”だと思ってもらえなかった。
赤く塗らなきゃ伝わらない――――私の“上手い”は、まだその程度だ。
もっと上手く描きたい。もっと色んなことを知りたい。
“描きたいこと”がちゃんと伝わる、そんな絵を描きたい。
――それと比べたら、どうでもよかった。先生の怒り方なんて。
◇
あれから四十年。
とある公募展で、私の絵が金賞に選ばれた。
マイクを持った男性が、私に問う。
「おめでとうございます。この結果を、どなたかにご報告されますか?」
「はい。大切な家族と、小学校時代の恩師に」
そう答えてから、ふと、自分の油彩画を見た。
高層ビルと公園の緑が同居する、ある都市の遠景。その真ん中には、太陽がド~ン、と鎮座している。
四十年ぶりに、青白く塗った太陽が――
お読みいただき、ありがとうございます。
昔の学校の話を聞くと、ビックリすることが多いですね……