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黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第2章 諸侯たちの反乱

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98.デュランの野望

「俺が何を企んでいるかって?」


 デュランはロセスに向かって、ニィッと笑みを見せた。「それを教える前に、おもしろいものを見せてやる。ヴルガナ、こいつにおまえの本当の姿を見せてやってくれ」


「軽々しく言うでない。地上世界で変身を解くのは御法度なんじゃぞ」


 ヴルガナと呼ばれて答えたのは、猫目でヘビ革スーツの女だ。


「すでに1度やってるじゃないか」

「あれは、おぬしが泣いて頼むから仕方なくじゃ。これ以上貸しをつくるつもりはない」


(めんどくさいな、こいつは。そもそも俺は泣いてないぞ)


「わたしも、ヴルガナさんの本当の姿を見てみたい」


 エルフのミリエールが、めずらしく興味津々な顔で言った。


「同感だ。この会合は互いの信頼を高める目的もある。これから協力し合うなら、隠し事はなしだ」


 女騎士のレオナも同意した。


「こなたも見たいです。お願いします」


 魔法使いのザランディアも目を輝かせて頼むと、ヴルガナはハアッとため息をついた。


「やれやれ、仕方ないのう。おぬしら、少し下がっておれ」


 彼女は目を閉じ、姿勢を正して立った。するとその体が、強い光に包まれていく。


 衣服がほどけるように消え、風に舞う髪は光の粒となって散っていく。

 均整のとれたスマートな体は、山のように大きな肉体へと変化する。


 その背に現れたのは、雷雲のような重々しさをもつ翼。

 脚は太く長く、手のかぎ爪は鋭い。全身を覆う鱗は、黒い輝きを放つ。


 やがて光が消えた。

 そこにいたのは、巨大なドラゴンだ。


「まさか……」


 ロセスは尻もちをついたまま、驚愕に顔をゆがめた。「こいつは……あの時のドラゴンじゃないか!」


 以前廃城で、彼やストラティスラを襲ったドラゴンだ。

 花の第8期生の1人であるノッカンドは、炎の息(ファイアブレス)で焼き殺されている。


「すごい」

「これほどとは……。味方でよかったと言うべきだな」

「わあ、かっこいいですね!」


 ミリエールたちは、その迫力に息をのんでいる。


「どういうことだ!」


 ロセスは声を荒らげ、デュランを問い詰めた。「このドラゴンは、あの時おまえが倒したはずだろう!」


 ロセスはその場面を見ていないが、兵士たちがドラゴンの死体を地面に埋める様子は見届けていた。


「いやあ、普通のドラゴンなら俺でも勝てるかも知れないが、さすがにヴルガナを倒すのは無理だよ」

「しかし、あの時――」


「あの時は大変じゃったぞ。デュランに斬られた後、ずっと死んだふりをしていたんじゃからな。おまけに地面にまで埋められて、実にくだらん仕事じゃった」


 ドラゴンが、大地を震わせるような重い声を発した。


「ドラゴンが、人間の言葉をしゃべった!?」

「ロセスとやら、わしはただのドラゴンではないぞ。使じゃ。人間に斬られたぐらいで、死ぬはずがないわ」


 ドラゴン――ヴルガナは意外な事実を告げた。


「龍天使……だと?」


「神族のドラゴンとも言うらしいぜ」


 デュランが補足した。「そんなのがいるなんて、俺も知らなかったよ。高位聖職者なら知ってるのかもしれんけどな」


「その龍天使とやらは、どういう経緯かわからないが、おまえの仲間になった」


 ロセスは確認するように言った。「つまり廃城でドラゴンを倒したのは、仕組まれた茶番だったということか?」


「ま、そういうことだ」


「くっ、『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』とは、よくも言えたものだ!」


 足を負傷しているロセスは、剣を杖代わりにして立ち上がった。「みんなはおまえのことを見直したようだが、私にはわかっていた。おまえは学生時代も今も『蛆虫』のままだ」


「おまえだって、だまされていただろ?」

「いや、おかしいとは思っていた。あのドラゴンの襲撃は、おまえにとってあまりにも都合がよかった」

「というと?」

「あの時おまえは、ストラティスラに追放を言い渡されていた。王家軍に居場所がなくなり、いずれは除籍されていただろう。そんな時に、王国にはいないはずのドラゴンが廃城に現れた」

「偶然だろ?」

「いいや、違う。あのドラゴンは、なぜか会議室を襲ってきた。私たちがそこにいるのを知っていたとしか思えない」

「なるほどな」


(あれはキャッピーの手柄だった)


 キャッピーの隠密能力をもってすれば、こっそりと廃城に侵入することは容易だ。誰がどこにいるかは、匂いでわかる。


「その後、殺されそうになったストラティスラをキャッピーが救った。そしておまえが現れ、ドラゴンを倒した。あまりにも狙いすましたタイミングだ」


(確かに、ちょっとわざとらしかったかもな)


 ロセスはストラティスラと違い、ドラゴンを倒した瞬間を見ていない。

 だからデュランの武勇に感嘆するよりも、違和感が勝ったのだろう。


「おまえはドラゴンを倒したことで、一気に状況が好転した。軍に復帰できただけでなく、騎士たちの心もつかんだ」


(まさかロセスに見抜かれるとはな)


「それに加えて、俺に対して当たりが強かったノッカンドも死んでくれた。ヴルガナはうまくやってくれたよ」


 ついにデュランは認めた。「ただしストラティスラだけは殺さないよう、頼んであった。おまえのことは――どうでもよかった」


「おのれ――ぐあっ!」


 斬りかかってきたロセスを、デュランは足を払って転倒させた。


「反乱軍の討伐には、俺も全力を尽くしたんだぜ」


 ロセスの取り落とした剣を拾ってから、続ける。「今はまだ、王家が滅ぼされちゃまずいからな。マケランは俺を信じて一軍の指揮を任せてくれた。俺は完璧にその期待に応えて見せた」


 あの時のマケランの戦略には、デュランも驚かされたものだ。


(まさか1人も戦死者を出さずに勝っちまうとはな。できれば敵に回したくない男だが……そうもいかないか)


「それに比べて、ロセスさんはたいした働きができなかったみたいですね」


 小馬鹿にするように言ったのは、キャッピーだ。


「私は与えられた役目を果たした」


 ロセスは毅然と言い返した。


「でも、軍を率いる司令官には任命されなかったんですよね」

「そのことに不満がなかったといえば嘘になるが、マケランの判断は正しかった。私では、彼の戦略どおりに軍を動かすことはできなかった」


「潔い」


 レオナは感心したように言った。


「あなたは元ドレイクモント家の騎士、レオナ殿ですね?」


 ロセスは彼女に対しては、口調を改めて問いかけた。


「ほう、私のことを知っているか」

「当然です。なぜあなたほどの騎士が、デュランに味方するのですか?」

「今は、彼が上官だからな」

「それだけですか?」

「私にとって王家は、主君の仇だ。復讐したいという思いは、当然ある。デュランの野望は、私にとっても不満はない」

「野望というのは?」


「レオナ、しゃべりすぎ」


 ミリエールが割って入った。


「どうせこいつは殺すんだから、話してやってもいいじゃないか」


 デュランが彼女をなだめた。


「そういう油断が、足をすくわれる原因になる。わたしはあなたを絶対に成功させると、ルシアン氏に約束した」


「ルシアンって誰でしたっけ?」と、キャッピー。


「ペルテ共和国大評議会の評議員。私と同じエルフ族」

「なんだって!? 共和国まで関わっているというのか……!」


 ロセスは驚き、目を見開いている。


(ミリエールの方が、よっぽどしゃべりすぎてないか?)


「おぬしら、おしゃべりはそれくらいでいいじゃろう。この男を殺すのなら、さっさと済ませるぞ」


 ヴルガナが口を大きく開けた。炎の息(ファイアブレス)の態勢だ。


「おいおい、森が火事になったらどうするんだ」


 デュランは慌てて止めた。


「では、こなたがやります」


 ザランディアが進み出た。「こなただけが、その人の気配に気付けませんでした。名誉挽回のため、せめてそれぐらいはさせてください」


「いいだろう、やってみろ」


 デュランが認めるとザランディアはうなずき、詠唱を始める。


「水の精霊ウンディーネ、契約に従い魔法の力を行使せよ。滴る雫集いて穢れた光沢を放ち、不快を極めたまえ。――水蜚蠊(コックローチ)


 詠唱と同時に、両手で雑巾をしぼるような仕草をした。するとその下から、勢いよく水が流れ出す。

 流れ出た水は、数多のゴキブリへと姿を変えた。


(まさか、こんな気持ち悪い水属性魔法が存在するとはな)


 デュランが呆れながら見守る前で、水のゴキブリたちはロセスに向かって飛んでいく。

 足を負傷している彼は、逃げることができない。


 ブシャアッ。


 ゴキブリたちはロセスの顔にぶつかり、鼻と口から中に入ろうとする。ロセスは手で防ごうとするが、虫の勢いは止まらない。


「無駄です。その虫はわずかな隙間さえあれば、どこへでも侵入します」


 ザランディアはあどけない声で、非情な宣告をした。


「ブゴッ、ゴボボボッ」


 ロセスはのどを押さえ、地面を転げ回る。その顔は、どんどん蒼白になっていく。


 彼は――おぼれていた。

 ゴキブリたちの目的地は、肺だった。決して水が入ってはいけない場所だ。


「鉄壁と呼ばれた男でも、水のゴキブリの突進は防げないよな」


 デュランはかつての同期生がもがき苦しむ姿を、平然と見下ろしていた。


「趣味が悪い」


 レオナは顔をそらし、吐き捨てた。

 ロセスにとって幸いなことに、苦痛は長くは続かなかった。


「どうですか?」


 ピクリとも動かなくなったロセスを見て、ザランディアは賞賛を求めるように一同を見渡す。


「ああ、よくやった」

「ですよね!」


 デュランはおざなりに褒めたが、ザランディアは満面の笑みを浮かべた。


「それは後で、どこかに埋めておけ」


 デュランは死体を指さし、キャッピーに命令した。


「では邪魔者が消えたところで、会議を始めるとするかの」


 ヴルガナが人間の姿に戻って言った。

 デュランたちはうなずき、再び切り株の上に腰を下ろす。


「では話し合おう。俺たちがこの国を手に入れるために、何をすべきかを」

ここまでが第2章となります。


本章では登場人物が増えてきましたが、その中でもマケランは主人公としての存在感を示してくれたと思います。


ですがデュランも、実は以下のような主人公属性を持っています。

・周囲からは落ちこぼれと思われているが、実は優秀。

・さまざまな属性の美女、美少女の仲間がいる。


加えて、日本からの転生者という設定にしようかと考えたこともあります。

陰険そうな優等生のマケランよりも、異世界ファンタジーの主人公っぽいかもしれません。


そんなデュランが、次章では敵として立ちはだかることになるでしょう。


第3章の開始までしばらく時間をいただきますが、気長にお待ちください。

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