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黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第2章 諸侯たちの反乱

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92.凱旋と論功行賞

 頭部を失ったエルギンの体は、ドサリと崩れ落ちた。

 デュランの剣には、血の一滴もついていない。剣閃は一瞬だった。


 驚愕の光景に、周囲の兵士たちは言葉を失っている。


「デュラン、自分が何をしたのかわかっているのか?」


 リンクードが静かな怒りをこめて問いただした。


「別に構わないだろ? 王家に反逆した時点で、こいつの死罪は確定なんだから」


 デュランは剣を鞘に収めると、ニヤッと笑みを浮かべて言い返した。

 また以前の飄々(ひょうひょう)とした雰囲気に戻ったように見えるが、何を考えているか読めない不気味さは消えない。


(はあ……厄介なことになった)


 マケランには総司令官としての責任がある。デュランの勝手な行為に対して、なんらかの罰を与えねばならない。


「だとしても、処刑はしかるべき手順を踏んで行うものだ。君は感情に任せてエルギンを斬ってしまった」

「まあ、否定はしないさ」

「この件は後で陛下に報告する。そして君の司令官職を解任する。王家の騎士軍団は、今後は俺の指揮下に入れる」

「ああ、それでいい」


 マケランの宣告にも、デュランはまったくこたえていない。

 当然だ。もう戦いは終わっており、王都に帰還すれば、どのみち軍は解散することになるのだから。


(この男を御するのは俺の手に余るな。さっきの言葉といい、何か心に秘めたものがありそうだ)


 マケランはデュランのことを何も理解していなかったことを実感した。そもそも士官学校に入る前、どこで何をしていたかも聞いたことがない。


(彼のことは、今後も気にかけておいたほうがよさそうだ)




 マケランたちは王都へ帰還した。

 王国の危機を救った者たちの凱旋である。街路を行進する将校や兵士たちを、沿道の住民たちは熱烈な歓声で迎えた。


(はあ……こういうのは苦手だが、今回はそうも言ってられないな)


 マケランは馬上で住民たちに手を振った。これが凱旋将軍の仕事である。


「サーペンス王国の英雄、マケラン将軍万歳!」

「レイシールズ城に続いて、またしても黒蛇が国を救ってくれたんだ!」

「ピット君、かわいいよー! こっち向いてーっ!」


 ピットは得意げな顔で、胸をそらして歩いている。飼い主に対する賞賛は、彼にとっても誇らしいのである。


「ところで、マケラン将軍の隣で馬に乗っている小太りの男は誰だ?」

「どこにでもいそうな顔だから、従者じゃないの?」

「それにしちゃ、高そうな服を着てるな」


 名目上の総司令官だったガラガラのことは、誰も知らないようだ。ずっと王城に引きこもっていたのだから無理もない。


「おいマケラン。住民の視線が痛いんだが」


 ガラガラが助けを求めるように声をかけてきた。大勢の人間の注目を浴びるのは苦手なようだ。


「その気持ち、よくわかります。私も目立つことが嫌いですので」

「なんとかしろ」

「諦めてください」


 ようやくたどり着いた王城の城門前では、懐かしい顔が出迎えていた。


「やあマケラン、お疲れ様」


 薄汚れた外套を着た猫背の男が、ニコニコと笑いながら声をかけてきた。


「フィディックじゃないか!」


 フィディックは「花の第8期」の1人で、『堅実』の異名を持つ男だ。外見はパッとしないが、卒業時の序列は第5位と高い。

 マケランは馬を下り、彼に歩み寄った。


「俺を総司令官にするよう陛下に進言したのは、君らしいな。おかげで大変な目に遭ったぞ」


 マケランが冗談めかして文句を言うと、フィディックはごまかすようにボサボサの髪をかき乱した。白いフケがポロポロと舞った。


「いやあ、ほとんど犠牲を出さずに反乱を鎮めるなんて、さすがに驚いたよ。うん、推薦した僕も鼻が高い」

「推薦するだけじゃなく、君も来てくれればよかったんだが」


「フォッフォッ、王都を守る人間も必要じゃからの。それにフィディックは、立場のない先輩将校たちをなだめてくれていたんじゃぞ」


 白いひげを長く伸ばした、禿頭の老人が口をはさんだ。マケランたちの同期生にして、75歳のインチゴである。


老亀ろうき先生もお元気そうで何よりです」

「フォッフォッ、戦ってもおらんのに、くたばるわけにはいくまいよ。それより陛下が待っておるぞ。早く玉座の間へ行くがよかろう」




 討伐軍に参加した将校たちは玉座の間へやってきた。これから論功行賞が始まるのだ。


 群臣たちが見守る中、将校たちは王の前で片ひざをついて並んでいる。

 マケランは代表として、他の者よりも1歩前の位置にいた。


「反乱軍の討伐、見事であった。味方の兵士の損害を出さないだけでなく、敵の兵士もほとんど殺さずに降伏させるとは、黒蛇の名に恥じない働きだ」


 群臣たちが見守る前で、ラッセルはマケランを賞賛した。


「お褒めにあずかり、光栄に存じます。今後も陛下のご期待に応えられるよう、微力を尽くしましょう」

「うむ。その功績を評価し、新たに大尉に任ずる」


 大尉は階級としては下から3番目だが、階級制度が始まったばかりの王家軍において、これより上位の将校はまだ存在しない。


(はあ……これで、また重い責任を負わされることになるな)


「謹んで、お受けいたします」


 マケランは大きな憂鬱と小さな誇りを胸に抱き、大尉の任を受けた。


「また、司令官として軍を率いたストラティスラとタマナブリについても、その功績を認め、中尉に昇進させることとする」

「はい、謹んでお受けいたします」

「中尉の名に恥じぬ働きをいたしましょう!」


 ストラティスラは真摯に、タマナブリは力強く答えた。


「デュランはその働きは見事ながら、エルギンを無断で処刑した不始末を考慮し、今回の昇進は見送ることにする」

「わかりました」


 デュランはどうでもよさそうに答えた。だが続く王の言葉で、表情を引き締めた。


「ただし、従軍した騎士たちがおまえのことを慕っておるようだから、そいつらの指揮は今後もおまえに任せる」

「はっ」


(なるほど、デュランに利用価値があると判断したわけか)


 マケランが解任した司令官の地位を、王は再任した。

 これでデュランはマケランの黒蛇軍団に続き、自分が司令する常備軍を持ったことになる。


 王家の基本方針として、軍の主導権を騎士から、士官学校を出た将校へと移行しようとしている。

 だからデュランが騎士たちを従えるのは、都合がいいことなのだ。

 それでもマケランはかすかな不安を抱いた。


「そしてリンクード公子には特に感謝したい。ハイウェザー家は北部諸侯の中で唯一反乱軍に加わらず、王家のために戦ってくれた。その忠義を称え、反乱を起こした諸侯の領地の一部を与える」

「はっ、光栄に存じます。ハイウェザー家はペルテ共和国に対する防衛の要として、今後も王国のために戦いましょう」


 反乱を起こした北部諸侯たちは、当然ながら家を取り潰され、領地はすべて没収されることになる。


 これはダンフォード家も同様だ。

 ダンフォード公はマケランに敗れた後は、タマナブリの指揮下で王家のために戦っているので気の毒ではあるが、一度でも反乱に加担した以上はやむを得ない。


 その代わり彼だけは、死罪を免除されている。

 他の8人の諸侯が処刑されることを考えれば、命が助かったことを喜ぶべきだろう。


 これで王家は、北部諸侯たちの広大な領地を受け継ぐことになったが、今後のことを考えると楽観はできない。


 新しく得た領地を治めるにあたっては、北部諸侯の旧臣の力を借りねばならない。しかし彼らは、王家に対して複雑な思いを抱いているはずだ。


 安定した統治を行えるかどうかは、王や官僚の能力にかかっている。

 もちろんマケランのような武官の力も必要になるだろう。


「ロセスとマクドールについては、それぞれ功績に応じた報奨金を与えることとする」

「はい、光栄に存じます」

「…………」


 ロセスは礼儀正しく、マクドールはほとんど聞き取れない小さな声で答えた。

 彼らは一軍を率いて戦っていないので、昇進を見送られたのだろう。


(マクドールは納得しているだろうが、ロセスはどうだろうか? 俺が軍を与えなかったせいで昇進できなかった、なんて思っていなければいいが……)


 リヴェットについては、黒蛇軍団の下士官の身分なのでここにはいない。彼女に対する褒美は、マケランが与えるのが筋だ。


「ところでガラガラはどうした? なぜこの場におらんのだ」


 ラッセルは傍らに控える宰相に声をかけた。


「はっ、それが……今日はたくさんの人目にさらされて疲れたので、またしばらく引きこもりたいと仰せで……。今は部屋で休んでおられます」

「ええい! まったく成長しておらんではないか!」


 最後は王の怒声で、論功行賞は終了した。




 その翌日、反乱を起こした8人の諸侯の公開処刑が行われた。

 王家の勝利と反逆者の末路を世間に示すためには、衆人環視の元で行う必要があったのだ。


 場所は王都の広場、処刑方法は王国の伝統にのっとって絞首刑。

 マケランは見たくなかったが、ガラガラと共に特別席で観覧することを王に強制された。


 バーシー公、ゲニントン公、ボトラー公、レザリック公、ドレイクモント公、デザール公の6人は最期の時まで見苦しい醜態をさらし、住民の罵声を浴びていた。


 だが、さすがにアリンガム公は堂々とした立ち振る舞いだった。彼は胸を張り、まったく臆せずに縄に首を預けた。


 最後に処刑されたノクトレイン女公セレーネは死に臨む際、まず王に目をやり、続いてマケランをにらみつけた。


「地獄で待っている」


 それがセレーネの最期の言葉だった。

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