表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第2章 諸侯たちの反乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/99

73.レイシールズ城、再び

 デュランはこの軍議が始まってから、ずっと自分のペットであるウェアドッグの少女とたわむれている。

 少女は15歳で、名前はキャッピーというらしいが、年齢に似つかわしくない大きな胸が、ストラティスラをいらだたせた。


(なんでこんな奴が将校になれたのかしら?)


 デュランは士官学校時代、成績が悪いくせにいつも授業をさぼっていた。それなのに態度はでかく、同期生たちをバカにするような言動も多かった。


 当然のごとく、嫌われた。『蛆虫』と呼ばれていたのも、そのためだ。


「おいデュラン、ストラティスラが聞いてるんだぞ! ペットと遊ぶのをやめて答えろ!」


 ノッカンドがテーブルをドンと叩き、厳しい口調で叱責した。


「ああ、俺のことは気にしないでくれ。おまえらの決めたことに従うから」


 しかしデュランはまったく恐れる様子もなく、キャッピーの頭をなで続けている。


「じゃあ、この廃城から出て行って」

「えっ?」


 ストラティスラが毅然とした態度で告げると、デュランはキョトンとした顔になった。


「当然でしょ? この非常時にやる気のない者を置いておく余裕はないわ」

「うーん、さすがにそれは困るなあ。今さらおめおめと王都に戻るわけにはいかないし……」


 この状況で追放されることは、将校失格の烙印を押されるに等しい。軍に居場所がなくなるだろう。


「自業自得でしょう? あなたがいても何の役にも立たないどころか、兵士の士気が下がるわ」

「俺と同格の少尉であるおまえに、俺を追放するような資格があるのか?」


「誰もがストラティスラを司令官と認めている。当然資格はある」


 ノッカンドが代わりに答えた。「さっき物資が足りないと言っただろうが! 穀潰しを養う余裕はない、とっとと出て行け!」


 少々言葉がキツすぎる気もするが、ここまで言わねば彼には伝わらないだろう。ロセスも深くうなずいている。

 デュランは黙ってノッカンドをにらみつけていたが、やがて諦めたように言った。


「やれやれ、どうやら俺の味方はいないみたいだな。仕方ない、行くぞキャッピー」

「はい! キャッピーだけは永遠に御主人様の味方です!」


 デュランは立ち上がると、キャッピーと共に部屋を出て行った。


「ったく、何をしに来たんだアイツは! 花の第8期の面汚しが!」


 ノッカンドは怒りを抑えきれない様子で吐き捨てた。


(これでデュランは、将校をやめるしかないでしょうね)


 多少、同情する気持ちがないでもない。


「ストラティスラさんは間違っていません。私たちは戦争ごっこをやっているわけではないのですから」


 ロセスは、ストラティスラを勇気づけるように言った。


「ええ、その通りよ」


 彼女はうなずいた。デュランを追放したことは正しいに決まっている。

 だが――、


(なんなのかしら、この胸騒ぎは?)


 彼女の心に、説明のつかない不安がよぎった。




―――




 マケランと500人の落伍兵たちは、ついにレイシールズ城に到着した。

 ダンフォード軍の襲撃を撃退した後は、泣き言を言う兵士は1人もいなかった。勝利が彼女たちを成長させたのだ。


 マケランは馬上から、そびえ立つ雄大な城壁をながめた。

 さらに向こうには、天をつくような主塔キープも見える。そのてっぺんにひるがえる紋章旗は、ハイウェザー家の象徴である『ヘラジカ』だ。


 しばらくして城門が開かれ、馬に乗った10人ほどの騎士がこちらにやってきた。   

 先頭にいる人物には見覚えがある。現在の城主のファンドレーだ。ハイウェザー家に所属する騎士である。


「ようこそお越しくださいました、マケラン殿。ここからは私がご案内します」


 ファンドレーはマケランの前で手綱を引いて止まり、礼儀正しく挨拶をした。


「わざわざ恐縮です、サー・ファンドレー」

「王家の英雄を出迎えるのは、当然のことです。シャノン殿が率いる先行部隊も、マケラン殿が来られるのを首を長くして待っていましたよ」

「そうですか。彼女たちが迷惑をかけていなければいいのですが」


「ハハハッ。迷惑どころか、うるわしい女性たちがたくさんいるおかげで、城の雰囲気が明るくなりましたよ」


 ファンドレーは屈託なく笑って言った。「それにしても、ダンフォード家の反乱をあっさりと鎮めるとは、さすがです」


 すでにここにも情報が伝わっていたようだ。


「武運にめぐまれました」

「ハッハッハ、ご謙遜を」


 ちなみに降伏したダンフォード家の将兵たちは、途中で寄ったハイウェザー家の公都に置いてきている。人質として預かったレニー公子も同様だ。

 彼らのことは、リンクードがうまく扱ってくれるだろう。


 マケランたちはファンドレーに先導されて城内に入った。


(懐かしいな。重い責任に押しつぶされそうだった戦いの日々が、今も目に浮かぶ)


 マケランは、まるで故郷に帰ってきたかのような安心感を抱いた。マイラやルーシーも同様だろう。


 もちろんほとんどの兵士たちは、ここに来るのは初めてだ。彼女たちは物珍しそうに辺りをキョロキョロしている。


 マケランは馬を下り、近くにいた馬丁に馬を預けた。


「さあ、行くぞ。君たちは当分の間、ここで軍務と訓練を行うことになるから、後でいくらでも探索すればいい」


 そう声をかけて先に進もうとすると、1人の兵士に呼び止められた。


「お待ちください、司令官」

「ん?」


 エセルだ。行軍初日にマケランの悪口を言って、ルーシーに殴られた兵士の1人である。


 何事かと思ううちに、500人の落伍兵たちは素早い動きでマケランの前に整列した。

 そしてエセルが1歩前に出る。その隣には、彼女と共に殴られたアンジェラとリディアもいた。


「司令官、至らない私たちをここまで導いてくださったこと、感謝の言葉もありません! このご恩に報いるため、これからは死に物狂いで戦います!」


 エセルは両足をそろえ、背筋を伸ばして声を張り上げた。

 続いて、アンジェラが鋭い声で号令をかける。


「私たちの司令官に、敬礼!」


 兵士たちは一斉にビシッと左手を上げた。その動きは、もはや新兵のものではなかった。

 マケランの目頭が熱くなる。


(いつの間に、彼女たちはこんなにもたくましくなったんだ……)


「よかったな、御主人」


 ピットがマケランを見上げ、嬉しそうに言った。

 マイラとルーシー、そしてググも新兵たちの成長に目を細めている。


「そうか。その言葉が嘘ではないことを期待しているぞ」

「「はい!」」


 マケランの激励に、落伍兵たちは声をそろえて返事をした。




 マケランはその後、先行部隊と合流した。

 家令や司祭などの民間人たちとも、再会の挨拶を交わした。


 一通り挨拶を終えると、マケランとピットはシャノンに案内されて主塔に入った。


「驚きました。しばらく見ないうちに、落伍兵たちがあんなに立派になっているなんて」


 廊下を歩きながら、シャノンが感想を述べた。


「ああ、先輩の君たちも、うかうかしてられないな」


 マケランが冗談めかして言うと、シャノンも微笑を浮かべて同意した。


「まったくです。実戦での勝利が彼女たちを成長させたのですね。とはいえ私たちもここで厳しく鍛えてもらっていたので、とても強くなりました。まだまだ新兵には負けませんよ」


(厳しく鍛えてもらっていた? 誰にだ?)


 調練担当はリヴェットだが、彼女はずっとマケランたちと一緒にいた。


(ああそうか、ファンドレーが稽古をつけてくれたんだな)


 マケランはそう思い、それ以上はたずねなかった。


「司令官は、またこの部屋を使ってください」


 シャノンに案内されてやってきたのは、マケランとピットが以前に使っていた部屋だ。


「ここは城主の部屋だろう」

「サー・ファンドレーは、こんな広い部屋は落ち着かないと言って、兵舎で寝泊まりなさっているんです」

「そうか、彼らしいな」

「御主人、せっかくだから使わせてもらおうぜ」

「そうだな」


 マケランはピットの言葉にうなずき、扉を開けた。

 すると――、


「やあマケラン君、待っていたよ」


 部屋の中央に、白いパンツだけをはいた裸の男が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ