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黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第1章 レイシールズ城防衛戦

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45/99

45.レイシールズ城防衛戦、終結

 深夜、すべての共和国軍の兵士たちが城を出て、彼らの祖国がある方角へ撤退していった。

 その様子をずっと見ていた当直の兵士の表現によれば、まるで夜逃げをするように出て行ったとのことだ。


 夜が明けると、マケランはピットを連れて主塔(キープ)の屋上へやってきた。

 すでにほとんどの兵士が集まっている。顔つきは厳粛さを保っているが、誰もが興奮を抑えられないでいるようだ。


 マケランに気づいたシャノンが駆け寄ってきた。左目の黒い眼帯はすっかりなじんでいる。


「ここから見る限り、四方に敵の姿はありません」


 マケランはうなずくと、屋上の縁へ移動して自分の目で確認する。

 城内にも城外にも、空を舞う鳥以外、動くものの姿は一切ない。


(終わったか)


 安心してへたりこみそうになるが、ここで情けない姿を見せるわけにはいかない。兵士たちは指揮官の言葉を待っているのだ。

 振り返ると、拳を高く突き上げて叫んだ。


「俺たちの、勝ちだ!!」


 ワァッと大歓声が上がった。兵士たちは近くにいた者と抱き合いながら、喜びを爆発させる。


「勝った! 勝った!」

「私たちが、勝ったんです! すごいです!」

「300人で1万人を撃退するなんて奇跡ですよ! 歴史的な偉業です!」


 彼女たちは口々に歓喜の声を上げた。


「御主人、これでもう……誰も死ななくていいんだな……」


 ピットは泣きながら、マケランの腕に触れてきた。普段は生意気だが、まだ11歳の少年である。今までずっと不安だったのだろう。


(こいつにはずいぶん心配をかけたな)


「そうだなピット、当分は平和を楽しめるだろう。だが、いずれは次の戦場に向かうことになる」

「オレも一緒に行っていいのか?」


「当たり前だ」


 マケランはピットの頭にぽんと手を置いた。「今までよくがんばったな。これからは、もっと飼い主らしいこともしてやろう」


「う、うん。じゃあさっそく――」


 ピットは首をグルングルンと回し、期待するような目を向けてきた。


「ああ、おまえは頭よりこっちのほうが好きなんだよな」


 マケランは両手でピットの首をはさみ、力強くなでてやった。


「ウヘヘッ、手が冷たいな」


 そんなことを言いながらも、頬がゆるむのは抑えられていない。もちろんしっぽは、右上に向かってブンブンと跳ねている。


「あーっ、2人でイチャイチャしてずるいっ! 少尉、アタシの首もなでてください!」


 ググが強引に体を入れようとしてきた。


「この変態女、少尉に近付くな!」


 しかし、すぐに周りの兵士たちに止められている。

 と思ったら、代わって金髪の少女が頭を突き出してきた。


「では少尉、私の頭をなでていただけませんか?」


 マイラだ。


「ちょっとマイラ、真面目な顔でしれっと変なことを言わないで!」

「抜け駆けは軍規違反だよ!」


 リリアンとシエンナがマイラを押さえつけている。


(俺の兵士たちは、こんなに楽しい奴らだったのか)


 戦闘が続いている間は、誰もが悲壮な顔つきをしていた。

 戦いが終わった今、ようやく彼女たちは年相応にはしゃぐことができているのだ。


 とはいえ、ここには15歳から32歳までの兵士がそろっている。大人の兵士は、簡単に浮かれるようなことはない。


「少尉、共和国がまた攻めてくることはないでしょうか?」


 シャノンが隣に立ち、問いかけてきた。


「将来のことはわからないが、当分は大丈夫だろう。問題は王国の対応だな。再び休戦協定を結ぶか、講和条約を締結して平和を確立するか、あるいは報復としてこちらから攻め込むか、それを決めるのは王だ」

「ラッセル陛下は結局、援軍を送ってくれなかったようですね」


 彼女の言葉には強烈な不満がにじんでいた。マケランも同感だが、兵士たちの前で王を批判するわけにはいかない。


「陛下には陛下の考えがあるだろう。援軍が到着する前に俺たちが勝ってしまった、ということかもしれない」


「考えてみれば、すごいことですね。籠城戦においては、外部からの援軍がないと勝てないというのが常識です。その常識をくつがえしたのは、すべて少尉のお力によるものです」

「俺だけの力じゃない。君たちがいるし、民間人たちの協力もあった。これは全員の勝利だ」


「ふふっ、そうですね」


 シャノンは優しい笑みを浮かべてから、兵士たちに号令をかけた。「みんな、勝利を祝して少尉に敬礼をしましょう!」


「「はい!!」」


 兵士たちはマケランの前に整列した。


「私たちの偉大なる指揮官に、敬礼!」


 シャノンの号令に続いて、兵士たちは一斉に左腕を上げた。脱走兵をかばうためにつけた傷跡が残る、左腕を。


 こうして96日間におよぶ戦いは、防衛側の勝利という形で幕を閉じた。




 翌日、勝利に沸き立つレイシールズ城を、マケランの友人たちが訪れた。花の第8期の同期生、『完璧』のリンクードと『暴風』のリヴェットだ。

 マケランは兵士たちと共に、大手門前の中庭(ウォード)で彼らを迎えた。


「おおーっ! 無事だったかマケランっ!」

「ぐへっ!」


 リヴェットが走って近づいてきたと思ったら、いきなり抱きついてきた。隣にいるピットは、驚いてポカンと口を開けている。


(くっ、相変わらずの馬鹿力だ)


 リンクードはともかく、リヴェットも来ているのは予想外だった。

 背が高い彼女に頭から抱きかかえられると、圧迫されて呼吸が止まりそうになる。


「あの人、少尉の同期生らしいけど、どんな関係なんだろ?」

「ずいぶん豪快な人みたいだけど、少尉と気が合うのかな?」


 後ろで見ている女性兵士たちがざわついている。自分たちの指揮官に抱きつく女を見て、心穏やかではいられないようだ。


「それにしてもあの状況で勝っちまうとは! すげえな、おまえ!」


 リヴェットは体を離すと、今度は肩をバンバンとたたいてきた。


「なああんた、御主人の友達なのか?」


 ピットが興味深そうに話しかけた。


「おうよ! あたしは最強の女、クライトン・リヴェットだ。おまえはマケランのペットか?」

「おう、オレは最強のウェアドッグ、ハマーチルド・ピットだ」


 ハマーチルドはマケランの姓である。


「リヴェット、しばらくピットと遊んでやってくれないか?」


 リンクードとじっくり話がしたいマケランは、そんなことを頼んだ。


「いいぞ。おうピット、特別にあたしの馬に乗せてやるよ。こっちだ」


 リヴェットはピットの体を片手で抱え上げ、走り去っていった。


「相変わらずだな、彼女は。まさに風のようだ」


 リンクードが苦笑いをしながら近づいてきた。

 透き通るような金髪をなびかせる正統派の美男子の登場に、兵士たちもホウッと息をついている。


「リンクード、君なら来てくれていると信じていた」

「当然だ。私たちは親友なのだから」


 マケランたちは固い握手を交わした。その姿を見た兵士たちは、口々に感想を言い合っている。


「あの方、ハイウェザー家の公子様なんだって!」

「そんなすごい人が親友だなんて、やっぱり少尉はすごいよね!」

「アタシは少尉に友達がいたことが意外だよ」


(くっ、誰か失礼なことを言ってる奴がいるな。あの声はググか)


「何より、ここは我がハイウェザー家の城だ」


 リンクードは手を離すと、かしこまった態度で片ひざをついた。「マケラン、レイシールズ城を共和国軍の攻撃から守り抜いてくれたこと、我が父ハイウェザー公に代わって礼を言う」


 リンクードは胸に手をあて、深々と頭を下げた。

 後ろで整列しているハイウェザー家の騎士たちも、主君にならって片ひざをつき、頭を下げている。


「あれは君の直属の騎士たちだな。さすがにいい面構えだ」


「すまない。本来ならハイウェザー家の全兵力で援軍に来るべきだったのに、100騎しか連れてこられなかった」


 リンクードは立ち上がると、申し訳なさそうに言った。「さすがに100騎では、1万の敵に戦いを仕掛けることはできない。共和国軍が城内に入ってしまってからは、まさに手も足も出なかった」


「それでも敵の物資集積所を襲撃し、兵糧を焼いたそうじゃないか。わずか100騎でそんなことができるのは、君ぐらいだ」

「そう言ってくれるのはありがたいが、そのせいで周辺の町や村が略奪にあってしまった。私の思慮が足りなかったせいだ」

「そうなのか? 略奪は共和国では戦争犯罪に当たるのに、愚かなことをするものだ。なるほど、リザードマンたちの反戦運動が、より説得力を増したということか」


「リザードマンの反戦運動だって?」


 リンクードは意外な言葉に驚いている。「それは共和国の話か? ずっとこの城にいたのに、なぜそんなことがわかる? 君の目には何が見えているんだ?」


「実は――」


 マケランはメガネの位置を直してから、3人のリザードマンにペルテ共和国の首都で反戦運動をさせたことを説明した。


「国民の間に厭戦(えんせん)気分が広まれば、世論に敏感な大評議会は戦争の継続を認めないと考えたんだ」


 説明を聞いたリンクードは、魂を抜かれたような顔になった。


「やはり勝てないな、『黒蛇』には」


 しばらくすると首を振り、それだけを口にした。

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