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黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第1章 レイシールズ城防衛戦
12/77

12.初勝利

 マケランが壁上歩廊に戻ってくると、敵軍を監視していた兵士たちは左腕をビシッと上げて迎えた。

 これは先代の王タイパンが考案した軍隊式敬礼で、蛇神ムーズに自らの腕を差し出すという意味がこめられている。


「少尉、城門前の空堀はほぼ埋められました」

「うむ」


 マケランは下士官の報告にうなずき、眼下をながめる。

 ウェアウルフの兵士たちが破城槌(はじょうつい)を押して、坂を上ってくるのが見えた。

 その後ろには人間の兵士たちも続いている。城門を破壊した後に城内に突入するつもりだろう。


「さすがにウェアウルフのパワーはたいしたものですね。傾斜があるのに軽々と運んでいます」


 シャノンが感心したように言った。


「そうだな。だが共和国軍は、やはり俺たちのことをなめているようだ」

「どういうことでしょうか?」

「地上から弓矢で援護射撃をしようとしていない」


 攻撃側が城門を破壊しようとしている間、守備側は当然それを妨害するため、城壁の上から弓矢などで攻撃する。

 攻撃側はそれに対抗して地上から援護射撃をするのが普通だ。そうしなければ破城槌を動かす兵士を守れない。


「こっちには女しかいないと思って、甘く見てるってことですか」


 グラディスはフンと鼻を鳴らした。「だったら好都合だ。少尉の策で奴らの目を覚ましてやりましょう」


 彼女の手には、金属製のフックがついたロープが握られている。


「まだだぞグラディス。破城槌が真下に来るまで待て」

「はい」


 敵が近づくのをじっと待ち、破城槌が城門に隣接したところでマケランは指示を出した。


「今だ、フックを下ろせ。慎重にな」

「任せてください」


 グラディスは歩廊から身を乗り出してロープを垂らす。そして素早くフックを揺らし、破城槌の屋根の妻側の横木にしっかりと引っかけた。


「よっしゃあっ! うまくいったぜ!」


 グラディスは快心の叫びをあげた。


「よくやった!」

「当然です!」


(グラディスはこういうことをやらせると、見事にやってのけるタイプだな。頼もしいことだ)


「よし、みんなでロープを引っ張ってくれ!」

「「おーーっ!!」」


 城壁の上には男たちも呼んであった。彼らは民間人とはいえ、力仕事では頼りになる。

 男たちはマケランの指示に従い、一気にロープを引っ張った。


「せいっ! せいっ! せいっ!」

「俺たちだって女に守られてるだけじゃないぞ!」

「根性見せたらぁっ!」


 野太い声が飛び交い、フックをかけられた部分から破城槌が大きく引き上げられる。

 そしてウェアウルフたちが唖然として見守る中、破城槌はガシャンという激しい音と共にひっくり返った。


「今だ、火矢を放て!」


 待ち構えていた女性兵士たちは、裏返しになった破城槌に向けて次々と火矢を放っていく。

 さすがに裏側まで防火処理はなされていない。破城槌は大きな炎に包まれ、燃え上がった。


 続けてウェアウルフたちにも矢を射かけると、彼らは()()うの(てい)で逃げていった。


「見て! 奴らが逃げていく!」

「こんなにうまくいくなんて!」

「さすがは少尉ですね!」


 兵士たちは大歓声をあげ、マケランを称えた。


「私たちに少尉がいる限り、この城が落ちることは絶対にないっ!」


 グラディスが断言すると、他の兵士たちも同意するように雄叫びをあげた。




―――




 アドリアンはガルズとルイを呼び出し、今後の方策について話し合った。


「まさか破城槌を燃やされるとはな……。フックをかけてひっくり返すとは聞いたことのない戦術だ。ウェアウルフの兵士たちも驚いただろう」

「驚いて何もできなかったようだ。敵には頭の切れる指揮官がいるのかもしれぬな」


 ガルズの指摘に、アドリアンは苦い顔でうなずく。


「レイシールズ城の騎士はすべて殺したはずだったのだが」

「騎士ではないな。突撃しか能のない騎士には、こんな戦術は思いつかぬ」

「では、誰が指揮を執っていると?」

「サーペンス王国でも士官学校が創設されたのは知っているだろう? 貴殿と同じように士官学校で学んだ将校が、レイシールズ城にいるのかもしれぬ」

「だとすれば、騎士よりもはるかに厄介だな」


 アドリアンとガルズが深刻な顔を突き合わせていると、


「ふん、おまえら口ほどにもねえな。女の兵士しかいない城にてこずってんのか?」


 こんな無礼な口を利く人間は、魔法使いのルイしかいない。


「だまれ! だったらおまえが、自慢の火の魔法で城壁を焼き落としてみろ!」


 ガルズが大きな牙をむき出して怒鳴りつけた。


「ふん、石の壁なんか燃やしてもおもしろくねえ。生きてる人間なら喜んで焼いてやるがな」

「じゃあ城壁の上にいる敵兵を焼き殺してこい! 遠距離攻撃の魔法もあるはずだろうが!」

「もちろんあるが、敵のクロスボウの射程のほうが長い。魔法が届く距離まで近づけば、オレ様に矢が当たっちまう」

「自分の身は危険にさらしたくないか。ふん、腰抜けが」

「腰抜けだと! オレ様を腰抜けと言ったのかオオカミ野郎! だったらその身でオレ様の魔法を味わってみるか?」

「やる気か? 俺の爪で引き裂かれる前に詠唱を終えられると思うなら、やってみろ!」


 ルイとガルズは一触即発の状態でにらみ合う。


「やめろ! くだらんことで味方同士が争っている場合か!」


 アドリアンが叱りつけると、二人は渋々といった様子で矛を収めた。


(まったく……ルイは実力はあっても性格が最悪だ。しかも攻城戦では役に立たん)


 愚痴を言いたい気持ちを抑え、アドリアンは2人に告げる。


「私はもう敵をあなどることはしない。こうなったからには、じっくりと腰を据えてレイシールズ城を攻略するつもりだ」

「どうするのだ?」


「土木工事だ」


 アドリアンはニヤリと笑みを浮かべて答える。「向こうは、我々が()()()()を連れて来ていることを知らない」


「なるほどな。貴殿の考えていることがわかったぞ」


 ガルズも笑みを返した。「どんな堅城もドワーフの技術力の前では、砂の城も同然だ。敵のあわてふためく姿を見るのが、今から楽しみだな」

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