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黒蛇の紋章  作者: へびうさ
第3章 激動の王国

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104.『忠士』カード

 アルタバインと別れたデュランは、玉座の間に入った。

 そしてラッセル王の前に進み出て、片ひざをつき、反乱軍を討伐したことについて報告した。


「大儀であった。羊の群れを操って敵軍の動きを封じるとは、過去に例のない斬新な戦術である。おまえに軍団を与えたのは正解だったな」


 王からの賞賛の言葉だ。

 しかし相変わらず無表情で、その言葉に心はこもっていない。


「はっ、光栄に存じます」


 デュランはうやうやしく頭を下げた。

 いずれはラッセルから権力を奪おうと考えている彼だが、今は忠臣を演じておく必要がある。


 この場で王に斬りかかって殺しても、自分が王になれるわけではない。反逆者として処刑されるだけだ。


(それに、王を殺すのも簡単じゃない)


 王の座す玉座の左右には、金色のマントに身を包んだ男たちが立ち並んでいる。

 王の警護を担当する「親衛隊」の隊員たちだ。


 中でもひときわ目立つのが、王の隣に立って鋭い目でデュランをにらみつけている男。

 親衛隊を束ねる隊長である。


 190センチを超える長身。きっちりと七三に分けられた銀髪。そして常に眉間に刻まれている深いしわ。

 この男が笑う姿など、想像もできない。


 リーチ・カード。

 デュランと同じ、士官学校第8期卒業生だ。


 序列は第8位で、『忠士』の異名を持っている。

 その異名の通り、彼は平民出身にもかかわらず、王家に対する忠誠心が異常に高い。


 他の士官候補生たちは在学中、よくラッセルの悪口を言い合っていた。だがそれは、必ずカードのいないところでなければならなかった。


 もしカードに聞かれれば、不忠者として殺されかねない――そう思わせるほど、彼の忠義は狂気じみていた。


(まさかこいつが親衛隊長に抜擢されるとはな)


 古来より、親衛隊に入隊できるのは騎士だけだった。

 そんな慣例を破って王太后のメロディアは、カードを親衛隊長に抜擢した。騎士を嫌っているラッセルも反対しなかった。

 そして誰もが思った。これ以上の適材適所の人事はない、と。


 隊長になったカードはすべての隊員と面接を行い、王のために死ぬ覚悟のない者を解雇した。

 ――つまり、全員を解雇した。


 そして彼は、新たに30人の隊員を採用した。

 採用にあたって、家柄や剣の技術はまったく考慮しなかった。ただ忠誠心の高い者だけをそろえたのだ。


(ラッセルのために死ねるなんて奇特な奴を、どうやって30人も見つけたのかは謎だな)


 デュランは剣技においては、カードより自分の方がはるかに上だという自信がある。

 それでもこの場で王を襲えば、間違いなくカードに阻止されるだろう。


 ああいう手合いは技術では倒せない。自分の命を捨てる覚悟の人間とは、戦うべきではない。


(こいつが王のそばにいる限り、暗殺なんて手段は考えるのもバカバカしいな)


 デュランは王との謁見を無難に終えると、静かに玉座の間を後にした。




―――




 公都エルインズは、かつてノクトレイン家が治めていた都市だ。

 しかし領主のセレーネが反乱の罪で処刑され、ノクトレイン家も取り潰された。


 ノクトレイン女公領は王家の所有となり、ストラティスラはその治安維持のため、エルインズに派遣されていた。


 彼女は曲がりくねった街路を、愛馬に乗って悠然と進んでいく。


「あれが『常勝』のストラティスラか」

「王家の将校ということは、セレーネ様の仇……!」

「でも悔しいけど、かっこいいわ」


 住民たちは恐れと羨望が入り交じった視線を、ストラティスラに向けている。

 彼女の威風堂々とした姿は、セレーネを彷彿ほうふつとさせるのだ。


 そしてもう1つ、住民たちがストラティスラを憎めない理由がある。

 彼女の率いる2800人の「常勝軍団」に、かつてセレーネが率いていたユニコーン騎兵隊の200騎が所属していることだ。


 弱者が虐げられない国をつくる、というストラティスラの理想に共鳴した乙女たちである。


「司令官、油断なさらないでください。石を投げつけてくるような不埒ふらちな輩がいないとも限りません」


 カタリナ隊長は隣でユニコーンに乗りながら、周囲に目を光らせていた。


「マケランに比べれば、私は恨まれていないはずだけど」

「それはそうでしょうが、ユニコーンの紋章が気に食わない人間もいるはずです」


 彼女たちが左腕に装着している小盾には、常勝軍団を象徴する『ユニコーン』の紋章が描かれている。これはノクトレイン家の紋章の一部を受け継いだものだ。

 多くの者はそのことに好意を持つだろうが、そうでない者もいるだろう。


「そうね、気をつけるわ」


(まあ、あなたがそばにいるから、心配はしてないけど)


 やがて彼女たちは街の巡回を終え、エルインズの城館に戻ってきた。

 以前はセレーネの居館だったが、現在はここで王家の官僚たちが働いている。


「カタリナ。これから殿下に挨拶に行くから、あなたもついてきて」

「はっ」


 ノクトレイン女公領は北部を統治するための重要な領地であるため、王族が最高責任者として派遣されていた。


 その王族はほとんど部屋から出てこないため、こちらから会いにいかなければ接する機会がない。

 ストラティスラとカタリナは3階まで移動し、彼の部屋の前にやってきた。


「ストラティスラです。お休みのところ、失礼いたします」


 ドアをノックしてから声をかけ、返事を聞かずに中に入る。


 室内は薄暗く、空気がよどんでいた。家具の少ない殺風景な部屋だ。

 目当ての人物は、ベッドの上で横になっていた。


 といっても眠っているわけではない。うっすらと開かれた切れ長の目は、何もない天井を見つめている。

 その顔色は病的に白く、深紅の長い髪と奇妙な対照をなしていた。


 カタリナはサッと窓際に移動し、カーテンを開け放つ。

 それを見届けたストラティスラは、寝ている王族に声をかけた。


「マンバ殿下、外はまだ明るいです。寝るには早い時間かと思いますが」


 マンバは第2王子で、王太子ガラガラの弟だ。年齢は17歳になる。

 病弱で、偏頭痛へんずつう動悸どうきに悩まされているらしいが、寝たきりになるほどではない。


「僕は寝ているわけじゃない。横になって思索にふけっているんだ」


 マンバはまぶしそうに目を細め、不機嫌そうに答えた。


「はあ……そうなのですか」

「君たちも無駄に動き回るのをやめて、僕のように横になるといい。この世界を争いで満たしているのは、立っている奴らだ。みんなでずっと横になっていれば、平和になるんだよ」


(ひょっとすると、ガラガラ殿下以上にダメな人かもしれないわ)


 ストラティスラは王家の将来を考え、暗澹あんたんたる気分になった。

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