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そのに

【5】赤頭巾ちゃん


 えー、赤い頭巾被った侍はお呼びでありません。

 誰だ。

 舌打ちしたヤツ。


 さて、ある森に可愛らしい女の子が居ました。

 お気に入りの頭巾をいつも着けているので、皆は赤頭巾ちゃんと呼んでいました。

 ある日の事。

 森の奥に住むおばあさんにアイシアママがお使いをしてくれるようにお願いをしました。

 つくづくミルヴィアネスの人たちはこういう時に使いやすいですね。


「はわぁ。

 ワインとベリーパイなね。

 気ぃつけて行くんよ?」


 お母さんは微笑んで……

 ……えー、固まってますね。

 うん。

 無理もありません。

 赤い頭巾を被ったごついおっさんがずんと立ってます。

 その筋肉の付き方といったら、腕周りなんて子供の胴くらいありますよ?

 って言うか、誰だ赤頭巾役にファフテン公を呼んだのはっ!


 えー、なに? 

 娘さん呼んだつもりが間違えた?

 ……どーすんだよ!?


 …… あー、失礼しました。

 もうどうにでもなれという感じで強引に進めましょう。


「あー、母上殿?

 渡してもらえるかな?」


 ファフテン公、結構乗り気ですねっ!?


「は、はわっ!?

 は、はいな。

 き、気ぃ付けてなぁっ!?」


 むしろ母役が娘に年近いという事実には目を瞑りつつ、劇を進行します。

 どうにでもなれ。



 さて、おばあさんの家に向かって赤頭巾ちゃんは進んでいきます。

 書き割りの森より西部劇の荒野か大都会の片隅の方がいい気がしてきます。

 つか、赤と白のエプロンドレスが歩く度にみちみち言っています。

 森の動物たちドン引きです。

 いっそ妨害に浪人風の侍崩れでも出した方がいい気がしてきた。

 さっき舌打ちしたヤツ、出てきて良いぞ。

 ……はっ!? 

 これは赤頭巾ちゃん。

 そう、赤頭巾ちゃんなのです!

 進行しましょう。




 というわけで視点を変えると、狼さんが森を行く赤頭巾ちゃんを見ています。


「……えー、狙いはワインと赤頭巾ちゃんなわけだが……」


 狼役のズーが傍らのクロロ(狼ぽい着色中)に語りかけます。


「正面からは無理な気がするんだ」


『……わう』


 なるほど。

 狼がどうして直接襲わず、わざわざ先回りをするという回りくどい事をしたのか。

 わかった気がします。


「よし、じゃあ足止めをしておばあさんの家に向かうぞ」


『わう』


 いそいそと頭巾をかぶって獣耳を隠し、狼は赤頭巾ちゃんの前に行きます。


「ちょっとそこのおっさ……お嬢さん」

「ぬ?」


 ぬ?

 は違う。

 女の子の反応違うっ!


「あー、いや、えっとね。

 そこに花畑があるんだ。

 お見舞いなら花を摘んで行くのはどうかな?」

「……」


 ぎろりと鋭い視線が変装した狼さんを貫きます。

 クロロの尻尾が丸まってるし。


「一理、あるな」


 地響きのように深い声音が腹の底に響きます。


「しかし貴公……何故私が見舞いに行くと知っている?」

「え゛っ!?」


 無論そんな質問は台本にありません。

 もっとも台本なんか意味があった気がしません。


「え、あ、いやぁ……こ、この道の先にはおばあさんの家しかないし、そこのおばあさんが病気だとか聞いたから」

「なるほど、道理は通っているな」


 狼さんが凄い汗を流しているのはきっと着ぐるみが熱いからでしょう。


「……貴公の提案、感謝する」

「そ、それじゃ俺はこれでっ」


 脱兎という言葉そのままに狼は去って行きます。


「花……か」


 目を細めて哀愁を漂わせる赤頭巾ちゃん。

 エプロンドレスじゃなければなぁ。

 いや、むしろ渋いのはダメです。

 ともかく提案に従い赤頭巾ちゃんは花畑で花を摘む事になりました。

 その間に狼さんはおばあさんの家に到着します。


「おんやぁ、誰にゃ?」


 おばあさん的格好のアルルムが言います。


「とりあえず食うってことで」

「エッチ」

「違う!!」


 性的な意味で取ってはダメです。

 演出上食べた事にしておなかに詰め物をしておき、ベッドに潜り込みます。

 待ち伏せなのですが、この程度の不意打ちでは勝機が見出せない狼は逃げようかと迷っている様子です。

 あ、クロロはベッドの下に隠れましたね。

 賢い子です。




 さて、やがてデュラハンの到来を思わせるようなノックが鳴り響きます。


「おばあさん。

 赤頭巾です」

「ひぃっ!?」


 狼、悲鳴あげます。


「如何為された?」

「な、な、何でもありませんっ!」

「入室の許可を願いたいのだが?」

「ど、どうぞ」


 ぎぃと扉が開き、大柄な赤頭巾ちゃんがぬうと部屋に入ってきます。

 この家の扉はここ一つなので人類に逃げ場なし! です。

 いや、まぁ攻撃側は狼なんですが。


「お婆様。

 ワインとベリーパイをお持ちした」

「あ、ありがとう。

 遠路はるばるすまないね」

「ぬ?

 お婆様声が少々おかしいですな」

「あ。

 ああ。

 風邪のせいで喉が枯れててねぇ」

「……成る程」


 和やかな会話にも思えますが、実際は裁判所での被告と検事のやり取りを思わせます。


「しかし……その人ならざる耳があるように見えるが?」

「いや、まぁ、婆さんにもあったし」


 アルルムですからねー。


「ふむ。

 ではその臀部辺りの尻尾に思えるふくらみは?」

「も、元々あったからっ」


 うん。

 ありますね。


「お婆様。

 ではその大きな口は?」

「えーっと」

「……」

「それはですね」

「……」


 汗がだらだら流れています。

 覚悟決めちゃえよ!


「お……」

「お?」

「おま……」

「おま?」


 脱水症状起こしそうなくらいに脂汗かいてます。


「オマエを食べるため……とか、面白いかなぁ?」


 日和った!?

 日和ましたよ、この狼。


「なるほど、良い冗談だと思います」


 しかも返し重いし。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 不動の視線がお婆さんに偽装した狼さんに向けられています。

 状況に待ったなしです。


「え、ええとですね」

「何でしょうか」


 刺し貫くような鋭い視線が強烈です。


「お、オマエを食べるためだぁあああ!」


 狼さんが意を決してがばぁと立ち上がります。


「その冗談は先ほど聞きましたが」


 かけなしの勇気、撃沈。


「いや、違うって!

 だからっ」

「そういう話でしたな。

 では驚けば良いか?」

「あ、あの、できればお願いします」

「おお、これは驚いた。

 まさかお婆様でないとは」

「……」

「……」

「スンマセン、俺が悪かったです」


 狼がげっそりとして謝ります。

 つか、話進まないんで食われてください。


「承知した」


 無理やり幕間挟んで、赤頭巾ちゃんも食べてご満悦────

 顔が青くてげっそりしてる気もしますが心にフィルターを掛けてご覧下さい

 ────の狼さんは、眠くなってそのまま寝てしまいます。

 涙で枕を濡らすのは家に帰ってからにしてください。




 そこに一人の猟師がやってきます。

 彼はこのあたりで悪さをする狼の噂を聞いてやってきたのです。


「えーっと、ここなんだよ?」


 猟師レフィアは銃を片手に狼の足跡をたどっておばあさんの家に到着します。


「ごめんくださいなんだよ?」


 ノックしても返事はありません。

 仕方なく開けてみると、なんと目当ての狼が大きな腹をして寝てるではありませんか。


「ここで遭ったが100年目なんだよ」


 すかさずチャっと銃を構えます。

 ちなみにただいま入った情報によりますと、実弾装填済みだそうです。

 ってか、先に二人を救出してください。


「ああ、そうだったんだよ」


 てこてことベッドまで行きますが、すやすやと涙の跡を残して寝てる狼は起きる様子はありません。

 腰からナイフを取り出し狼の腹を掻っ捌くと、中から。


『あ゛ー?』


”皮膚が胃液でボロボロに溶けたアンデッドもどきのおばあさん@リアル描写”が現れます。


「ひぃいいいいいいいいい!?」


 真正面でそれを見た猟師絶叫。

 流石に斬った張ったは慣れててもこれは普通に心臓に悪いです。


「ど、どうした!?」


 びっくりして目を開けた狼と半ゾンビが至近距離で見つめ合い ────


「ふっ」


 あ、気絶った。

 現実逃避か?


「た、頼りにならないんだよっ!」


 狼を頼りにしても仕方ありませんが。

 ちなみにその間に「ウケたウケた」とゾンビメイクを落とすアルルムお婆さんがぴょこんと腹から出てきます。

 赤頭巾ちゃんは物理的に無理なので出てきた演出でお願いします。

 そそ、別途の後ろ暗いからぬぅって。

 ノーメイクですが怖ぇえ。


「ええと、代わりに石を詰め込むんだよ」

「ふむ、ではこれを」


 一抱えもある巨大な岩を赤頭巾ちゃんが持ってきます。

 普通に腹に仕込むと縫い付ける必要もなく内臓と背骨を潰す勢いなので、スタッフが用意したやつにしておいてください。

 というわけで作業完了して逃げた所で狼がはっと気付きます。


「悪夢を見ていた気がする……」


 リアルに気絶していたようです。

 起き上がった狼はやたら腹が重いし、喉が渇いたので、よろよろと近くの湖に向かいました。

 そこで水を飲もうとするとおなかの石の重さでごろんと転げて湖に落ちてしまいます。

 そうなると石の重さで浮き上がれません。


「って、なんかマジで浮き上がらないんですけど!?」


 あれ?

 スタッフが用意してた石って軽石ですよね?


「にゃふ?

 綿を固めて石に見せたものだったり?」


 えー、悪戯じゃすまない事やってる人が居ます。

 衛生兵ー衛生兵ー!

 まぁ、何はともあれ無事狼は退治されましたとさ。




 なお、もう一匹の狼は舞台袖でちゃっかりベリーパイ食べてます。

 えー、スタッフ。

 クロロを可愛がってないで助けに行ってあげてください。


 とりあえず話としてはきちんと終わったので、めでたしめでたし。




【6】人魚姫


 むかしむかしのこと。

 とある豪華な船が嵐に揉まれ、転覆の憂き目に────


「このくらい楽勝だよっ」


 えー、誰かセラを船から降ろしてください。

 で、まぁ今にも転覆しそうな船から一人の身なりの良い人がぽんと投げ出されて海に落ちてしまいました。

 みなさん、お願いします。


「「せーの」」

「いや、ちょ、まっ?!」


 どぼーん。

 えーっと、嵐のせいですよ?




 一方その頃、その真下には人魚達が隠れ住む海底の町があり、彼女達は平穏な場所で毎日歌を歌ったりして暮らしていました。


「人魚ですよー」


 えー、そこの半漁人スーツのラビをアブダクションしておいてください。

 とりあえず女性陣が人魚の姿で優雅に泳ぐ様は絵になります。

 ……えーっと、まぁ胸がかわいそうな人には貝殻水着はちょっときついですよね?

 凄い殺気が放たれたので逸らすためにも話を進めましょう。




 さて、そこから少し離れた所に人魚達の姫なクュリクルルが一人ぽつんと居ました。

 彼女は平穏で楽しいだけの世界に少しだけ飽き飽きしており、隙をついては陸に近づいて華やかな町を眺め見ていました。

 しかしながら今日は大嵐。

 海の下は平穏ですが、海面にでも行こうものなら如何に人魚でもたちまち流されてしまいかねません。

 諦めて帰ろうとしたとき、上から何か落ちてくるではありませんか。


「にンげん……」


 すげー苦しそうにじたばたもがいていますが、王子様姿ではまともに泳げないばかりか、装飾品が重くてまともに浮く事もできません。

 因みに前回の反省を踏まえて人魚やってる方々には水中でも息が出来るように水の精霊の加護を付加しています。

 シリング王子はやがて力尽きます。


「……」


 そのまま海底に


「……」


 えっと助けましょうよ。


「ウん」


 意外と器用に王子様を助けて陸まで移動します。

 どうやら潮の流れ読んでるようですね。

 ともあれ王子様を無事砂浜に送り届けた人魚姫は


「……」


 どうしました?


「動けナい」


 ああ、浅いところにまで着すぎましたね。

 ぴちぴちしてます。

 スタッフ、救援お願いします。




 さて、王子様は無事救出され、国に帰りました。

 ただ曖昧に誰かに助けてもらったことを覚えており、ふと海のほうを眺めることが多くなりました。

 一方の人魚姫も前よりも陸に興味を持つようになり、物憂げな顔をすることも多くなりました。


「変わらないですわね」

「いつもどおりなね」


 お姉さん役のラティナとアイシアのコメントは正しいんですが……

 いや、まぁ、そういうことにして置いてください。

 人魚の姉妹は陸は怖いところだ、近づくべきではないと説得しますが、人魚姫は堪え切れなくなり魔女の元を尋ねることにしました。


「にゃん」

 猫の魔女なら、そりゃあ人魚達行くなって言いますよねぇ。

「ほいほーい。

 御用は何にゃ?」

「足が欲シい」

「足なんて飾りですよ!

 偉い人にはそれがわからんのです!」


 まずこの世界の人間にわからないネタはやめましょう。


「みふ。

 まぁ、対価をもらうにゃよ。

 その声をくれたら足をあげるにゃ」

「わカった」

「あと、王子様と添い遂げられなきゃ死ぬような呪いもおまけしてあげるから、気合入れるにゃよ」

「ん」


 それっておまけなんですか?


「ほら、躊躇ったら負けにゃし」


 背水の陣ですね。

 ともあれ魔女から足を得られる丸薬を得た人魚姫はそれを早速飲みます。


「あ、あとえら呼吸っぽい水の加護もなくなるんでよろ」


 わざとですね。

 ともあれ忠告が遅れて人魚姫、浮かびます。

 仕方ないのでアフターサービスとして魔女は浜辺まで輸送してあげました。




 さて、波打ち際に倒れる人魚姫を散歩に来た王子が見つけます。

 護衛も付けずに人気のないところに来るだなんて、海に落ちるウッカリ者なだけはあります。


「あれはおもいっきし投げ込まれたしっ!?」


 知りません。

 ともあれ、王子様は裸の女性を発見。

 周囲を確認のうえ、連れ帰りました。

 警戒心ない王子だよなぁ。

 ほんと。




 そういうわけで美しい女の子を連れ帰ったものの、彼女が一切の声を出せないため、どういう経緯であそこに倒れ、そもそも何者かがわかりません。

 ただ、あの海での記憶がフラッシュバックしたために手元においておきたい!

 とでも思ったのかそのまま保護することになりました。

 ですが彼も一国の王子、結婚の話が出てきます。

 人魚姫はその話を聞きながら魔女の言葉を思い出します。

 自分が魔女と添い遂げられなければ死んでしまう。

 でも、自分は思いも何も伝える手段がありません。


「押し倒せばいいにゃ」


 魔女、帰れ?

 折角主役が喋れないから話が妙な方向に進まないんだから!


「喋ったら大惨事確定ってイイにゃよね~」


 さて、様子を見てる魔女はさておき。

 どうすることもできない人魚姫は海での暮らしを思い出し、海の方向を眺めることが多くなりました。

 そんなある日、水面に見慣れた姿を発見します。


「とりあえずこれで王子をお刺しなさい」

「はわ、単刀直入すぎるんよ」

「そうですわ、短刀を直入すればいいんです!」

「……はわ?」


 本人達が理解してないコントはさておき。

 二人は妹な人魚姫を不憫に思い、魔女から人魚姫にかかった呪いを解くためにアイテムを貰ってきていました。

 説明書には「尖がったKnifeで王子をKILLすれば、YOUは人魚に戻る事ができるYO☆」とポップに書かれています。


「はわ。

 人魚には人魚の幸せがあるんよ?」

「そうですわ。

 学校も試験も何にもない生活なんですから」


 いや、それはお化けの理論ですから。




 ナイフを受け取った人魚姫はこっそりと王子の寝室に忍び込むと、王子の胸にナイフを


「ちょっ!?

 クルル!

 そこは躊躇いっ!

 躊躇う所だからっ!」


 ぐっすり眠っていたはずの王子様が見事にナイフを白刃取りします。

 しぶといヤツだ。


「刺セば良いッて言わレた」

「お芝居でも、これ本物だからっ!?」

「……」


 まぁ、あれです。

 人魚姫が刺してもストーリー的には良くないですか?


「あれ?

 俺が間違いですかっ!?」


 生きる事にがめつい王子様は、人魚姫の決死の思いも全く省みず、己が幸せになることを望みました。

 王子を殺せなかった人魚姫は哀れにも海に身を投げて、海の泡になってしまいましたとさ。




 ナチュラルにめでたくないな。やっぱり刺せ


「酷っ!?」




【7】シンデレラ


 むかしむかしあるところに一人の女の子が居ました。

 女の子は裕福な家庭で幸せに暮らしていましたが、ある日のこと。

 大好きなお母さんが病に倒れ、そのまま亡くなってしまいました。

 お父さんは嘆き悲しみ、その寂しさを紛らわすように別の女に溺れ、うつつを抜かすようになりました。

 そんな悪い母親は要らないとシンデレラは策を弄してこれを殺害。

 事故死に見せかける事に成功しました。


「えーっと。

 確かに原本的にには正しいみたいですけど……

 表現が生々しいというか、暗黒方面じゃないでしょうか?」


 そんな突っ込みは知ったことではありません。


 二人目の妻を失ったお父さんはやはり嘆き悲しみ、三人目に手を出しました。

 いい年してどういう方向に無理が祟ったかは謎ですが、その直後にお父さんが他界してしまいました。

 こういう書き方をすると本当にロクな父親じゃないですね。

 たーのしー☆




 さて、2人目の継母には2人の連れ子が居ました。

 上手く夫が死に、家の権力を牛耳った継母は忌々しい前前妻の娘を虐げ、灰被り───シンデレラと呼んで蔑みました。

 というわけで、こんな状況から舞台は始まります。


「さて、今日は舞踏会だな」


 継母木蘭は不遜に言います。


「王子の結婚相手を探すらしい。

 せいぜい頑張れ」

「美味しいお酒は出ますの?」


 義姉その1、ラティナはすでに目的を違えています。


「ラティ。

 目的が違うんだよ。

 王子様と目通りするんだよ?」


 義姉その2、レフィアは目的は合っていますが自分がどうこうする気はないようです。


「ならば私が落とすか」


 継母の言葉に義姉2人は顔を見合わせ


「「チョークスリーパーは反則ですわ(だよ)」」

「お前ら、表に出ろ」


 継母一同が和気藹々と会話している頃、末の娘なシンデレラは部屋の掃除をやらされていました。


「……」


 えーっと、リリーさん。何を神妙な顔をしてるんですか?


「え?

 いえ、なんでもありませんよ?」


 多分本性出すわけには行かないけどかったるいなくらいに思っていたのでしょうか。

 というか、本性出ないと面白くないですよ?


「本性本性連呼するんじゃねえ!」


 そうでないと。

 ほら、一応本編には反映されませんのでご安心を。

 さて、シンデレラは自分も舞踏会に行きたいと思いましたが、継母や姉が許してくれるはずもありません。

 案の定今日中に終わりそうもない仕事を言いつけ、自分達は着飾って出て行ってしまいました。

 勝手に抜け出して行こうにも着ていくドレスもありません。

 みすぼらしい姿で王宮に行けばたちまち捕らえられるだけでしょう。


「そこであちしの出番にゃよ」


 魔法使いが現れた。


「セールスはお断りだ」

「ああん」


 ネコミミはやした魔法使いは外にほうりだされます。


「サービスにゃよ。

 サービス!

 お試し期間無料キャンペーン!」

「ますます怪しいわ」

「でも、無償で助けてくれるほうがよっぽど怪しくない?」


 タダより高いものはない。

 なるほど真理です。


「ほら、王女になったら返してもらえばいいにゃよ。

 出世払いにゃ」

「まぁ、いいだろう。

 ほら、さっさと出すもの出せや」

「た、態度悪いにゃねぇ」


 珍しく魔女、引いてます。

 とりあえず杖を一振りするとみすぼらしい服が可愛らしい魔女っ子の─────


「違げえ!?」

「魔法のステッキで変身するならこうにゃよ!

 こう!」


 リリカルでマジカルな格好のシンデレラはこきこきと拳を鳴らします。

 今なら世紀末覇王にだってなれそうです。


「早くしろ?」


 満面の美少女スマイルに怒りマークとどす黒いオーラが加味されて凄い事になっていますね。


「ちぇー」


 ぞんざいに杖を一振り。

 シンデレラの服は煌びやかなドレスに早変わりします。


「それからえーっと。

 とりゃー」


 続いてカボチャが馬車へと早変わりします。

 窓の形がハロウィン仕様なのは目を瞑るべきなのでしょうか。


「馬が居ないぞ?」

「うん。

 えーっとね」


 魔法使いきょろきょろします。

 おもいっきり探します。

 探しまくってます。


「鼠居ないねー」

「いや、お前猫だしな」


 そりゃあ逃げるわ。

 仕方ないので魔法使いはねずみ花火を取り出すと


「えーい」

 なんとねずみ花火は馬に早変わりしました。

 頭から出ている導火線が一抹の不安を感じさせます。


「無茶ありすぎだろ」

「くっくっく。

 やったもん勝ちにゃよ」


 魔法使い、邪悪な笑み。


「あ、で、後はこれね」


 最後に魔法使いはポケットからガラスの靴を取り出します。


「ん?

 何でこれだけ魔法で出さないんだ?」

「物証だからー」


 見も蓋もありません。


「これ、凄いんにゃよ?

 真っ赤に輝くと600度の高温になってね?」


 それは話が違います。


「だって白雪姫の時使ってくれなかったじゃん。

 あー、で、この魔法日の変わる時の鐘で解けるから、その前に撤収してね」

「ケチだなぁ」

「まったくにゃね」


 お前が同意すな。

 ともあれ、舞踏会にいけるようになったシンデレラはねずみ花火の馬に引かれたハロゥイン仕様のカボチャの馬車に乗り王宮に向かいます。




 その頃王宮ではすでに舞踏会が開催中です。

 この舞踏会で王子様が結婚相手を決めるという噂はすでに広まっており、女性陣の気合の入れ方は半端ではありません。


「このお酒お代わりありませんの?」

「ラティ……いつも同じ事してないよね?」

「っ!?

 え、ええ、もちろんですわ。オホホ」


 一部妙な緊迫感が漂う中、王子は自らの席で不動のままです。

 というのも、


「王子、お願いだから誰構わず声を掛けないでおくれ」


 と、王に強く、強く、めちゃくちゃ強く言いつけられているからです。


「ち……」


 ランス王子は舌打ち一つ。

 どうせだったら一番の美人でも選ぶかとゆっくりと会場内を睥睨しています。

 いや、お芝居だからちゃんと予定通りお願いします。

 そこに現れた女性に舞踏会の会場は驚きに包まれます。

 素材が良いので綺麗に着飾ったシンデレラは群を抜いて美しく、即座に何人かの男性がダンスの誘いを申し込みます。

 シンデレラは天性の猫かぶりでやんわりとその誘いを断ると、ゆっくりと王子に近づきます。

 二人の目が合います。

 同時にすげー嫌な顔二人でしないで戴きたい。

 お互い基本属性がチンピラですからねぇ。

 思いっきり同属嫌悪です。


「えー、あー。

 とりあえず踊れ」


 王子の『熱心な』誘いにシンデレラは、頬を染めて────いや、ほら、だから舌打ちするな。

 とにかく応じます。

 隠して始まったダンスですが、無駄にこういうことばっかり達者だったりする二人ですので皆の目を惹くほどの優雅さで進行します。

 さり気にドレスのすそで見えないタイミングを狙って足を踏もうなんてしてないからね?

 やがて曲も終わると、王子はシンデレラに問いかけます。


「オナマエヲオキカセネガイマスカ?」


 なんという棒読み。

 シンデレラが口を開こうとした時、日の代わりを知らす最初の鐘が鳴ります。

 シンデレラはこれ幸い────じゃない、魔法が切れてしまうと慌てて会場から立ち去ります。


「待て!

 逃がすな!」


 それでは捕り物です。

 ドレスとは思えぬ俊敏さで警備兵を掻い潜り、時には急所に手刀を叩きいれたシンデレラは悠々と王宮を抜け────

 靴。

 靴おいてって!


「めんどくせえなぁ」


 片方のガラスの靴を無造作に脱ぐとぽいと投げていきます。

 強化ガラス製なので安心です。

 最後の鐘が鳴ると馬はねずみ花火になって弾け、ドレスは元のボロに。

 カボチャの馬車はジャックオーランタンに戻ってしまいます。

 一部別方向に進化していますが、無視します。

 ひーほー言わないでっ!

 ともあれシンデレラは無事に家に戻る事が出来ました。




 さて翌日。

 国は一つの御触れを出しました。

 シンデレラの残した靴。

 それがぴったり合う人間を后に迎えるというのです。

 世の中に同じ足のサイズなんて何人いるのかわかってるのか?

 的な御触れにもしかしたら合うかも!?と業つくばった女の子がこぞって王宮に殺到しました。

 その様子を眺める王子が囁きます。


「準備はできているんだろうな」

「ええ。

 靴を試着する部屋は隔離しており、御指名いただいた女性にぴったりの靴を用意いたします。

 後は好きなだけ女性を引き込んでしまえば後は……」


 あるるむ人形的悪い商人が「くっくっく」と笑います。

 ……いや、人道的にどうかと思いますよ?


「いや、別に王子なんだから後宮の一つや二つ」


 思いっきり暴君な事を言っております。

 しかし残念な事にこのお芝居は女神亭の面子でやってるので、皆さんわりと洒落にならないこと請け合いだったりするわけで。

 目論見があっさりばれた王子は舌打ち一つ残して逃亡するはめになりましたとさ。


「……私の立場は?」


 いや、もうランスが王子の時点でイロイロダメだった。

 めでたくないめでたくない。




【8】余話:NG集


その①うさぎとかめ


 とっても足の速いウサギに亀がかけっこの勝負を挑みました。


「そのウサギはダメェっ!?」


 逃げるレスト亀。

 勝負を挑むだけあってかなり早いです。

 あんな甲羅背負ってよくもまぁ。

 で、うさぎなんですが……ウサギは首を狙って─────!


 ※ウサギが某遺跡に生息する首刈り兎であったためNG


その② 幸福の王子


 王子なジュダーク石像は動けないために、つばめにお願いをします。


「あの家の貧しい人に僕の、え?

 あのっ?」

「わーい」


 えー、つばめさん。

 動けない事を言い事に銅像に落書きしないの。

 あ、クロロ、マーキングいけませんって!


 ※基本的に悪戯が好きな連中しか居ないため、動けない状態は危険と判断。

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