そのいち
【1】モモタロウ
むかーし、むかーし。おじいさんとおばあさんが居ました。
とりあえずおじいさんはクーニアックが、おばあさんはアイシアが担当しています。
もう少し適当な年齢の人も居そうなんですが、おじいさんとかおばあさんとか言われるのが絶対嫌だとかで。
日本昔話はなかなか難易度が高いです。
さて、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きます。
おばあさんが洗濯をし終わる頃、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきます。
「……はわぁ。
こん大きいと危険な気ぃするなね」
そこは目を瞑ってください。
おばあさんは大きな桃を拾い上げると、
「は、はわっ」
拾い上げると、
「ほ、本当の川な、きついねっ!」
えー、黒子さん、援軍よろしく。
ともかくおばあさんがなんとか大きな桃を拾い上げるとおじいさんと食べるために家に持ち帰ることにしました。
さて、おじいさんも帰ってきて……おや?
「はわ?
シェルフィさんのお父さん?」
「代役だ」
えー、なんかクーニアックが猿轡されて縛られているのですが、面白そうなので見ない事にしましょう。
新おじいさんは、
「これは美味そうな桃だな。
では早速」
と、長刀をすらりと抜きます。
見るからに業物です。
「……はわ」
構えるは大上段。
唐竹割りに適した二の太刀要らずの必殺剣です。
「喝ぁぁあああああああっっ!」
「はわっ!
中にっ」
「くっ!」
鉄でも切り裂けそうな裂帛の気合で振り下ろした剣は、見事に桃を割り ─────
「も、もう、割れたんだから、剣を退いて欲しいのですが……っ!」
中から元気な赤ん坊がその剣を見事に白羽取りしつつ出てきました。
ちなみにモモタロウ役はシンです。
お察しとは思いますが。
「ええい、往生際の悪い桃がっ!」
「いや、ちょっ!?」
おじいさんの腕の筋肉が盛り上がり、じりじりと刃を押し込んでいきます。
このままだともう一つ何かが割れそうなので、そろそろレフェリーストップしてください。
さて、おじいさんの脅威からなんとか生き延びた赤ん坊には桃から生まれたのでモモタロウと名前がつけられました。
モモタロウは順調に大きくなり、やがて立派な青年になりました。
その頃、近くの海で海賊行為を行う鬼の存在が話題に昇るようになっていました。
「あー、このままこの家に居るとお義……おじいさんに殺されそうなんで退治に行ってくる」
「はわぁ。
がんばってねぇ?」
苦笑いしつつおばあさんはモモタロウにキビ団子を持たせてくれました。
その頃家の奥では
「手はずは整っているだろうな?」
「にふふ。まかせるにゃ」
おじいさんがなにやら手を回していました。
……えーっと、これ劇ですよね?
モモタロウが旅に出ると、犬と猿と雉が一緒になって現れました。
「端折り過ぎだろうに」
モモタロウの突っ込みはちょっと残念です。
『GURURURURURURURU……!』
観客の言葉を代弁しましょう。
「志村ーーー!
後ろーーー!」
とても凄い圧迫感にモモタロウはゆっくりと振り返ります。
そこには確かに犬と猿と雉が一緒になって現れていました。
三つ首のそれぞれが犬、猿、雉。
体は犬をベースに背には雉の羽が。
尻には赤いお尻と猿のしっぽがあります。
「一緒ってキメラかよっ!?」
『オレサマ、オマエ、マルカジリ』
キビ団子なんかよりも人肉を御所望のようです。
さて、激しい戦いが始まります。
犬はヘルハウンドをベースにしているのでファイヤーブレスを吐きます。
危なくなると空に逃げ、鳥の前足が容赦なく切り裂いていきます。
交差したと思いきや器用な猿の尻尾が足を掬い、何度もピンチを迎えます。
「ってか、ガチでやれと!?」
まぁ、見ごたえはありますから。
しかしながら流石に刀一本では相対するのは難しいようで、モモタロウはじりじりと追い込まれていきます。
絶体絶命の大ピンチ。
ちらちらと舞台袖を見ても助けには入れません。
空からの一撃を紙一重で避けると、誰かが「ちっ、しぶとい」と声を漏らしました。
舞台に聞こえない程度にお願いします。
一瞬の交差。
その瞬間に腰に下げてたキビ団子の袋が引っかかり、裂けます。
ばらまかれるキビ団子に鳥類の修正か、雉の頭が突付きに入ります。
『クキョッ!?』
おや、様子がおかしいですね。
赤ら顔の猿の顔が更に赤くなってますよ?
「……ど、毒か?」
「はわぁ?
実家でよぅ作ってん酒団子なね。
キビ団子の作り方ようわからんかったきぃ」
ちなみにアルコール度数100%越えとかいう、錬金術を駆使し物理法則を克服したお酒を使っているので効果は抜群です。
キメラはふらふらとおぼつかない足取りでどこかに飛び去っていきました。
あー、大道具さーん。
他に被害出ないように討伐おねがいしまーす。
さて、なんとか危機を脱したモモタロウはついに鬼が島に辿り着きます。
「鬼が島の鬼たぁ俺の事よー!」
海賊衣装でアイパッチしたセラが現れます。
それは微妙に違う作品入ってるので自重しましょう。
あと、後ろのモブ鬼も『アニキ』コール自重な?
隣には困り顔のテオドールの姿もあります。
一応金棒を持ってる当たり協力的に見えます。
「海上戦じゃないのが不満だけど、とりあえずかかれー!」
セラの号令の下、おおおぉぉお!とモブ鬼が襲い掛かります。
まぁ、こういうのはあっさりやられるのがセオリーなのですが、
「おい、こら、ちょっと!
やたら連携取れてるんだがっ!?」
一人の金棒がいなされ隙を作ると、すかさず別の鬼がフォローの一撃を入れます。
そこで退いたポイントにすでに迎撃体勢をとった鬼が待ち構えているではありませんか。
少し耳を澄ますと「右、3番二歩前、5番大振り」とぼそぼそっと声が聞こえます。
そちらを見ると、無駄にナイスバディな体を某電撃鬼系宇宙人を彷彿とさせる衣装に身を包んだクュリクルルが指揮を採っています。
頭には丁寧に鬼のヘアバンドもつけてます。
セラにはちょっと似合いませんね。
「殺意高けえっ!」
完全に統率された鬼の攻撃にどんどん追い込まれていきます。
犬や猿や雉の援護を想定した人数なので一人でやりあうには分が悪い事でしょう。
「テオを投入するまでもないわね」
「まぁ、流石にここに入ったら外道だろうに」
このままではジリ貧と、先ほどの幕間に懐に忍ばせておいた竜剣の能力を発動します。
お客さんに優しくない高速の動きで鬼の包囲網を突破し、指揮官であるクルルを倒す作戦に出たようです。
ですが、彼女の口がゆっくりとこう動きます。
「しりん。
げいげき」
鬼と同じ格好をしたシリングが横合いから飛び出し、その全ての乱打にカウンターを合わせます。
「まかせろっ!」
ちなみに余談ですが、シリングがモブ鬼と同じ格好をすることで、アルルムの良く使う『似ている物は同じである』という魔術を併用。
鬼をシリングと同等として指揮しています。
無駄に高等テクニックです。
「脳の具合とか同じ感じにゃしね」
さて、手詰まりのモモタロウはじりじりと鬼に追い詰められていきます。
舞台袖では中年が一人ぐっと握りこぶしを固め、「行けっ、殺れっ」とか呟いてます。
皆さんお芝居完結させるつもりないですよね。
セラとかシリングとか負ける気が全然ありませんし。
テオさん。
苦笑してないで諫めてください。
いや、無理とか首振られても。
……とりあえず無理やり閉幕した方が良いですかね。シン君逃げてーって感じで。
つか、一発目から騒乱オチってどうよ?
えー、めでたくない。めでたくない。
はいはい。次ね。
【2】ウラシマタロウ
懲りずに日本昔話からです。
今回のウラシマタロウ役は海兵ということでクーニアックです。
さっき役盗られましたしね。
えー、ウラシマタロウが浜辺を歩いていると亀が苛められてます。
「ほら。亀っ!
亀って罵ってあげるにゃっ」
「ウサギに勝ったからいい気になってんじゃねーにゃよ!」
「アキレスに勝ったからって増長してんじゃねーにゃよ!」
若干苛めてる理由が混沌としていますが、子供役はあるるむ人形’sでお送りします。
こー、関わりたくねーなオーラを出しつつ「あー、子供達。亀を苛めたらいかんし?」と、方言堪えた微妙なイントネーションで呼びかけます。
「偽善ぶってんじゃねーよ」
「けっ!
興が逸れたZE!」
「行こうぜー」
どこまでもガラの悪い子供達です。
まぁともあれ助けられた亀はごつごつとした甲羅から陸亀のようながっちりとした下あごが特徴的な顔を出します。
『アリガトウ』
「だ、誰かの配役じゃなかとっ!?」
そんな事は知りません。
『オレイ ニ リュウグウウジョウ ニ ツレテイッテ ヤル。
キョヒケンハ ナイ』
カタコトの言葉でお礼を言い、竜宮城に案内してくれるというではありませんか。
「や、これ違うちゃろ……?」
じりっと下がるウラシマタロウに亀はじりっと近づきます。
『サァ ノレ』
「……」
一歩下がれば一歩前に行きます。
さらに一歩下がれば更に一歩前に。
『コゾウ オウジョウギワ ガ ワルイ ゾ』
「ひぃっ!?」
突如亀が両手両足+頭を仕舞うといきなりキュンキュン回り始めます。
そのまま飛翔っ!
高速で迫り来るガメ……もとい亀に足元を掬われ、更にはエアリアルコンボの如く宙に放り上げられたウラシマタロウが高速回転する亀の背に着地。
そのままぎゅんぎゅん回ります。遊園地にあったら絶対営業停止喰らう速度です。
「ちょっ、待ちぃっ!?」
『イク』
そのまま亀、海へダイブ。
どばしゃぁと水しぶきが挙がります。
「ゲゲボゴゴゴボゴゴボゴ」
……あー、そういえばウラシマタロウって何で海中で息できたんでしょうかね。
あはははは。
とりあえず舞台を海底神殿『竜宮城』に移しましょう。
ようやく回転を止めると、水死体一歩手前がぽいと放り出されます。
良く生きてたなと思うくらい酷い有様です。
『イカサズ コロサズ』
亀、本当に恩返ししたかったのか謎です。
ともかく竜宮城には酸素があるらしいので……
「なん魚がぴちぴちしとぉし…」
酸素があるので、鯛やヒラメがどうすることもできずぴちぴちと跳ねてます。
あ、ぐったりしてきた。
「なんだ情けない」
奥から豪奢な衣装を着けた乙姫がやってきます。
手にはキセル。吐き出す紫煙に半眼の瞳。
乙姫と言うより花魁ですね。
木蘭さん。
「も、木蘭様が乙姫様?」
「似合うだろ。
よし、もてなしてやる」
というわけで運び込まれる酒樽。
そこら辺に転がっている魚を拾い上げて捌いていきます。
酷ぇ。
思いっきり酒の肴ですね。
というわけでなんか宴会が始まったのでちょっと時間飛ばします。
はい、こちらがいろんな意味で出来上がった物です。
流石にしこたま飲まされて足取りもおぼつかないウラシマタロウが「も、もう帰らせて」と呟いたので、乙姫は「仕方ない」と解放します。
とりあえず背中になにやら箱を括り付け「土産だ」と投げやりに言って宴会に戻っていきます。
あれ?
開けたらダメとかそういう忠告は?
あーあ、だめだ聞いてない。
のそりと亀が現れて。
アイシアがなんか亀止めてますね。
流石にあれだけアルコール入れてぶん回すと漏れなく脳の血管切れて死ぬのは目に見えてますからね。
必死なので陸のシーンから始めましょう。
浜辺に投げ出されたウラシマタロウは砂場に『おとひ……』ダイイングメッセージを残しています。
何とか気が付き、よろよろと立ち上がったウラシマタロウは早くお話を終わらせるためにおぼつかない手で玉手箱を開けます。
なるほど、ウラシマタロウ必死です。
玉手箱を開けた気持ちがにじみ出ています。
早く、早く開けなきゃ殺されちゃう!
とりあえず開けると中から白い煙が出てきて、それ以外に特に何もおきません。
って……メイクさん、まだ竜宮城の宴会に参加している様子です。
オチくらいちゃんとつけましょうよ。
半ば呆然としたウラシマタロウは、どうでも良くなったのかそのまま倒れましたとさ。
やっぱりめでたくないなぁ。
あ、私も宴会の方に参加してきます。
【3】ヘンゼルとグレーテル
さて、心機一転。
外国童話に行ってみましょう。
エオスからするとどれも同じようなもんですが。
むかしむかし。
森の中に猟師の一家が居ました。
父母と兄妹の四人仲良く暮らしていたのですが、母が死に、代わりに継母を迎えてから家の中はギクシャクしてきました。
「ねえ」
え?
はい?
こっちですか?
「あたしが継母ってことは、悪人じゃない」
シルヴィア継母が半眼でこちらを睨んできます。
「それに前妻って誰よ?」
「あー、シルヴィアさん。
これお芝居だからっ」
「レストは黙っててっ!」
レスト父さん形無しです。
まぁ、流れ的に言うとラティナくらいじゃないっすかね?
「ラティナはあれです!
ただの旅の連れで!」
さて、自然と修羅場が形成されていますが、さっさと話を進めてください。
継母は前妻の子供が嫌いでたまりません。
なので森の奥に捨ててくるように提案します。
それをこっそり聞いていたヘンゼル役のジニーはこっそり夜の間に光る鉱石を拾い集めてきました。
他に男の子いないんですよね。
これが。
さて、翌日。
継母に逆らえないヘタレ。
もといお父さんは兄妹を連れて森の奥へと歩いていきました。
ヘンゼルはお父さんに気付かれないようにこっそりと光る鉱石を落としていきます。
おや?
「こりこりこりこり」
ヘンゼル役のラスティが何か拾って齧ってますが、お菓子か何かでしょう。
しかし、無口系の二人が兄妹とは、重苦しい家庭ですよね。
さてはて。
森の奥深くについたお父さんは、
「後で迎えに来るから。ほんとだからね?」
と嘘丸わかりの言葉を発してフェードアウトします。
ぐぐっと時間を進めて夜です。
お父さんはやっぱり迎えに来ません。
ヘンゼルはすくりと立ち上がると夜になって輝きだす鉱石を探して……
ふと横を見るとグレーテルが何かを抱えて一つずつ齧ってます。
それは夜でもほんのり輝いていましてですね。
「……」
「……(コリコリ)」
「……」
「…… (コリコリコリコリ)」
まぁ、どうせ2~3回目には迷うんで結果オーライです。
ヘンゼルははふと溜息一つ吐くと、袋から大振りのサバイバルナイフを一本取り出し、手ごろな木をざっくり切ります。
それから年輪の形を見て、続いて星の位置を確認します。
更には月齢と場所を────って、何をしてらっしゃるんで?
「……現在位置の確認と、家までの方向の確認……かも」
サバイバル技能が高いヘンゼルキタコレ。
「森の中で一週間放置された事に比べれば……」
憂鬱そうにお月様を見上げます。
ティアロットはどんな酷い訓練したんでしょうか。
とりあえず家までのルートに目星をつけたらしいヘンゼルが、グレーテルの手を引っ張って帰ろうとするので、大道具さん。
お菓子の家用意してくださーい。
というわけで、ルートを遮るようにお菓子の家登場です。
「お腹一杯……」
そりゃーグレーテルさん。
あんだけ食べれば。
「…… 罠っぽい……かも」
こっちは猜疑心で一杯ですよ。
まぁ確かに罠なんですがね!
「ん?
なんじゃ。
はよ入ってこんか」
ヘンゼルがびくりと背を伸ばします。
それからビスケットでできた扉をくぐるとティアロット魔女のおばあさんが本を読みながら待っています。
「じゃあ、ヘンゼルはそっちの牢に」
「……はい」
素直に牢に入って自分で鍵を閉めるヘンゼル。
シュールです。
「グレーテルはまぁ、適当にしておくがよい」
「……わかった」
とりあえずその場に座ります。
……
……
……
えーっと話進まないんでテコ入れしてください。
「ん?
ああ、そうじゃったな。
とりあえずグレーテルや。
ヘンゼルに菓子をくれてやれぃ」
「……わかった」
「太らして食うとかそういう流れじゃな。
これだけ食べ物があるというに、カニバリズムとは、滑稽な話じゃなぁ」
さり気に魔女役なので自己批判ですよ?
とか突っ込みを入れつつグレーテルがせっせと食べ物を運ぶのを見ます。
とりあえず少し時間を進めて。
魔女は全然太らないヘンゼルを我慢できないから食ってしまおうと大きななべで湯を沸かすようにグレーテルに命じます。
このままでは食べられてしまうと思ったヘンゼルはグレーテルにある方法を囁きます。
「ねえ。
魔女さん……おなべ……これで良いかわからない」
「覗き込めと?」
「うん……」
グレーテルの言葉にやれやれと立ち上がった魔女はなべの中を覗き込もうと……
……覗き込もうと……しても背が足りてませんね?
「《天翼》」
ふわりと浮かび上がってなべの中を覗きこんだところでグレーテルが背中を押します。
魔女はなべの上で浮いています。
「……」
「……」
「……作戦失敗?」
「まぁ、やられたことにして良いんじゃないかのぅ?」
とりあえずそういう方向で手打ちにしたので、グレーテルはヘンゼルを助けて魔女の家を脱出します。
そのまま家に帰ると、
「はい、あーん」
継母。
継母。
もう死んでてくださいってば。
「もう、邪魔しないでよ」
いや、話終わりませんから。
「別にいいじゃない。
貴方達を受け入れればいいのよ。
最近残酷系はPTAが煩いから改心したってパターン多いし」
……まぁ、心を入れ替えた継母も含め、四人仲良く暮らしましたとさ……でいいのかなぁ?
前の2つに比べたらめでたしめでたしで。
【4】白雪姫
昔ある王国に美しい姫が居ました。
その母親────王妃もとても美しいのですが、日に日に美しくなっていく娘に恐怖心を抱いていました。
「鏡。
世界で一番美しいのは誰だ?」
王妃役の木蘭が問うと鏡が答えます。
『美の基準は人それぞれにゃから、聞かれても困るにゃ』
そんな真理は今この場に不要です。
『えーっと。
じゃあ木蘭ちゃんでいいにゃよ。
満足?』
余計な一言が足されましたが、そういう風にして王妃は日々の活力を得ていたのです。
しかしあるとき
「毎度同じ事を聞くのは面倒だな」
『こっちの台詞にゃよ。
そろそろ白雪姫とか言っていい?』
「却下だ」
『えー』
傲岸不遜に言い放ちます。
魔法の鏡の価値ありませんね。
『とりあえず白雪姫にゃよ。
都落ちにゃ』
「気に食わんな。
では白雪姫を殺せ」
黒い影が王女の周りに一瞬現れ「「御意!」」と声を唱和させ何処かに消えて行きました。
『大人気ないにゃねぇ』
まぁ、確かにその通りなんですけどね。
で、まぁ一方の白雪姫は……
「えうー」
あのー、ラヴィリオンさん?
「なんですかー?」
その格好は何ですか?
「白雪姫ですよー」
白いボディに直線的な眉と口。
赤いバケツが頭に乗ったその姿はどう見ても雪ダルマなんですが。
「白雪姫の衣装です」
えー、衣装係。
さっさと着替えさせて。
さて、早着替えも済ませて白のドレスに身を包んだ、胸が少し、いやかなり可哀想な娘が持っていかれた雪ダルマの気ぐるみの方を物欲しげに見つめています。
「あー、白雪姫様」
「はいです?」
恭しく頭を下げる猟師役のジュダークが森の方を指差します。
「あちらにもっと素敵な着ぐるみがあるとかで」
「行くですよ~」
あっさり連れ出す事に成功した猟師はある程度森の奥深くまでやってくると、白雪姫に銃を突きつけます。
「えうっ!?」
「王妃様から殺せと命じられまして。
でも殺せないので死んだ事にしておきます。
遠くにお逃げください」
……ようやくまともに演技してくれる人が居ましたよ。
おおっと、感動している場合でありません。
猟師はばんと一発発砲し、衣装の飾り一つを手に王妃への報告に戻って行きました。
「えうー?」
えー。
状況を理解していない白雪姫を誰か誘導してあげてください。
さて、白雪姫が死んだと報告を受けた王妃は鏡の前に行きます。
「以下略だ」
『こっちも以下略で~』
いや、わかりませんから。
『察しろにゃ』
「まったくだな」
本当に自分勝手な人間多いですよね。
まぁ、とりあえず白雪姫が生きている事を知った王妃は自分で殺すかと七宝星剣を抜くな。
構えるな。
「確実だぞ?」
毒リンゴにしておいてください。
「そういう手段は好みでないのだが」
だから演劇に好みを入れるなっ。
さて、一方の白雪姫はふらふらと森の中を歩いていますと、遠くから声が聞こえます。
「こびぃ~とが 木ぃを~ 切るぅぅ~♪
へいへいほー」(こーん)
『へいへいほー」(こーん)
「へいへいほー」(こーん)
『へいへいほー』(こーん)
見事にこぶしの乗った唱和です。
歌にあわせてかこーん。
かこーんと斧が木を叩く音がします。
違うからっ!?
っという突っ込みは舞台袖からで、肝心の白雪姫はまったく気にしていません。
『にゃっ!?
何ヤツっ!?』
ぎゅるんと首が回り、七人の小人アルルム人形が白雪姫を見ます。
「えうー。
迷子なんですけどー」
『ぉぅぃぇぃ。
うちにくるかい?』
「じゃあそうします~」
というわけで白雪姫は七人の小人の所に住み込む事になりました。
そこに魔女に変装……してねえし。
王妃が堂々と小人の家にやってきます。
「いらっしゃいませー」
「ほれ、食え」
「はいです~」
早っ。
しゃくりとひとつ齧ると即効性痺れ薬で白雪姫は倒れてしまいます。
いや、演技で倒れる人じゃないですしね。
というわけで、物語の上では毒殺した王妃はずかずかと城に帰っていきます。
そこに七人の小人が帰ってきます。
『おお勇者よ。
死んでしまうとは何事か!』
違げえっ!?
とりあえず、
「かなしーよ♪」
「かなしーんだよ♪」
とステップ踏みながら小人は白雪姫をガラスの棺に入れます。
中には花を詰め。
床には魔方陣を描き、って、何してんの?
「邪神復活の生贄にいいかなーと」
はい、黒子さん。
消して消して。
「いあいあはすたー!」
そこ、詠唱しないっ
さて、和気藹々と悲しむ小人の下に一人の王子が現れます。
ってランスの配役だったはずじゃ?
「嫌な予感がするからって行っちゃったんですよ」
警戒心ばりばりのレストが白馬にのってやってきました。
それを見た小人はすちゃっと斧を持ち、すちゃっとホッケーマスクをつけます。
『ひゃっはー♪』
「何でぇっ!?」
ざむざむざむと地面を穿つ斧の刃から逃げ回る王子様。
これはあれです。
白雪姫の遺体を守ろうとする小人の熱い魂なのです。
嘘だけど。
「フランシスカ~」
埒が明かないと投擲用小型斧を装備してどんどん投げてきます。
「ひぃっ!?」
あー、一応舞台なんだから手加減してくださいね。
必中コースのフランシスカをギリギリ剣で弾くも派手に吹き飛ばされた王子様は白雪姫の眠る棺にどっかんとぶつかります。
と、まぁそんなどたばた劇をやってる間に痺れ薬の切れた……もとい衝撃で喉に詰まっていた毒リンゴがぽろりと落ちた白雪姫は起き上がり、うーんと体を伸ばします。
「白雪姫が立った!」
「シララが立った!」
「立った立った!」
「無理ありすぎですよっ!?」
突っ込みは顕在です。
まだ余裕っすね、王子様。
ともかく無事目覚めた白雪姫は王子様に連れられて城に戻ります。
一方のお城では
「鏡」
『おうさ』
「わかった」
観客は理解不能です。
あと剣を抜かないで戴きたい。
毒リンゴを食べたはずの白雪姫が無事だとしって新たな策を立てようとする王妃ですが、叩き斬ったほうが早いというのは策ではありません。
そこに王子様に連れられた白雪姫が帰ってきます。
「ただいまです~」
「おう、戻ったか」
すげーフレンドリーに王妃様が迎えます。
「いや、殺そうとしてた仲ですよね?」
無粋な事を言う王子様に二人がやれやれという顔をします。
「え? 悪いの私!?」
「まぁ、ラビなら良いか。
よし、寝るぞ」
「はいです~」
後に残される王子様。
『まぁ、そういう役回りだし?』
鏡に慰められる王子様でしたとさ。
約一名を除いてめでたしめでたし。