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ぼくらの島  作者: ねむるこ
真を見極める子
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73.ぼくらの島

 帯刀(たてわき)は真見の方をちらりと見やると小さく安堵のため息を吐く。

「全く、たいした奴らだ……。分かった。今、引き上げるぞ」

 その様子を見守っていた(みなと)が目を見開いた。

「真見ちゃん。貴方……あの短時間でこの作戦を考えて……実行したの?」

 真見は涙を拭いながら頷く。

「ごめんなさい……。本当は傷つけたくなかったんです。湊さんの大切な人を。でも、お父さんを助けようと思ったらもうこれしかなくて……」

 しゃくりあげる真見の側で湊はその小さな肩に軽く触れた。

「……大丈夫。(おさむ)は生きてるし、貴方は最小限の被害に抑えようとした……。理も興奮状態にあってとても人の話を聞けるような状態じゃなかったから」

 真見は首を振った。

「どんな理由があっても人を傷つけちゃいけないんです。だって……こんなにも心が痛い。湊さんにも怪我をさせて……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

「……謝らないで。貴方の優しさと脆さがこの島と、理を救ったのよ……。これで分かったでしょう?貴方が弱さだと思っていたものが最大の強さだったってこと。だから、これだけは言わせて。

ありがとう、真見ちゃん。私達の島を守ってくれて」

 湊の言葉に真見はその場に膝をつき、顔を覆う。静まり返った桟橋付近には少女の嗚咽だけが響き渡っていた。


「ねえ、真見ってどうして真見って名前なの?」

 幼い姿の真見が真文に問いかける。

 微睡のようなぼんやりとした風景の中に二人の姿が映し出された。

「真見はね。真実を見極めることのできる子という意味で名付けたんだよ。これからの時代、きっとそういう力が必要になってくると思うからね」

「どうして?」

「今以上に情報量が増える。ただでさえ処理しきれないのにあらゆる次元の視覚情報が増えていく。これからの時代、ちゃんと真実を見極めることのできる子が必要なんだ」

「ふーん」

 真見はよく分からないまま相槌を打つ。その真見の小さな頭に真文の大きな掌が乗った。

「その力で人を助けることのできる優しい子に育って欲しいと思って名付けたんだよ……」


「真見」

 真見は身体を揺さぶられて目を覚ました。いつの間にか島タクシーの後部座席に座っている。

「あれ……。私……お父さん!」

 真見を揺すり起こしたのは真文だった。眼鏡の奥の温かい瞳を見て、真見は安堵する。

(そうだ、私。島タクシーの中で休んでなさいって雪野さ……じゃなくて湊さんに言われて、そのまま眠っちゃったんだ)

「湊捜査官と頑張ってくれたらしいじゃないか」

「……うん」

 真見は気恥しそうに頷いた。

「これから捜査官が上陸して一斉調査に入るらしい。そのためにここで皆待機してる」

「そうだ!本部の幽霊は?瑠璃と創君が……」

 声を出し過ぎて思わず咳き込んでしまう真見を見て小さく笑う。

「それは少し前に連れて来たあの子達のことか?」

 そう言って真文が指さした先には瑠璃と創、着替えを済ませた良が居た。

「いつの間に!」

「……My ISLAND(マイアイランド)を強制終了させてきた。随分手間取ったけどね。この島に実装されていたバーチャル空間を機能停止にしたんだ」

「そっか……良かった」

 安堵したのか、真見は座席にもたれかかる。

「そんなことより。どうしてあんな危ない物、私のセル・ディビジョンに入れておいたの?お父さんは……こうなることを予測してたの?」

 真見の問いに真文が小さく笑う。

「いや。真見の身に何かあったら使って欲しいと思って入れておいただけだ。気が付いてくれて良かった。……真見なら正しく使ってくれると思ってな」

「……!」

 真文の真っすぐな言葉に真見は照れくさくなって思わず黙ってしまった。

「驚いたよ。まさか島に残る選択をするなんて。それこそ予測できなかった。……ありがとう。父さんを助けてくれて。それと、こんな目に遭わせてすまない」

「……私達にも言ってくれればよかったのに」

 座席の背もたれに体を沈めながら真見はそっぽを向いた。

「え?」

「お父さん、ずっと一人で戦ってるんだもん。お母さんは浮気だって騒ぐしさ……。だったら皆で立ち向かえれば良かったのに。そうすれば……辛くなくて済んだよ」

 真見の言葉に真文が小さなため息を吐く。それはいつもの疲労からくるため息ではなかった。静かに真見の大きくなった頭に手を乗せた。

「すまなかった。お前達を巻き込みたくなかったんだ。それに田切さんが目指すビジョンに少しばかり夢見てた。止められればいいと思ってたんだがこの様だ。……父さんもこの島の未来を見たかったんだよ」

 真見は複雑な様子で真文を見上げる。

「母さんにはちゃんと怒られてくるから。ほら、向こうで友達が呼んでる」

 背筋を伸ばすと、良が大きく手を振っているのが見えた。真見は急いで島タクシーから降りると良達の元へ駆け寄る。


「神野さん、大丈夫?随分泣いてたみたいだけど」

 心配そうに良が言う。いつの間にか良は着替えをすませており、髪の毛だけ湿っている状態になっていた。真見は今になって子供みたいに泣いていた自分のことが恥ずかしく思えて視線を逸らして答える。

「あ……うん。大丈夫」

「相手は殺人犯。同情しなくてもいいと思うけど」

 桟橋で腕組をしていた瑠璃が吐き捨てるように言った。

「でも、田切さんも大切な人たちがいるこの島を守りたかったんだって考えたら悲しくなってきて……」

 真見が困ったように笑うのを見て瑠璃はため息を吐く。

「相変わらずどうしようもないお人好し。……万野(ばんの)先輩と田切(たぎり)、向こうの島タクシーに乗ってる。他にも田切側にいたセル社の社員も一斉検挙されるんだって。捜査官が来たらまとめて本島に連れてかれるみたい」

「……そうなんだ」

 少し離れたところで他の島タクシーに乗せられた二人と、湊と帯刀の姿が見えた。佳史の横顔を見て、真見は少しだけ胸が痛んだ。

「この島、どうなるんだろうな」

 創がぽつりと呟く。見ると創の前髪は結ばれたままで、その透き通った瞳が良く見えた。

「開発が止まって、また廃島になんのかな?そうしたら日本はどうなっちゃうの?」

「さあ?未来のことなんて知らないわよ。今、この瞬間しか私達ができることなんてないんだから」

 地平線を眺めながら瑠璃がすっぱりと答える。乱暴な答えに真見は笑った。この瑠璃のさっぱりとした気性が素直に好きだと思えた。

「ああ!そうだ。忘れる所だった。これ」

 創はポケットを探ると真見の前に銀色の物体を取り出す。真見は思わず声を上げた。

「サン!」

 真見の両手に収まったサンは首を傾げた。可愛らしい姿に思わず笑みをこぼす。

「大丈夫。何度でも創り直せるよ。だって僕らの島だもん」

 良が海の方を眺めながら笑った。真見も穏やかな笑みを浮かべて言った。

「私、相模君のそういう明るい所好きだよ」

 真見の告白じみた発言に良は目を白黒させる。瑠璃は険しい目を、創は興味津々で真見と良を眺めていた。

「それに瑠璃も。創君も……万野さんも……この島のこともね」

 真見は自分でも驚いていた。こんな風に人に好意を伝えられたのは今日が初めてだ。体中がじんわりと温まっていくような不思議な感覚に包まれる。

「何、それ……」

「どういうことだよー」

 瑠璃も創も照れくさそうに笑う。驚いていた良もすぐに太陽のような笑みを浮かべて言った。

「僕も好きだよ」

 真見は温かい気持ちをそのままに地平線を眺めた。空の奥の方から日が差してきて、仄かに本島が見える。

(そう、たとえ最悪な状況だったとしても創り直すことができる。……未来を見て、今を生きることのできる人達が隣にいれば)

 気が付けば桟橋にいた子供達、全員が朝日を眺めていた。

 あんなに不気味だった夜の海が、光の粒を纏っていく姿は魔法のようだ。真見の過敏な目には眩しいのに、何故かずっと見ていたいという気持ちになった。バーチャル映像の眩しさとは異なる、生命を感じる、温かさや力強さを感じる眩しさだ。

 バーチャル世界のように美しい光景だったが真見は確信していた。この光景が虚像ではないということを。

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