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ぼくらの島  作者: ねむるこ
真を見極める子
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69.真を見極める子(3)

「社会を立て直すことができない国を見捨てて何が悪い。だったら一から創り直すしかないだろう?新しい国を」

 田切の言葉を聞いて湊が目を丸くする。そのすぐ後で平静を装うように続けた。

「なるほど……それが貴方の真の目的だったのね。そのためだったら犠牲になる人間がいてもいいっていうの?」

 湊は拳銃を握り直す。

「それに、私は貴方の過去の大きな過ちを知っている……!12年前。島長(しまおさ)を殺したのも、貴方ね」

「……!」

 田切の瞳孔が開いた。

「当時、宴会の席を立ったのは貴方とヨシ、島長だった。貴方にはトイレでヨシと会ったというアリバイがあった。だけどそれは全くの嘘。私、見てたのよ。貴方が島長に何か手渡したのを……。後から分かったことだけど、それは暗号が仕込まれた埋立地に関する書類だった」

「暗号?」

「その文書は島の中央部の防波堤に関する資料だったの。貴方が「ここで待ってる。埋立地のことについて良からぬ噂を聞いた」と言えば本人を呼び出すことができたでしょうね」

 湊は一呼吸吐くと口早に続けた。

「貴方が酒に酔った島長をその紙で呼び出し、防波堤から突き落とした。ヨシが口裏を合わせたのよ。当時、島長へのヘイトが強かったから、島民たちは貴方達を守った。そして……私も。でもそれは間違いだった!」

 湊は悔しそうに顔を俯かせる。

 田切は湊の言葉を聞いて、再び過去の映像を頭に映し出した。もっと過去の記憶だ。



「こんな島、ゴミの埋め立て以外に何の価値もないんだよ!」

 宴会の場で声高に島長が言った。

 島と人をまもろうとしない、守る努力すら見せない島のトップ。それに追従するしかない人達。当時、十七歳だった田切にこの世界は耐えられなかった。

 美しい海、自然、心優しい人達……。自由に自分の発明品を作り上げることのできるこの空間が田切は好きだった。

 この島が無くなると言うことは、自分の居場所がなくなるのと同じだと思った。生きる場所を奪われたのだ。

(島を守るには……僕が何とかするしかない)

 気が付けば田切は走り出していた。

「理!なんてことを……!」

 見られた。その瞬間、田切は自分の人生の終わりを悟った。しかもよりによって親友のヨシに見られていた。

 酒で酷く泥酔した島長を田切は老朽化した防波堤に呼び出したのだ。

 シー・リサーチャーで海面に注意を惹きつけ、足場となっていたコンクリートブロックをシー・リサーチャーにくくりつけてあった紐で引っ張らせた。誰にも見られなければ不幸な転落事故にしか見えない……はずだった。

 まさかヨシが来るとは思わなかった。

 突然のことで動けないでいた理の腕をヨシが力強くつかむ。

「早く!こっちだ。トイレに行ってたことにする。それでいいな?シーリサーチャーの紐はあとで回収する。それまで潜らせておくんだ」

「え?」

 ヨシは防波堤から遠ざかるように田切の腕を強引に引っ張る。何よりもその、事件をなかったことにしようとしているヨシに田切は戸惑った。

「……ありがとう。島を守ってくれて。俺達の居場所を守ってくれて」

 振り絞るように声を出したヨシの顔は、よく見えなかった。ただ、田切の腕を掴むその手は震えていたのを覚えている。



 過去から戻って来た田切は重苦しそうに口を開いた。

「……犠牲になった人間は全員、有害な人間だった。それに、本島ではもっと沢山の人間が犠牲になってる。しかも害のない人達だ……。

理想の国造りを邪魔するような奴らばかり……。折角、穏やかで誰もが自由に暮らすことのできる世界を創り上げたっていうのに……それを邪魔するお前らこそ、罪人だろ!」

「……」

「湊。君が守るあの島は終わってるんだよ。死ぬほどの苦しみを味わうぐらいなら、新天地を目指して何が悪い?生き残るために新しい居場所を生み出すのは自然なことだろう」

 湊は恍惚とした表情で語る田切を呆然と眺めた。

 そこには発明好きで快活な少年はどこにもいない。失意を胸にしながらも湊は声を張り上げた。

「My ISLANDなんてふざけた名前を付けて……。最初からスーパーアイランド計画を利用して、理想の国を創り上げようとしていたのね。それは私達の島ではなくて『貴方の島』の間違いなんじゃないのかしら」

 湊の言葉を聞いて田切は笑った。

「僕が傲慢な独裁者になるとでも?残念ながらそうはならないよ。僕の目的は自分の支配欲を満たすためじゃない。

苦しんでる人達のために新しい居場所を創るためだ!本島の奴らはそんな僕の思惑も知らず間抜けにも手を貸してくれたよ。特に時雨大臣はいいカモだった。自分の益になると思い込んでこうして捜査官の情報を流してくれたんだからな!

政府関係者のテロだって、僕の理想の邪魔さえしなければ実行を止めてやってもいい。まあ、奴らは僕の理想、苦しんできた人々が抱く理想なんて理解できないだろうけどな」

「理。どんなに気高い理想を掲げようとあんたのやってることは間違いなく犯罪よ。新技術を使用した、悪質極まりない……。馬鹿なことはやめて、投降しなさい!」

 諦める様子のない湊に苛立った田切はテーザーガンを一発、打ち放った。聞き慣れない破裂音と共に、それは湊の手に命中する。

「うぐっ」

 湊はその場に屈みこむと取り落とした拳銃を拾おうと麻痺した手を動かす。皮膚が焦げたような香りが辺りに充満した。

「どうやら湊。君とは分かり合えないみたいだ」

 そう言って湊の拳銃を拾い上げると、湊の心臓辺りに狙いを定めた。

「残念だけど、消えてもらうよ。……僕らの島のために」

 暗闇の中で鋭い発砲音が響き渡った。

「なん……だ?」

 右肩を撃ち抜かれたのは田切だった。湊の拳銃が零れ落ちる。左手で持っていたテーザーガンを手放し、肩を押さえた。

「どうして早く気が付かなかったんだ……。もう一人いることに」

 田切は弱々しく微笑んだ。

 撃ったのは、島タクシーの影から出てきた帯刀(たてわき)だった。

 島タクシーはドアを閉めれば自動的に停車場に戻る。ドアを開けっぱなしにしていたのはタクシーを帰させないためであり、帯刀の存在を隠すためでもあった。

 悲痛な表情を浮かべた帯刀が声を上げた。

「……雪野さんがぎりぎりまで待ったってーのに。お前と言う奴は。救いようのない悪人だな」

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