65.ラストステージ(2)
「君は僕がこの島を守るために騒動を起こしたと?」
(雪野さんはテロだって言ってたけど、私はこっちの方が本命なんじゃないかと思うんだ)
「こんなこと、亡くなった友達も望んでませんよ!沢山の犠牲者を出して……」
田切は沈黙の後で噴き出すようにして笑った。
「まるで僕が連続殺人犯のような言いぶりだね」
今までの罪を明かされたというのに冷静なままでいる田切に真見は鳥肌がたった。視線を外さぬよう何とか持ちこたえる。
「そうですよ……。今まで島で起こった事故は全部、貴方が引き起こしたことなんですから」
真見の言葉に背後の良が息を呑んだ。
「君がどこまで分かってるのか、聞かせてもらおうかな」
真見はシールド職員達の視線に怯えながらも、口を開いた。声が震えてしまわないよう、自分を鼓舞しながら続ける。
「島で起きた溺死事故は全部……新技術の実証実験を兼ねた殺人だったんです。
一度目と二度目は恐らくレオン号。私が船から落ちたのはレオン号とシー・リサーチャーの、社宅からの転落事故はセル・ディビジョンの実験だった……」
「なるほどね。そうだとしたら、何のための実験だったんだろうね?」
冷静な田切の言動に真見は恐れを抱きながらも答えた。
「全て、バーチャル世界を現実世界に実装させるための実験です。恐らく、レオン号の船体からバーチャル世界を海面に投影する技術があるんじゃないかと考えました」
「どうしてそう思うのかな?レオン号の性能説明に一言もそんなこと書かれていないけど?」
田切が楽しそうに真見に解説を促す。
「レオン号の船体は様々な色に変わるとパンフレットに書いてありました……。作られた映像を見るには光が必要です。船の中で発光するものは船体しかありませんから……」
真見は一呼吸置くと続けた。
「私が水面を見ている時に物が落ちたように見せる映像を投影されたんだと思います。水面を見るのに夢中になっていた私は背後から近づいて来る人に気が付きませんでした……。
私の事故でレオン号の投影技術とシー・リサーチャーの人命救助の技術を試したんでしょう」
「じゃあ、あの日シー・リサーチャーの実験があったのは偶然じゃないんだね」
背後でシールド職員に囲まれた良の言葉に真見は静かに頷く。話を聞いていた田切がパチパチと手を叩いた。
「面白い。そこまで公にされていない新技術を予測できるなんてね。でも本物そっくりの映像を見せるだけじゃ人は殺せないと思うけど?」
「……そうですね。私の時みたいに、だれか突き落とす人が必要になってきます。その役目はシー・リサーチャーが引き受けた……」
真見は拍手をする田切を眺めたまま続けた。
「2048年と2050年の事故では水面に何か映像を映し出し、シー・リサーチャーで海に引きずり込んだんじゃないかと……。
1度目の船の上での事故では船内が散らかっていたと聞きました……。多分、障害物を避けるところを狙って。
二度目、レオン号付近で起きた防波堤での事故は足元のコンクリートを引っ張ってわざと崩したんだと思います。証拠にシー・リサーチャーに異物がくっついていたことは記録にも残っています」
「……さすがだね」
田切が冷静に相槌を打つ。真見の推理を一つ一つ確かめているようだった。
「全部計画されてたことだったんです。
恐らくレオン号の投影技術を一度目と二度目の溺死事件を起こし、回数を重ねることで性能をアップデートしていったんでしょう。実験対象はセル社にとって都合の悪い人達……」
真見は話しながら涙を流した。
口にするのも躊躇われるほどの酷い行いに誰よりも心痛めていた。同時に涙が出てしまう自分に怒りも感じる。
(私、こんな時にも泣いてる……。犯人を前にして、最悪だ……)
「犯人を追い詰めた探偵が泣くもんじゃないよ」
田切は余裕たっぷりに言う。真見は袖で乱暴に涙を拭うと田切をしっかりと見据えた。
「どうして人を殺したんですか。技術の実証だけなら、殺す必要はなかったですよね」
真見の重い問いかけに、田切は腕組をして考え込む。
「テクノロジーというのは必ずしもいい効果を与えるものだけではない。悪用されることを前提に開発を進めたかった。より高度なものを生み出せるように。序に邪魔者を排除できるならコスパが良い」
悪びれもなく答える田切に真見は青ざめた。田切は自分の動向を探る存在に気が付いていたのだ。恐らく潜入捜査官のことも……。
「僕が君を誘き出した理由も分かるのかな?」
「……五感に敏感な特異な人間が、今後バーチャル世界を作り上げていくのに必要だったから……ですよね」
真見の答えに田切は穏やかな笑みを浮かべた。これまで証拠なき殺人を行ってきた人物とは思えない。テーザーガンを手でもてあそびながら真見との問答を楽しんでいるようだ。
「僕は君を見誤っていたみたいだ……。データでは洞察力はそこまで高くないはずだけど」
「教えてもらいましたから……。自分の力の使い方を」
「君は僕のことを『亡き友人のために島を守ろうとする善人』、だと思っているようだけど大間違いだ」
真見は涙を拭いながら田切に向き直る。




