64.ラストステージ(1)
「そ……そうなんだ。そしたらひとつだけ約束してくれる?私が合図をするまで何もしないで。何が起きても、絶対」
「Xを捕まえるんじゃないの?」
良が拍子抜けしたような声を上げた。
「うん。捕まえるんだけどね……。今、この場所じゃないんだ」
遠くを見るような真見の目に良は首を傾げる。
「分からないけど……分かったよ」
良の返事を聞いて真見は安堵のため息を吐いた。その様子を見て、良は再び口を開く。
「神野さんって変わったよね」
「え?」
予想外の言葉に真見は固まった。いつも良は予想もしない言葉に驚かされてしまう。本当は真見の訳の分からない言動に突っ込むところだがそんなことはしない。
良はいつも太陽のように明るく、温かく見守ってくれるのだ。
「初めて会った時は大丈夫かな?って思うぐらい心配だったのに、今はついて行こう!って思うぐらい頼もしいよ!何でだろう……」
(またそんな、恥ずかしいことをはっきりと……!)
真見が頬を赤らめて視線を彷徨わせていると、良は締めくくった。
「今まで自分の感情のこと、よく分かってなかったけど。神野さんと会ってから分かるようになったんだ。……ありがとう」
「う……うん」
いつものふざけた様子とは違う良に真見は戸惑いながらも首を縦に振った。佳史に事故の事を聞かれ、怒りを露にした良の姿と重なる。
照れくささと良がどんな気持ちでそんなことを話したのか、思考をめぐらせていたらエレベーターが屋上に到着した音が聞こえてきた。
さっきまでの穏やかな雰囲気は、屋上に吹く風とともに消え去った。
エレベーターのドアが開くなり、シールドの職員が出迎える。テーザーガンを真見達に向けていた。
良が真見の前に出てバーチャル上の銃を構える。
「ここまでよく来たね。君たちが何もしなければ此方も何もしない」
動画撮影用のマイクを通して話しているようで、はっきりと聞き覚えのある声が耳に届く。真見は良に向かって首を振ると黙って銃の表示を手元から消す。
シールド職員に後ろ手を掴まれたことから、真見は屋上にいる人たちは本物の人間であることを悟った。
シールドの職員に引っ張られながら開け放たれたドアへと歩みを進める。夜の冷たい風と共に嗅いだ覚えのある香りが真見の鼻を掠めていった。
良は真見の背後で他のシールド職員に囲まれ、二人は離れ離れになってしまう。
「こんばんは。初めまして、神野真見さん」
「こんばんは……。田切……理さん」
真見は暫くの間、屋上の光景に目を奪われていた。
(屋上は神社になってたんだ……!)
夜空を背景に浮かび上がる赤い鳥居は幻想的で美しかった。その手前に、セル社のトップである田切理、その人が立っている。
田切の足元には後ろ手に縛られた真文が転がっていた。反応がないところから気を失っているらしい。真見は目を細めた。
田切の手にはシールドが使用しているテーザーガンが見える。
(お父さん……)
真見は真文を見て、一瞬だけ呼吸を乱したがすぐに胸に手を当てて落ち着かせた。
「個人診断で君は『大胆な行動のとることのできない。慎重な性格』と出ていたけど……。例外がある」
そこまで話して田切は自分の足元に転がる真文を見下ろした。
「他人のためになら大胆な行動も厭わない。自分以外のことになると己の力を発揮する可能性が高くなる」
(個人診断で私の行動を予測してたんだ)
真見は握りこぶしを作った。
相手は真見の内面から外面まであらゆるデータを手にしている。真見のこれからの行動が読まれている可能性が高いが前に進むしかない。
真見は徐に口を開いた。
「……本当に、こんな方法しかなかったんですか」
真見の言葉に田切が首を傾げる。
「何の話かな?」
「こんなことをしなくても命島を、貴方の居場所を守ることはできたはずですよ!」
真見の言葉に田切の目が丸くなる。そして笑みを漏らした。




