62.ステージ・ゼロ(4)
「それは、My ISLANDの新技術のせいだよ。この島は……バーチャル世界の衝撃に対応するように設計されてるの」
「それ、どういうこと?」
幽霊の攻撃を回避するため、身を屈めながら良が問う。
「My ISLANDで感じる五感は全部、セル・ディビジョンによる神経の干渉によるもの。だからセル・ディビジョンを装着していなければならないんだけど……。セル社はそれを越える技術を再現しようとしてたんだと思う。何も装着せずにバーチャル世界と繋がる技術を。
今ガラスが割れたのも、My ISLANDの攻撃に対応した動きを建物が再現して、バーチャル世界と繋がったように見せてる」
「じゃあ、セル・ディビジョン無しでも幽霊が見えたのは……?」
良が眉を顰めた。
「思い込み……だよ。今、島の人達は皆『セル・ディビジョン』を身に付けることでバーチャル世界を認識できると思い込んでる。けど、本当は違うの。セル・ディビジョンが無くても空間に映像は浮かび上がらせる技術はある」
「そっか」
真見の解説を聞いていた瑠璃が目を見開く。
「空間ディスプレイの技術がこの島の至る所に施されてる。そういうことでしょ?」
瑠璃の答えに真見は大きく頷いた。
「うん……多分。島民に説明はなかった技術みたいだけどね……。地面が光源になっていて、空間に映像を浮かび上がらせる技術が使われているの。あの、セル社本部の受付の技術みたいにね」
ここまで話して真見は自分の身体を抱きしめる。自分で話していて恐ろしくなってしまったのだ。
「サンで調べたら、この島のコンクリートは『透過コンクリート』だったの。地面から光を通すことができるということは、映像を空間に映し出すこともできるということ。その映像に合わせてこのセル・ディビジョンの衝撃を感じさせる機能が加われば……」
「実際に銃弾を受けたと錯覚して意識を失う……」
そこまで口にして瑠璃は腕組をして黙り込んだ。
「社宅の飛び降りはセル・ディビジョンの錯覚だった。しかも衝撃を感じる機能が最大限に設定されていたとしたら……」
「うん。残念だけど、そうみたい」
真見は悲しそうに頷いた。
「ふーん。知らない新技術によって色々おかしなことが起こってたのか……。分かったようで分からないけど、今暴れてる人たちは全部『幽霊』なんだね」
良が呟いた。真見は引き続き、幽霊について解説を続ける。
「今見えてる幽霊たちは3Dのホログラムだけど、これが2Dのホログラムだったら、見る角度によってはカメラに映らない。学校では教室を上から見るような防犯カメラしかなかったから幽霊を映すことができなかったの」
「それよりどうすんだよ、この状況……ゲームどころじゃねえよ!」
創が困ったように真見を見上げる。真見は騒々しくなっていく目の前の光景に眩暈を感じながらも、はっきりと答えた。
「皆には幽霊を追い払って欲しいの」
「幽霊退治って……。どうやって?」
創が興奮したように声を上げた。真見は無言で赤い銃を見せつける。目に見えているが、存在しない武器だ。
「これがゲームだというのなら。ゲームの武器で対抗できるはず。今、シールドの職員はテーザーガンで対応してるけど、見ての通りバーチャル世界に存在する『幽霊』には無害」
「……そもそもどれが幽霊だが分かんねえ!もし、俺達の武器も人に強い衝撃を与えるよう調整されてたら……適当に撃てない。直接触るのも危ないし!どうすりゃいいんだよ」
創が文句を言うと真見は静かに自分のポケットをまさぐった。
「この子を使って」
サンを取り出して飛ばすと、近くにいたシールドの男性の背中に飛びついた。
「何だ?これは……」
男性が振り返る。
「今、サンを生物調査モードに設定したから、生き物にくっついて写真を収集していくはず。この建物の中に大きさのある生物は……人間しかいない。これで幽霊を見極めて」
「……分かった」
創が小さく頷いた。
「できればシールドの人達と協力して!」
「話は大体聞いていた。……セル・ディビジョンのハンティングモードで対応すればいいんだな!」
近くに立っていた男性が振り返りながら答える。真見は思わぬ人物の反応に肩を揺らした。今は一人でも幽霊への対応する者が欲しい所だ。真見は大きく頷いて見せる。
「……はい」
「しかし、幽霊の攻撃を避けるんだったらセル・ディビジョンを外してしまえばいいんじゃないか」
「外したら私達が幽霊に対応することができません。私達が干渉しなくても幽霊は私達の世界に干渉し続けます。
既にバーチャルと現実の見分けのつかなくなった人達がパニックに……。ここで食い止めなければ幽霊は暴動を続けるでしょう」
「そうか……。なら奴らの攻撃を回避しながらやるしかないな」
男性はハンティングモードの銃を手にすると駆け出した。サンもそれに呼応するように飛び出した。
「私は、屋上に向かうから。皆は幽霊を追い払ってなんとか被害を小さくして!」
「真見!一人で行くの?」
瑠璃の問いかけに真見は笑いながら頷いた。
「うん。私が行かなきゃいけないんだ。エレベーターまで助けてくれる……かな?怖い思いをさせちゃうと思うけど……」
真見は幽霊の銃撃で倒れた男性を見て黙り込む。
(本当は皆に危ないことをしてもらいたくない。けど、私だけじゃとても乗り越えられない。私一人でも乗り越えられるぐらい強かったら良かったんだけど……)
真見の自己嫌悪と打ち破ったのは創だった。
「任せろよ!この島の中でMy ISLANDのプレイ時間が長いのは俺ぐらいだし!」
「分かった。真見がそう言うなら」
「……」
その後で瑠璃が神妙な顔つきで頷いて、ハンティングモードの銃を選び始めた。
良だけが無言でこの状況を眺めている。
「相模君、大丈夫?」
「ああ!うん、大丈夫。エレベーターの方角を確認してたー」
良が何かを誤魔化すように頭を掻いて答える。
「それじゃあ……。行こう!」
弱気な気持ちを振り払うように、真見は真っすぐに前方を見据えた。
真見達はエレベーターに向かって走りはじめた。それに反応するよう、複数のシールド職員がテーザーガンを手に向かってくる。
「……来た!」
走りながら真見は唾を飲み込んだ。




