61.ステージ・ゼロ(3)
「すげえや!あんな大物、見たことない」
公園に現れた巨大なクリーチャーを目にして創が歓声を上げた。真見は思わず顔を歪める。
そこにいたのは巨大な黒いオオサンショウウオのようなクリーチャーだったからだ。ドロドロと体が溶けておぞましい。周囲からも歓声が上がり、銃声があちこちで響いた。
(どうして可愛くないものばっかり作るんだろう。お父さんは……)
真見は心の中で文句を言いながら、創の腕を引っ張った。すぐにでもあの巨大なバーチャル生物に飛び掛かっていきそうだったからだ。
「私達はこっち」
「はあ?こっちって……セル社の本部じゃん」
不機嫌そうな創が真見を見上げる。早くゲームをプレイしたくて堪らないのだろう。
「そう。お父さんは……ここにいる」
「えーっ?あんなに探していなかったのに?」
良が大袈裟に声を上げた。
「灯台下暗しね」
瑠璃の呟きに真見は黙って頷く。
「そう。お父さんは会社を出て消えたんじゃない。会社で消えたんだ。Xさんのことと、私をおびき出していることを合わせて考えたら自然と答えが分かったの」
真見はセル社の本部へ足を急がせながら呟く。そんな真見の推理に良が手を叩いて喜んだ。
「すごい!神野さん名探偵っぽい!」
「そ……そうかな?」
真見が照れていると瑠璃が不愛想にセル社本部を指さした。
「ほら!急ぐ」
「ごめん。そうだね」
真見は咳払いするとシールドが見張るセル社の入り口で足を進めた。当然シールドの職員に止められる。
「こら。君たち、本部の開放時間は終わってるよ。帰りなさい」
一瞬だけ真見の心が揺れる。自分がルールを破っているような気がして気が引けた。しかし真文の為にもここで折れるわけにはいかない。
真見は佳史の立ち振る舞いを思い出す。
(それっぽい言い訳……。ああ、もう、考えながら喋るんだ!私)
「ごめんなさい。お父さんの……神野真文の持ち物を受け取りに来たんです!本当はお昼に取りに来たかったんですけど」
それらしい理由にシールドの二人は黙り込んだ。真見は心の中で祈る。
「そんな話聞いてな……」
「少しの間だけだから!失礼しまーす」
良は二人の男性を押しのけるようにしてセル社本部に足を踏み入れた。続けて真見達もなだれ込む。
『ハンティングモード 特別ステージ解放』
突然その場にいた全員、セル・ディビジョンに通知が入った。真見はすかさず左腕を見下ろす。
「何だ?俺達はゲームなんてプレイしてないぞ」
シールドの職員達が不思議そうに顔を見合わせていた。
(始まった!)
真見は急いで辺りを見渡し、異変を探った。
「今なら……行ける。行こう!」
シールド職員達がセル・ディビジョンに夢中になっているのをいいことに、真見がエレベーターへと駆け出した。
「待って!」
瑠璃が呼び止める声と共にエレベータ近くに立っていたシールドの職員が腰からテーザーガンを抜くのが見えた。
「危ないっ!」
「え?」
真見はテーザーガンの銃口に視線が釘付けになった。瑠璃は叫び声と共に勢いよく右足を踏み切る。
聞き慣れない、電撃音と鈍い音が辺りに響き渡った。
瑠璃が真見に飛びつくと同時に背後のガラス扉が割れた。警報器の音がけたたましく鳴り響く。
真見は瑠璃になされるがままで、一連の動きがスローモーションに見えた。後から此方に向かってテーザーガンが撃ち込まれたのだと理解する。
「おいっ!今のテーザーガン使用は規定違反だぞ!手を上げろ!今すぐ武器を下ろせ!」
テーザーガンを撃ち放った職員に向かって真見達の側に立っていた男性がテーザーガンを向ける。しかしそのシールドの職員が表情を変えることはなかった。
(まさか……!)
真見の胸の中で嫌な予感がよぎる。その瞬間、別方向からの独特な炸裂音が聞こえると共に、すぐそばで声を上げていたシールドの男性が倒れた。
「おい!撃たれたぞ!」
「くそっ」
別のシールドの男性が、撃ってきた職員に向かってテーザーガンを発砲する。光の塊のようなものが照明に当たり建物の中が薄暗くなる。
様子がおかしいシールド職員を見て真見は目を細めた。部屋が薄暗くなったことでその人物のことがより眩しく見える。
真見の脳内に閃光が貫いた。
「一体何がどうなってるの?」
瑠璃が立ち上がりながら文句を言った。真見も瑠璃に続いてゆっくりと立ち上がる。
「幽霊……」
真見が呟くと瑠璃が問い返す。
「じゃあ、さっきのシールドの人って……」
「生きてる人じゃない。本物のシールド職員に作り上げたバーチャル世界の人間だよ」
「だったら……どうしてバーチャル世界の衝撃が現実に?」
「それは……」
真見はサンに巻き付けられたメモの内容を思い出す。あのメモに書かれていたのは雪野が解析した幽霊の正体についてだったのだ。




