60.ステージ・ゼロ(2)
「今夜が勝負ということね」
「……だと思います」
真見は西エリアの森林地帯にて雪野と会話していた。今はサンを飛ばし、生き物の生態調査中だ。
「明日、他の捜査官も命島に上陸する予定なの。セル社には『特命大臣からの第三者による技術調査』っていう話にしてるけど。Xも私達の動きに勘づいたようね……。今の所Xを捕まえる口実は神野さんの拉致しかないけど。それでも構わない。相手も、私達も……時間がない」
ベンチに座った雪野が少し離れたところにいる真見に話した。
「私もそう考えました。Xさんは私と父を捕らえて……全て終わらせるつもりだと」
「そうしたら私は真見ちゃんの向かう場所に行けばいいのね」
「いえ、雪野さんには別にお願いしたいことが……」
「え?」
真見は振り返ると小声で雪野に何かを伝えた。それを耳にした雪野は目を見開く。
「どうしてそのことを……?」
真見は弱々しく頷いた。
「相模診療所で写真を見つけて……閃いたんです」
その後、真見は今後の動きについて雪野に伝えた。全てを聞き終えた雪野はベンチで足を組みなおす。大きなため息の後で言葉を繋いだ。
「……驚いたわ。正直、ここまで推察力のある子だとは思ってなくて。作業者としての働きを期待していたわけではなかったのに……。私は貴方のことちゃんと見てなかったみたい。ありがとう」
雪野の言葉に真見は小さく笑う。不思議と昔のように自己嫌悪に陥ることは無かった。
「私に推察力なんて……ありません。……全部教えてもらったことですから」
そう言って真見は佳史のことを思い浮かべる。
「何よりも自分を信じられるようになったんでしょうね」
「どうでしょうか……。いつも助けてくれる人達がいなくなって自分を信じるしかなくなったんだと思います。自分を信じなければ……お父さんを……この島を守ることはできないから」
真見は真文と佳史を思い浮かべて頭を抱える。自分が変わったのは格好いい理由ではないと自覚していた。それでも今は自分の直感で前に進むしかない。
「自信を持ちなさい。それは紛れもなく貴方の成長であり、力よ」
雪野の力強い言葉を噛み締めた。
「……ありがとうございます」
「貴方の直感。信じてるから」
母と同じ言葉を発する雪野に真見は思わず微笑んだ。
(そうか。人とは違った性質を持っていたとしても……。私は私として認められてたんだ)
「やっと自分の性質の使い道が分かるようになってきました。どんなに自分のことを嫌っても私は私のままで生きていくしかないんです」
真見は正面を見据えると握りこぶしを作る。サンが羽をはためかせ、真見の肩に乗った。
「じゃあ、今夜。お互いベストを尽くしましょう」
「はい」
雪野は片手を上げて森を去って行く。少し寂し気な背中を見送った。真見はこれから起こるであろう出来事に思いを馳せる。
(どうか。悲しい結末になりませんように)
肩に乗ったサンを撫でた。
「何か緊張してきたな……」
真見は口にしながらセル・ディビジョンをハンティングモードに切り替える。電流が体中を駆け巡る感覚がした。
真見の言葉に創が笑う。前髪がヘアピンで留められ、創はやる気満々だった。
「神野デザイナーの娘なのに?でも俺とヨシに掛かればゲーム攻略なんて楽勝だからな!」
「うん。頼りにしてるよ。創君」
真見が微笑むと創がはにかんだような笑みを浮かべる。真見達は学校周辺に集まっていた。他にも子供やセル社の人達もちらほらと目につく。
「あら!貴方達も来てたのね」
「エマさん」
手を振る人物を見て真見達はエマを含めたセル社の社員たちに近づいた。
「エマさんたちもゲームに参加するんですか?」
「ええ。ボスからの指令でね。セル社の社員全員がそうなの。これも実証実験の一環だって。まあ楽しそうだからいいけど」
エマの声を聞いたからか、サンが真見のカーディガンのポケットから顔を出す。
「スカラベの調査資料、ありがとうね。マミの分かりやすくて助かるわ」
「いえ……」
エマがポケットのサンに軽く触れると声を潜めた。
「……マサフミ、まだ見つからないのね」
「はい」
「本部はずっとシールドの人間が出入りして物騒なのよ。早く見つかると良いわね」
そう言って優しく真見の背を叩いた。真見は小さく笑い返して見せる。
「大丈夫ですよ。父は……すぐに見つかりますから」
少し遠くにある明かりが灯るセル社本部のビルを見上げた。
「武器の使い方、分かる?」
「ええと。教えてもらってもいいかな」
真見が困ったように笑うと創が手を前にかざす。すると空中に色鮮やかな銃が浮かび上がった。何度見ても慣れない光景だ。真見も正面に手をかざすと銃を手にする。
赤色のおもちゃのような銃だ。実在しないはずなのに物を持っているような感覚がする。これもセル・ディビジョンが感覚神経を刺激しているせいだからだろうか。
「初心者はハンドガンがいいだろうね。赤いポインターが出てくるからそれをクリーチャーに合わせて撃てばダメージ判定が出んだ」
真見は赤色の銃から真っすぐに赤い光の点が浮かんでいるのが見えた。地面に向かって引き金を引くと、パンっという乾いた音共に腕から振動が伝わってくる。
「弾数は銃の横に出るよ。クリーチャーが出現すると自然とゲームが開始する。弾数にも限りがあるから注意だよ!」
「……分かった」
真見は銃を見下ろしながら頷いた。腕を振って、銃の種類を切り替えていくうちに真見はあることに気が付いて体を硬直させる。
「なあ、ちゃんと聞いてる?」
「だ……大丈夫!聞いてる。聞いてるよ」
創に怒鳴られた真見は慌てて手を振って別の銃に切り替えた。
「クリーチャーからダメージを受けてHPがゼロになったら負け。明日になって体力が回復するまでハンティングモードには参加できないんだ。
ゲーム中に現れる回復道具で回復できればセーフ!あとはプレイヤーの運動神経と反射神経が重要になって来るから」
「……負けたらハンティングモードをプレイできなくなる」
それは真文への道を閉ざすことだけではなくXへの敗北を意味した。真見は自分の頬を叩いて気を引き締める。
セル・ディビジョンでゲームの開始時間を確認する。
(3、2、1……0)
こうしてハンティングモードの新ステージが開幕した。




