59.ステージ・ゼロ(1)
『明後日の朝。第三者調査委員会が島に上陸するそうだ』
「……え?」
『スーパーアイランド開発において急遽確認しなければならない事項があるらしい』
セル社本部、最上階でディスプレイに向かい合っていた田切が小さな声を上げる。通話の相手は時雨大臣だった。
『どういうことか分かるな』
「……」
『上手くやれよ』
たった数秒の通話だったのにどっと疲労感が襲う。田切はデスクの上のホログラム写真を眺めた。その後で夕日に照らされ、赤に染まった部屋を見わたす。
部屋の隅に置かれた棚に視線を移した。左腕に装着されたセル・ディビジョンに触れると棚は忽ち真っ白な箱へと姿を変えてしまう。
(見守っててくれ……)
『My ISLAND ハンティングモード特別ステージ解放』
昨日の夕方、セル・ディビジョンに新たな通知が入った。朝から学校はそのことで沸き立っている。
「特別ステージだって!」
「皆でやろうよ!スコアを出したら賞金も出るらしいよ」
子供達が盛り上がっている中、真見だけは緊張していた。通知の詳細を読み込み、深いため息を吐く。
「神野さん。これって……」
「うん。きっとX《エックス》さんが仕掛けた、私を誘き出す為のイベントだと思う」
教室の片隅で瑠璃と良はセル・ディビジョンを眺めていた。
「そうしたらゲームに参加しないで様子を見る?帯刀さんに真見を守ってもらって……」
「ううん。……敢えてゲームに参加する」
真見は首を横に振った。良と瑠璃は顔を見合わせる。臆病な真見らしくない選択だったからだ。
「何が起こるか分からないよ。また幽霊が出てきたら……!」
「大丈夫。あの幽霊の仕組みは分かってるから」
「え?」
「それと、お父さんの居場所についても分かった気がするんだ」
真見が小声で2人に答えると、良は驚いた声を上げ、瑠璃は目を丸くしていた。
「真見って本当に探偵だったんだね」
瑠璃の言葉に真見が慌てる。幽霊の仕組みは雪野が解明したものだが、2人に説明することはできない。真見は心の中で雪野に詫びながら答える。
「探偵なんて大袈裟だよ。合ってるか分からないけど……。1つ謎が解けると他の謎も解けていった感じかな……。裏活動のお陰かも」
「昨日の推理といい、さっきの神野さん、万野先輩みたいだったもんねー」
「……うん」
良の言葉に真見は曖昧に微笑む。
「それで?Xの思惑に乗って……どうするの?」
「私、ゲーム得意じゃないからさ。協力して欲しいんだ。危ない目に遭うかもしれないけど……」
真見は両手を合わせて二人を見上げた。その瞳はどこかはるか遠くを捉えているようだ。
「直接対決ってわけね……」
瑠璃が腕組をしながら好戦的な目をする。真見は心の中でかっこいいと呟いた。
「これ以上、僕らの島をXの自由にさせる訳にはいかないよ。僕らで何とかしよう!」
緊張感のない、良のガッツポーズを見て真見は肩の力を抜く。
「ありがとう。この勝負、勝って見せるから。お父さんのためにも、この島のためにも!」
真見の決意表明を聞いた良と瑠璃は大きく頷いた。
「もう一人、声を掛けても大丈夫かな?」
そう言って真見が向かったのは創の元だった。前髪の長い少年、創を呼び出す。
「何か用?」
「あの……。今朝、My ISLANDの新ステージが解放したじゃない?それで創君も是非、私達とゲームクリアに協力して欲しいんだけど……」
創の唇が裂けんばかりに左右に伸びた。前髪から微かに覗く瞳が輝いているのが分かる。
「神野デザイナーのゲーム攻略なら任せろ!」
創の様子を見て、真見と瑠璃、良は顔を見合わせて笑った。




