58.解法(2)
「島の事故にクロが関わってるってことだよね?」
良の悲しそうな声色に真見は小さく頷いた。
「うん、残念だけど……。どんなふうに使ったかはまだ考え中」
「あと調べることって?」
真見は桟橋に停まるレオン号を指さす。
「そういえば、今までの転落事故の殆どは海。船着き場で起こってた」
「その近くには必ずレオン号があったはず……」
三人は桟橋へ向かって歩き始めた。
「次の出航まで時間があるから、少しの間なら見ても構わないよ」
「ありがとうございます。失礼します!」
船員に緊張気味に真見は声を掛けた。事件解決のために色んな人に、話しかけることができている自分に真見が一番驚いていた。
知らない人に話しかけるとき、自分がどう思われるか不安になってしまうのだ。それが今日の真見は何の恐れもなくできている。
「どう?何か分かった?」
「僕は何も」
「……」
真見は船の淵から水面を見下ろす。自分が船から落ちた時のことを思い出して少しだけ身がすくむ。恐怖を掻き消すように船員の一人に声を掛けた。
「あの……この船体ってどんな色に光るんですか?」
「ああ、色んな色に光るよ!それだけじゃない、プロジェクションマッピングのように写真やイラストを投影することもできるんだ!今度夜の物資運びをするレオン号を見てみると良いよ」
(色んな色に光る……)
それぞれの事件の結び目は解けそうで解けない。真見はノートにメモを追加しながらぼんやりとする。
「ありがとうございました」
真見達は船員に頭を下げるとその場を後にした。調査を終えた頃には夕日が沈もうとしていた。
「うーん。何だか分かりそうで分かんないんだよねえー」
「私は何も分からない」
「瑠璃、少しは考えたのー?」
前を行く瑠璃と良から少し後ろで真見の頭の中はフル回転していた。
「神野さん、大丈夫?」
「……へ?あっ!う……うん」
良に話しかけられて真見は顔を上げる。
そこには心配そうに真見を見下ろす良の姿があった。隣で瑠璃も振り返って真見を眺めている。
「神野さんずっと無理してるよね……。そうだ!万野先輩に考えるの手伝ってもらうのはどうかな?」
「それは駄目!」
真見は声を上げた。2人は真見の大声に肩をびくつかせる。その様子を見て真見は冷や汗を掻いた。
(やっちゃった……!万野先輩に情報を伝える訳には行かないし、敵だって伝えて二人を傷つけたくない)
真見は考え抜いた末に苦し紛れの理由を並べる。
「……万野さんに頼らず解決しよう。私も推理ができるようになってきたし!何ともないって言っても病み上がりな訳だからさ!ね?私達だけで解決して万野さんを驚かせよう!」
「そう?」
良は不服そうな表情を浮かべていたが、瑠璃はあっさり承諾した。
「真見は万野先輩を危険な目に遭わせたくないんだ」
「え……と。あ、うん」
(絶対また勘違いしてる。都合がいいからこのままにしておこう!恥ずかしいけど!)
少しだけ楽しそうな瑠璃を恨めしく思いながらも真見は頷いた。良はまだ納得できないという顔をしていたが仕方なく了承する。
「分かったよー。だけど無理は禁物。ちゃんと僕らを頼ってね。神野さん、抱え込みすぎるから」
「……うん。ありがとう」
真見は弱々しく答える。良は頭の後ろで手を組みながら呟いた。
「この光景も作り出せる日が来るのかな?」
「え?」
夕日が海の色を朱色に美しく塗りつぶす。その光景を眺めながら真見達は防波堤沿いを歩いた。良の思いもよらない言葉に真見は首を傾げる。
「My ISLANDがリリースしてからさー、何が実物で何がバーチャル世界のものか分からないじゃん。もしかして今見てる光景も全部セル・ディビジョンに見せられてるものだったりして」
「そんなわけないでしょ」
ぼんやりとした良の言葉に瑠璃がため息交じりに答えた。
「自分を信じて、本物を見極めなくてどうするの」
真見の脳内に閃光が貫いた。
『真見はね。真実を見極めることのできる子。これからの時代、きっとそういう力が必要になる。
その力で人を助けることのできる優しい子に育って欲しいと思って名付けたんだよ……』
真文の優しい声が聞こえた気がした。
(そっか……私の名前の由来ってそうだったんだ。やっと思い出せた)
萎れていた自信が戻ってくる。真見の鋭い五感は、直感は真見を苦しめるためにあったのではない。人を助けるためにあったのだ。
答えに辿り着いた真見は腹の底から勇気が湧いて来た。父と母から声援を受けているような気持ちになる。
そのすぐ後、真見の脳内を無数の言葉と映像が支配した。
偽物、本物、鏡、水面……。今まで見聞きしてきた言葉たちが硬い結び目を解いていく。
(2回目の転落事故はそうやって起きたんだ……!)
真見は二人に向かって声を上げた。
「2人とも、聞いてくれるかな?」
瑠璃と良が足を止めて不思議そうに真見を見た。
「Xさんのことと……今までの事故のことなんだけど」
夕日の中、三つの人影が確かにそこにあった。真見が推理を語り終えた後、こう締めくくった。
「これから……Xさんが動き出すと思う。私の……直感だけど」
今までに見たことのない、真見の引き締まった表情に瑠璃と良は息を呑んだ。
その姿は今までの頼りなさげな少女のものではない。涙の跡は乾き、その表情は戦いの前の兵士のようだ。
真見の言葉に反応したかのように、3人のセル・ディビジョンに通知が入った。




