55.最初の事件(2)
「僕が8歳でお父さんが29歳の時、自殺したんだって聞いた。赤ん坊の頃からお父さんは本島にいきっぱなしで……話をしたり遊んだりした記憶はなくてさ」
「自殺……」
真見は言葉を失う。自殺率の高い国だと理解していたがまさかここまで身近なものだとは思わなかった。
「田切君と良仁はセル社で技術研究生として招かれていた。田切君は高校生の時からセル社と関わっているんだ。
開発技術が上層部に奪われた結果、良仁は自殺したらしい。そんな中で田切君は着々とセル社内での力を蓄え、日本本社においてトップに立った」
「それじゃあ、田切さんと扇さんは島を出た後も仲が良かったんですね。」
「ああ。良が赤ん坊の時、田切君が一度だけ家に来たことがあった。気心の知れた仲だったよ。それがこんなことになっちまうとはな……。希望の無い世の中だ。
馬鹿娘は子供を置いてどこかに消えちまうし。扇家も息子が死ぬと同時に一族諸共島を立ち去っちまったんだからな」
真見は良の境遇と現代社会の在り方を嘆いた。自然と悲しみが胸に流れ込んでくる。人の悲しみに触れる度、真見の心はいつも強く揺さぶられた。
(どうしてそんなに才能溢れる人が死んじゃったんだろう。どうして、相模君が一人取り残されなきゃいけなかったんだろう……)
一度流れ始めた涙は止めることができない。泣いているのに気が付いた有志と良が心配そうに真見の顔を覗き込んだ。
「真見ちゃん!大丈夫かい?」
「神野さん……」
瑠璃が冷静にテーブルの上のティッシュボックスを手渡した。真見は静かに目元を拭くと自分を奮い立たせた。
(泣いてばっかりダメだな。私……)
息を大きく吸うと有志に問いかける。涙を拭ってしっかりと前を見据えた。
「命島が……廃島になりかけた時のことを詳しく教えてもらえますか?」
「廃島になりかけた頃って……。12年前のことか?」
「はい」
真見は鼻をかみながら返事をする。有志は箸を止めて話し始めた。
「島の人口も俺達を合わせて200名ぐらいしかいなくてな……。ライフラインの整備が覚束なくなってきた。そこでずっと前から持ち上がっていた有害物質の埋め立て地の話が出てくるようになったんだ。当然島に残っていた住人は反対した。
残念ながら当時の村長は自らの益を優先したんだ。埋立地になる話が進みそうになった頃……事故が起きた」
有志の『事故』という言葉に真見は固まった。ガイダンスでも村長が亡くなった話は聞いていたがまさか事故だとは思わなかった。意図的にこの事故が隠されているように思えてならない。
(資料室で検索した事故数5件のうち、始まりの1件がこの事故だったんだ……)
「死んだんだよ。村長が。宴会のあと、防波堤でね」
「……本当に事故だったんですか?」
真見の言葉に有志が唸り声を上げる。
「当時は殺されたんじゃないかと言われてたな……。何せ島民全員に恨まれていたし。本島の警察も念入りに聞き込みしてたよ。当時は開発前で監視カメラもないどころか街灯も少なかったからな。
防波堤のコンクリートが脆くなっていたこと、村長が酔っていたこともあって事故だろうということになったんだ。それから埋立地の話は流れて、セル社と田切君がやって来たというわけだ」
「……最初の転落事故……」
4年前のレオン号での転落事故よりも前から島の異変は始まっていたのだ。真見の目の色が変わる。
(それが島を変えるきっかけになったんだ……)
「その事故何か、変なこととかありませんでしたか?なんでもいいんですけど!」
真見の言葉に有志が考え込む。
「変なことか?そういえば、田切君。宴会で最後に島長と会話していたのが彼だったから酷く疑われてたなー。だけど結局、扇君と一緒に居たというアリバイがあったから良かったけどよー。事件だという証拠は何も見つからなかったんだ。争った跡も何もないんだからな。所持品は埋立地に関する紙切れ一枚ぐらいだったもんよ」
真見の頭の中でいくつもの紐が絡まり、結び目を作る。何かが分かりかけているのにそれが何か分からない。
「そうですか……。ありがとうございました!」
「というか真見。帯刀さんに止められたのに事件のこと調べてるの?」
お椀を手にした瑠璃に突っ込まれ真見は言葉に窮した。
「調べてないよ!ただ気になったから聞いただけ!」
「ふうん……」
慌てふためく真見を他所に瑠璃は味噌汁をすする。誤魔化し切れたのか分からないが真見は胸を撫で下ろす。
「この島も色々あったもんだ。俺の家族もだけどよ。早く見つかると良いなお父さん」
「はい。すみません……辛いことまで思い出させてしまって」
「いいんだよ。全部通り過ぎたことだ。それに真見ちゃんを泣かしちまったし。逆に悪かったな」
真見は顔を赤らませた。おずおずと良に視線を向けると良も笑顔を浮かべて頷いている。
「あ……!それともう一つお伺いしたいことが!」
真見が慌てて写真の映像を浮かび上がらせる。
「この子ってどなたかご存知ですか?」
真見は田切の前に座る子供を指さした。気になった顔があったので聞いてみることにしたのだ。それを見て有志が大笑いする。
「ああ!確か……湊さんとこの子だったかな?一家全員本島に移住してからは長いこと交流はないな」
「そうですか……」
真見は黙り込むと再び思考し始めた。
(一つの事件が全ての事件に繋がってる……?)




